Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

個性とは何ぞや

 「個性が生かせない」と言ったのは欠員補充で急遽中途採用した人で、個性云々はその彼が前任者との引き継ぎ不備を理由に僕に辞めたいと言ってきたときのひとことだ。前職のファミレスは完全にマニュアル化していて引継ぎの不安がなかった、と弱音を吐くので、僕はひとまず引き継ぎの不備を詫び、それが原因とするトラブルが発生しても責任は取ると言った。不安を取り除けば解決すると思ったから。すると彼は、こういう事務処理的なつまらないことで足を引っ張られると、まあこれが冒頭の言葉に繋がるわけだが、創造的な仕事が出来ない、個性を生かせないと言う。引き継ぎ云々よりそれが本音らしかった。

 

 個性。個性を生かすってなんだろう?半分は彼への、そして半分は自分への問いかけだ。「他人とは違う自分にしか出来ない仕事です」「その違いとやらがお客さんにどういうプラスがあるの?」返答に窮している彼を見ているうちに僕はもう自分で設定した「イイ上司イメクラ」に飽き飽きしている。そもそも僕は飛び出せファインプレーな個性はいらないと考えている。

 

 以前、営業部の行動管理や評価について数字だけを対象にするよう上申したことがある。数字だけがいいかどうかはともかく、上司貢献度とか幹事ポイントとか宴会設定その他わけのわからん項目があってのを是正したかったのだ。却下された。そのときの上役の答えは、数字だけでは営業マンの個性が蔑ろにされる可能性があるというもので、今日みたいに「出たよ個性」「ハイハイ個性」となったのを思い出した。

 

 「そんな個性はいらない」僕はぴしりと言いきった。「引き継ぎの有無程度で左右されるレベルの個性的な仕事なんていらないよ」。「でも私は営業企画職で入ったのですから…だいいち事務作業的な仕事は楽しくないですよ」つって不満そうなので「責任は取るから目の前の仕事をこなしてもらえないかな。先ずは。個性とかクリエイティブとかいらないからさ」。

 

 それでも不満そうなので「やってくれよ。あのね個性はきちがえてない?突飛なことしなくても普通の仕事でも自分出せるよ。ひとつひとつの仕事でも速さとか精度とか丁寧さで個性出せるよ。今、僕が求めてるのそれ。むしろ前任者に関係なく自分の色出せるじゃん」。そこまで話をして、反撃を待っていたが、あっさりと引き下がっていく彼を見て僕は彼の「個性的な部下イメクラ」に付き合わされたと知る。くだらん。

 


 冷蔵庫に入ったり、電車で全裸になったり、人と違うことをわざわざするのが個性じゃない。人と同じことをするなかで違いを出せることが個性なのだ。個性は、違いは、結果に生まれるものだ。一方でスティーブ・ジョブズやジョン・レノンのように圧倒的な個の力、個性がイノベーションを起こすこともわかっている。アイフォンはほとんど神の仕事。神じゃない普通の現代人な僕らは奇をてらわずディテールにこだわることだ。仕事も遊びも真摯に取り組むことだ。とことん真剣に。とことん馬鹿に。もしかするとそのディテールへのこだわりがイノベーションに繋がるかもしれないし、たとえそれが、ほんの些細な個性の現れに終わったとしても、僕らの個性は、イノベーションを生むような圧倒的個性に劣らない尊いものだと僕は思うのだ。