Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

営業部よ永遠なれ

 僕が課長として籍を置く営業部がピンチ、大ピンチだ。会社の業績悪化により、この夏からの次期にでも他事業部に統廃合されると噂されているのだ。なぜ廃されるのかというと数字を生み出さない、非生産的な部署だからだそうである。
 
 苦しい。僕らの日々の営業活動を投資ではなく、無駄といわれては。仕方ない。現在、営業部は部長不在のため会社上層部内での立場が弱いからだ。直近の営業部長が「なるへそ」「なるへそ」の連呼とともにもたらした数多の災厄は会社全体のトラウマとなっており「二度とあのような悲劇を起こしてはならない。営業部の暴走は絶対にさせない。営業部の交戦権は、これを認めない」と終戦直後の日本のように固く誓った上層部が営業部長を空席にさせている。なるへそ。
 
 手始めに総務部長が我が営業部の部長を兼務しそうだ。長年にわたり独立性を保ってきた営業部門のトップが管理部門に占領される。管理部門によるシビリアンコントロールだ、レコンキスタだ。それほど大きくない会社だ。常々僕は飲みの席で同年代の同僚に「こんな小さな会社でセクショナリズムとは馬鹿らしい」「もっと部署間での異動を活発にして既成概念にとらわれない斬新な発想でやらなきゃダメなんだ」「営業出身の総務部長や経理部長もありなんだよ!もちろんその逆も!」と唾を飛ばしていた。
 
 はっきり言おう。実現しないと思っていたから言えた。意識の高い人が目をピカピカさせながら夢幻を語るのと一緒だ。舌の根も乾かないうちにこんなことを言うのは人間性を疑われるかもしれないが、部署間の異動なんかめんどくさくてクソだし、何より、営業を知らない人間に営業を仕切られるのはイヤだ。営業部の独立のために負けるわけにはいかない。先月配属された超優秀な部下たちも「課長…。課長の下でないと楽に働けません!」「課長〜。立場上表立って支持はしませんが営業部を守ってください」と僕を支持してくれている。余談になるが、彼らは30分毎にタバコ休憩に行くようになった。速攻で職場に慣れた部下を僕は素直に嬉しいと思う。
 
 総務部長の目論見は営業部にも、日々、カネ、現金を生み出すような仕組みを取り入れることだ。10年前の発注直後から倉庫に眠ったままになっている、国際問題になるので具体的な国名は控えさせていただくが現在日本と島の領有権を争っている某国クオリティの酷い代物である、タワシと入浴剤。それを営業部員に持ち歩かせ営業活動の最中や合間に売らせる。二個セットで1500円(税別)。
 
 そんなアホなことを考えているらしい。《タワシ界をナメている》《タワシ専門の営業マンやタワシだけで生計を立てている方を愚弄している》そんな綺麗事を言うつもりはないが「タワシいかぁすかー?」と声を張り上げて得意先をまわりたくない、その姿を親族や友人に見られたくないとピュアに思う。
 
 一方、営業部を強化するという建前で人員が増強されることも決まっている。他部署から精鋭が集ってくる。口は達者だが協調性がなく仕事も出来ない三十代男性。いつも不気味に揺れていて何を考えているかわからない五十代男性。組織でやっていくにはきっつい精鋭たちがやってくる。強化でなく弱体化なのはアホでもわかる。これは管理部門による営業部解体だ。タワシ営業で追い込んだ後、まとめて肩を叩かれる、営業部丸ごとリストラ。今、僕はその恐怖に震えている。タワシを両手に震えている。
 
 営業部がどうなるかはわからない。僕に出来ることは馬車馬のように働いて僕一人ででも営業部予算達成し、それを手土産に営業部を守ることだ。厳しい戦いが予想される。けれども昔とは違う。今の僕には部下がいる。怖いものなんてない。僕はもうひとりじゃない。ひとりじゃないことがこんなに心強いだなんて。僕は、部下を犠牲にして生き残る。彼らを盾とするか、踏み台にするか、思案している。サラリーマン・ライフは残酷で、ときに綺麗事だけではダメなのだ。