Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

昇給申請書を出してきた自称仕事出来るマンをリストラしたった。

先日、たまたま入った地元の中華料理屋で、「昇給申請書」なる忌々しい書類のことを思い出してしまった。というのもその店で先輩と思われる店員が後輩店員に対して、何回も言わせんなろーッ、そうじゃないろーッ、つって厳しい指導をしている光景が、昇給申請書を僕に思い出させたのだ。間違いだらけの仕事出来るアッピール、客商売なのだから見えないところでやれ、というのが率直な感想だ。仕事愛だか、師弟愛だか、知らないしどうでもいいが、五目チャーハンを食べている目の前でそんなマスターベーション見せつけられても、飯がマズくなるだけだ。かつて、その店員によく似た人物が昇給申請書を上げてきたことがあった。セルフ昇給申請書。思い出すだけで忌々しいその文書は、前の会社にいたとき、自称仕事出来るマンから僕に上がってきたものだ。それを受領したとき、驚きながらも、面倒くさそうな近未来の到来を予想して、きっつー、と呟いてしまったのを1年以上も経ってしまった今でも、つい昨日のことのように覚えている。上司が部下の昇格や昇給を要請する書類は見たことはあったが、私は仕事が出来る、私はよくやっている、私は給料が上がるべき人間だ、私は、私は、そんなセルフ昇給申請書なるものを目の当たりにするのは初めてだったからだ。当事、僕は統括本部長という名で営業の責任者と事業部長を兼務していた。偉そうに聞こえるが従業員から嫌われずにリストラを遂行しようとしていた当事のボスの、良くいえば盾あるいは露払い、悪くいえばただの嫌われ役にすぎなかった。昇給申請書の中身は「人材不足の中で現場を維持してこれだけの仕事をこなしているから、私の給料を上げてください」というアグレッシブなものだった。当人のことを詳しく知らないので、周りの人間に聞くと「仕事やってるアピールも凄いが、仕事は出来る」という評価であった。予算以上の数字を叩き出しているわけではないのに、何をもって「仕事が出来る」なのか営業の僕には理解に苦しむが、昇給を申請するからには借金や連帯保証人のような人生に関わる何らかの重大な事情があると思い、一応、検討することにした。その後、当人の仕事ぶりの観察結果と、現場スタッフからのヒアリングを経て、僕はその昇給申請を却下した。そして彼の名をリストラ対象リストの筆頭に加えた。会社がリストラ待ったなしの状況にあるのを知りながら昇給申請書を出すのは感情的に、ないわー、だがそれで処分を決めたわけではない。僕には評価についてひとつだけ決めているルールがあって、それは「好き嫌いで人を評価しないこと」。今は亡き部長や必要悪くんを僕はまったく評価していないが、それは彼らのことが嫌いだからではなく、ピュアに評価に値しない人物だっただけだ。好きな人物でも仕事上評価しない場合もあるし、その逆もある。昇給申請書を上げた彼は自称仕事出来るマン。彼に任せた事業所の出す平凡な数字と会社平均より高いパートスタッフの離職率。それらと周囲の彼への高い評価が僕の中で一致しなかったのだ。僕は営業部にいて直接彼のことを知らなかったおかげで、逆に彼のことが見えていたのかもしれない。距離があったので記憶や印象ではなく記録を材料に判断を下せた。僕は、観察とヒアリングにより、彼の言い分「本社が人不足を解消出来ない分を私はやって差し上げている」の実態をほぼ正確に把握していた。パートスタッフへのパワハラまがいの厳しすぎる指導。いったん出来ないと判断すれば無視するなどしてプレッシャーをかけて退職に追い込む。人不足の原因が人不足を嘆いていたと僕は判断したのだ。確かに規定より少ない人員で仕事はこなしている。予算も達成している。本社サイド、数値上から見れば問題なしとされるかもしれないが僕は看過できなかった。本社に呼び出して注意すると、今まで通り昇給が通ると信じていた(常習犯だった!)彼は不満を漏らした。あろうことか彼は昇給申請が通らないのであれば現場副責任者と退職すると言った。「辞められたら困るでしょう?」脅しである。「まったく」と僕は言った。やせ我慢でなく全然困らないので、手続きに則って彼の解雇を決めた。多少現場はバタつくことは覚悟していたが不採算で撤退した別の事業所の人員を当てて乗り切った。結果的に僕はこのようなリストラの数々による心身の消耗を理由に退職、今はホワイトな会社に就職しているし、あの現場の職場環境は改善され人材は定着、サービスも向上してクライアントからの評価は上々になったし、僕が解雇した彼はいまだに定職につけずに苦労しているなど、関わった人たち皆がハッピーになれたので、今はあのリストラの判断は正しかったと思っている。このように程度の差こそあれ、「仕事が出来る」を勘違いしているモンスターは案外多いので、印象や記憶といった曖昧なものを評価基準にしないこと、自己評価をあてにしないことが大事なのだ。「昇給申請書とかないわー」と周りには言いつつ僕が退職前の悪あがきで似たような文書をボスに提出出来たのも、「俺仕事出来ますよ」と己を高く売ったのが功を奏して転職が叶ったのも、あのときのセルフ昇給申請書のおかげといえばおかげなので、感謝とかおかしいかもしれないがそれなりに感謝している。(所要時間26分)