Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

天皇陛下のカレーライス

   こんなツイートが話題になっていた。話題になったのは、陛下の食に対するスタンスに感銘を受けたから、そして「どれだけ不味いカレーライスなのか」「そこまでカレーが不味くなるのか」という不味いカレーライスに対する興味からだろう。はっきりいってカレーは、素人でも不味く作るほうが難しい。普通に作れば、そこそこのものが出来る。プロの調理師のいる学食ならなおさらである。さいわい、僕も学生のときに食べられないレベルのカレーライスには出会ったことはない。ただ、学食ならではの事情で不味くなりうるのもカレーライスなのである。当時の学習院大学学食がどういう運営をされているのかわからないので、なぜ学食のカレーは不味くなるのか、僕の経験から考えてみる。実は、前職の研修で学食の厨房に2週間ほど入ったことがある(東海地方の大学学食)。毎日提供されるカレーライスがどのように作られ提供されているか見てきた経験から学食のカレーライスが不味くなる理由について考察してみよう。


大前提にあるのは一般的に学食の運営はどこも厳しいということ。学食専門で受託運営している給食会社が倒産したニュースも記憶に新しい。

元給食営業マンが話題の大学学食倒産を考察してみた。 - Everything you've ever Dreamed

学校サイドから(委託費/運営費)補助がない場合、運営はかなり厳しいものになる(あっても厳しいけど)。売上が少ないからだ。基本的に(一般開放されていても)対象者は限定されているし、運営期間も短いからだ。年間180日もあればいいほうではないだろうか。
①「学食カレーライスの厳しすぎるコスト」 というわけでカレーライスにも学食運営の厳しさは反映される。僕が研修で入っていた学食のカレーライスは原価120円だった(販売価格は250円だった…はず)。原価におさめるために食材は格安なものになる。学食はお米のランクは低いものを使用。肉は少なめで見つけられたらラッキーなレベル。野菜は安いものを使用、じゃがいも、人参、玉ねぎがごく少々。それでもカレーライス単体でのコスト的に厳しいので、前日に炊いた白米をふかしたものを使う。カレールウをかけてしまえばごまかせる。カレールウ自体も前日に具材を入れて仕上げたものを使う。既製品のルウは薄める。ボソボソになったライスにしゃばしゃばになった野菜の入ったルウで美味しいカレーライスになるわけがない。
②「学食カレーライスの値段」 他にもメニューがあるのにカレーライスが犠牲になるのは学食のカレーライスが安いからだ。一般的に他のメニューより安く設定されていて、利益が確保できない。お金がない学生に人気があるので、メニューから削ることも許されない。学食を任されている業者が力を入れる意味がない。
③「学食カレーライスは手抜きができる」 カレーは手抜きができるというのも要因だろう。学食カレーライスのサンプルを思い出してもらいたい。いたって普通であるはずだ。食器に盛り付けられたごはんにカレールウがかけられている。日替わり定食は見た目でわかるような手抜きができない。たとえば先月のから揚げ定食には5個ついていたから揚げが今月は3個にするようなことは許されない。即クレームになるからだ。ちなみにルウをライスにかける理由については以前書いた。

不味いカレーライスは1秒見れば分かる。 - Everything you've ever Dreamed

学食のカレーライスが不味くなるのは上記3つの理由が大きい。調理師にカレーに対して妙なこだわりがあって、偏った味覚と趣向から奇天烈なオリジナル学食カレーライスを作ってしまった実例を知っているけれども、それは例外だろう。

学食カレーライスが不味くなる理由はおわかりいただけたと思う。でも学食のカレーライスがずっと不味いままである理由にはなっていない。それにプロだったら、美味しいものを提供しなければならないのではないかと思うのが一般的だ。でも、学食の不味いカレーライスはプロだからこそなのだ。あえて、美味しくないカレーライスにしているのだ。僕が研修で入った現場では、カレーライスを美味しくしてはいかん、という空気が確かにあった。

学食のカレーライスは安い。カレーライスは国民食といわれることもあるように、嫌いな人も少ない。もし、美味しく作ってしまって、学生の人気が集中してしまったら、利益が確保出来ずに、その学生食堂の運営は圧迫される。だから、あえて美味しくつくらない。あえて不味いカレーライスを提供し続けることによって、定食などの他の価格の高いメニューに人を流す。「それがプロだ」と研修先の現場責任者が教えてくれた。陛下が食べられていた学食のカレーライスも、あえて不味いままにされていたのではないか。つまり「学食の」カレーライスならではの事情から不味いものになっていたのだと僕は推測する。国民的人気のあるカレーライスゆえの悲劇である。

もっとも、これは15年も前の話だ。当時と比べると顧客重視になって、現在の学生食堂は充実したものになっている。カレーライスも専門店に負けないくらいのものを提供しているところもある。もし、今陛下が学食でカレーライスを食されたら、米一粒も残さない、ではなく、おかわりをお願いしたくなるのではないかな。そういう美味しすぎる学食のカレーライスが増えてくれることを、食品業界の片隅に身を置くものとして願うばかりである。(所要時間25分)