Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

20年間の営業マン生活で僕が身につけた、成果を出し続けられるようになる消極的一期一会スタンスについて全部話す。

昨日、部下氏から「客に嫌われたかもしれません」という悩み相談を受けた。僕は今後の進め方を助言したあとで「やるじゃないか」と評価を伝えたのだけれど、どうやら部下氏はピンと来なかったようで「意地悪やめてくださいよ〜」なんて泣き言を漏らしていた。意地悪ではない。僕は、嫌われるくらいのことを言えなければ成果は長期的に出せないと考えている。

好かれるのと嫌われるのは表裏一体、紙一重だ。嫌われている人、苦手な相手が、ある商談を経て、大の得意先になった経験は何度もある。あえて感情をおさえて厳しい意見を出し合い、着地点を見つけて、進めていくのが仕事のあり方だ。営業の場合、相手が客であるケースが多いだけでその本質は変わらない。だが、相手が客になってしまうと、途端に思考停止してしまう。「嫌われたくない」「嫌われては契約が取れない」という恐怖がその本質を忘れさせてしまうようだ。若い頃の僕も同じだった。ある、ひとつの心がけを教わるまでは。

四半世紀の会社員生活で観察を続けてみてわかったことがある。営業という職種にかぎらず継続的に結果を出せない人は相手に好かれたい、嫌われたくないという意識が強すぎる傾向があるということだ。 なぜ結果につながらないのか。簡単だ。好かれたい、嫌われたくない、というのは自分の立場を守る100%利己的なスタンスであり、利他ではないからだ。

昨今、仕事のスタンスとして「自分を売り込む」「ファンを作る」と言われている。それらを表面的に解釈し、相手に好かれたいがために相手に都合の良いことしか言わなくなってる人が実に多い。打ち合わせや商談で「いいっすねー」しか言わない営業マンをたまに見かけないだろうか。長いスパンで見たときどうだろう?「いいっすねー!」で契約を取り続けられるだろうか。はっきりいってしまえば勝てるときは何をしても勝てる。誰でも勝てる。「いいっすねー」で勝てる。だが、いい局面、勝てる局面ばかりは続かない。勝ち続けるためには厳しい局面を打開していくことが不可欠になる。相手にとってネガティブな印象を持たれることも言わなければならない局面が必ずある。たとえば他社製品のほうが自社製品よりも相手のニーズに合致しているとき何を提案するのか。また相手の購買意欲を下げてしまうかもしれない自社サービスのマイナス面の話をできるか。そういった微妙な局面は相手にとっていい話、気持ちのいいことを言うだけだけでは乗り切れないのだ。

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『美女と野獣』のガストンのように「嫌われ者になれ」という話ではない。誰だって嫌われたくない。僕とて同じだ。嫌われてしまう覚悟は持ちながら相手と着地点を探っていくという話だ。そういう観点からいえば表面的なファンづくりは継続的に結果を出すことの障害にしかならない。

偉そうなことを言っているが僕も似たようなものである。大卒で入って数年間、ダメダメな営業マンだった僕は、当時通っていたスナックにいたベテラン営業マンから「消極的一期一会の覚悟」を教わってから道が開けた。消極的一期一会に即効性はなかったけれども、確実に僕の成約確率を高めてくれた。その人は何十年も新規開発営業の現場で生きてきた人で、本当の一期一会がどういうものなのか、その他の営業テクニックとあわせて、丁寧に説明してくれたあとに「消極的な一期一会」というワンフレーズに落とし込んで教えてくれたのだ。感謝しかない。僕は今でも商談や打ち合わせの前には「消極的な一期一会」を頭に浮かべてのぞんでいる。困っているひとにもすすめている。

消極的一期一会はシンプルな原則だ。この出会いは一度きりだから大切に、良いものにしようという一期一会を、少々ネガティブに消極的に寄せてとらえて、「今日で話をするのは最後。どうせ今後会わないのだから」という意識をもって相手に対峙するのだ。その場かぎりと決めれば、相手にうまいことを言って好かれたいとも思わないし、嫌われることを怖れなくなる。つまり自分の立場を「どうでもよいポジ」に置くことによってその面談のあいだにおいて利他的になれるのだ。主役の座を相手に譲って考えられるようになるのだ。

僕は四半世紀ほど営業という仕事をやってきて同僚や競合他社、別業界、さまざまな職種の人間を見てきたけれど口先で良いことばかり言っている人よりも、こういう消極的な一期一会なスタンスを持っている人のほうが結果を出している。逆にいえば、結果を出し続けている人はその人なりの消極的一期一会を持っている。

人間は基本的に自分の聞きたい話しか聞かないように出来ている。嫌な話、面白くない話は誰でも聞きたくない。当たり前だ。だが、仕事を進めるうえでは相手が聞きたくないような話をしていかなければならない。自分を捨てて、相手の嫌がるような話を出来るかどうかが継続して結果を出せる人と出せない人を分けるのだ。これは営業にかぎらずあらゆる職種にあてはまることだろう。「消極的なスタンスが相手にとってプラスになり、自分に返ってくるのだから、面白いだろ」というスナックでの言葉は今も僕のなかにあり続けているし、これからもあり続けるだろう。(所要時間32分)

こういうエピソード満載の本を去年出した。→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。