Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

会社オワタ\(^o^)/

 「\(^o^)/ヤター楽しい会社できたよー」(id:Delete_All:20091019:1255969532)のつづき


 十月の朝、冷たい風が吹きすさぶ羽田空港に僕と部長はいた。出張のためだ。「羽田はハブ空港になる…。俺も一匹のハブになって顧客に噛み付いてやる…」って意味不明に力が入っている部長は甚だ鬱陶しかった。出張の理由?部長が旧知の得意先との約束を無視黙殺したことを謝罪するためだ。あの日。部長は得意先との約束を無視した。あのとき。部長は林檎狩りに興じていた。同行した僕は部長に言われるがままに関越道でアクセルを踏み部長の欲望のままに林檎狩りをしたのだ。勿論当然先方激怒。そりゃね。


 林檎狩りの翌日、朝礼後のラジオ体操の音楽にリズミカルにのった部長が僕の隣にぴょんぴょん飛んできた。跳躍移動すれば目立つのが道理。同僚たちの視線は冷たい。「四国まで謝罪にいくぞ。今回は俺に51%責任がある。仕事が出来る男は自分のケツは自分でふく…」と熱い部長。100%責任負えって。僕は幕内力士がウンコする際、ウンコが付着しないように尻肉を持ち上げてヘルプする付き人の気持ちがわかる気がした。つーか四国なの?「件のお客って関越道沿いですよね?」「状況の変化に対応しろ…香川だ…」。ああ、本当に林檎狩りだけの旅行だったんすね部長。ラジオ体操が終わった。ラジオ体操は第一にしてほしい。第二はダイナミックすぎてこういうときテンションがさがるさがる。


 飛行機で飛んだり電車に揺られたりして香川県。高松市でレンタカーに乗り込んで「見ろー土佐だ!リョーマゆかりの土地だ!うおお」と香川の中心で竜馬だ土佐だと叫ぶ部長を無視しているうちに、ここでいいねとカーナビが言ったから十月二十日は到着記念日。応接間に通されて恰幅のいい社長が現れるや否や速攻二人で頭を下げた。「このたびは」部長が切り出す。「大変失礼いたしました…実は御社よおおおうりいいいいも重要な用件が入ってしまいまして行けない旨を連絡しようとしたのですがついうっかり…」《御社よりも云々》はいらねー。でもラッキー聞こえてないっぽい。活舌が悪くていいこともあるもんだ。


 部長の謝罪は続いた。「その連絡をここにいるうっかり者で大馬鹿者の部下に任せてしまい…大変ご迷惑をおかけしました。」えー!51%の責任はどうなってんすか部長って死にかけていると部長が「わたくしに免じて何卒ナニトゾ…ほらもっと頭を下げろ」とかいってぐいぐいと手で僕の頭を下げてきて、もうこいつはいつか絶対殺…殺…うぐうぐ僕涙目。すると社長は「神奈川からはるばる…かえって悪いことをしてしまいましたね…」とおっしゃってくれた。僕と部長がいえいえいやいやそんなことはありますありませんとやっていると、社長は優しい笑顔をうかべて「腹をわって嘘偽りない話をしましょう」と言ってくださった。「なるへそ。それならお言葉にー甘えて…」と部長は気色の悪い笑みをたたえて言葉を紡ぎ始めた。


 「実はお約束したあの日は林檎狩りに行っておりまして、今いいんですよ林檎が。ええ。仕事してたら平日の空いている時間帯に行けないじゃないですか林檎狩り。場所ですか?香川でなく群馬です。本当は青森まで足を伸ばしたかったのですが、我々神奈川じゃないですか、青森にいくとなると香川に足を運ぶのと距離も手間もそう変わらなくなってしまうじゃないですかあ。それじゃ意味ないですよね気軽に林檎狩りしたいだけですから。さ、どうぞどうぞ。今日お持ちした林檎はそのとき私が狩ったものなんですよ。わはは」。わははじゃねーよ。こいつ…頭大丈夫か?何いってるんだ?って部長を睨みつけてから視線を戻すと先方の社長の顔が赤リンゴちゃんで既にゲームオーバー。部長、腹割りすぎだ…腹を割るならいっそ今ここで切腹してくれ…そうすればまだ望みは…。僕の願いをきく神は香川にはいなかった。


 重苦しい空気から逃れ酒をがぶがぶ飲みながら帰ってきて小便をして寝て起きると、疲労困憊だったんだね僕、洗面所の流しが小便臭くなっていた。んで会社に行って土産の讃岐うどん味ベビースターを食べていると先方から案の定契約打ち切りの連絡があった。その連絡を受けた部長は「見ろおおお!俺はコストカッターだ!カミソリのように切れる男だあ!」と周囲に吹聴し終えると偽りの報告をするために社長室へ走っていった。ここ数年、こんな馬鹿みたいなことの繰り返しで取引先を失い続けている僕の会社は「ダメ。ゼッタイ。」どころかたぶんすでに死んでいる。