拝啓。元気でやっているか。兄はあいかわらずのインポで面白くない日々だ。イーディーと呼ぶのがちかごろの流行りのようだが、その呼び方にはどこか気障の色があるように思え、兄は好きではない。一昨日より八戸にいる。出張だ。出張、というと、浅はかなお前はセクシャルなこの兄の顔と言動を心に浮かべ、風俗と早とちりするだろうが残念ながら仕事だ。
こちらはとても寒い。比喩ではなくインポの芯まで凍えそうだ。青森の冷気にふれ、兄はお前が好きだった古いCMを思い出した。零下の世界ではバナナも凍って固くなり釘も打てるほどであるがわが社の製品は零下でも床上手な愛人の如くトロトロジュルジュルと潤滑でごじゃるよ、というエンジンオイルのCMだ。だから兄は寂れた旅館で飯、メザシ、梅干、一夜干し、梨をたいらげ出会い系サイト閲覧に飽き(ところでホ別二という若者言葉を知っているか。ラブホテル代は別で二万円、という意味の言葉だ。この歳になるまで世間知らずの兄は知らなかった)手持ち無沙汰になると、窓をあけて部屋に冷気をいれたのだ。バナナですら固くなる零下において、インポが固くならないはずがあろうか。南無三！兄にとっては世紀の事業であった。日本男子らしく結論からいいませう。兄は駄目であった。とことんぴくりとも駄目であった。兄はバナナに負けた。失敬。バナナに逸れた話をインポにもどす。兄のウタマロは冷気にさらしてもいっこうに零下バナナの如く固くならず、正座をしようが胡坐をかこうが逆立ちをしようがいつまでも零下オイルのようにトロトロで、いつまでもイカのようにクニャクニャであった。旅館の梁に釘は打てなかった。ただ、負け惜しみではないが先端からはみぞれ雪が溢れていたこと、その一事のみは付け加えておく。
こうして兄の世紀の事業は壮烈な敗北に終わった。兄はこれから悲しみのバナナをかじりながらみぞれ雪の降る津軽海峡へバス観光に向かふ。敗残者の兄からお前にお願いがある。実家の母がハードディスクレコーダーとブルーレイプレイヤーの操作を覚えた。信じられないだろうがテレビ映画を録画編集CMをカットしてブルーレイディスクに記録するまでできるようになった。暇さえあれば録画編集記録。そこでお前にお願いがある。録画してある番組を一篇、母に悟られぬよう消してもらいたい。その一篇は「おねだり！！マスカット」という情操教育番組だ。内容が難解故、再生せずに消去されたし。それともうひとつ。プレイヤーのなかに入れたままになっているＤＶＤを返却して貰いたい。キ。モ。メ。ン。パ。イ。○。ン。女。子。○。生。制。○。強。制。乱。交。(順不同)。銀盤に踊る文字列には兄弟の情けで目をつむってほしい。北国からこんな願いをするのは母に刺激を与えたくない、その一念に尽きる。お前に母を思う気持ちがあるならばトロトロの兄の要請をうけてくれ。そして、これからはこの兄にかわりお前が母を支えるのだ。いろいろな意味の立身に兄は疲れた。
告白しよう。兄はお前に負い目を感じ続けて生きてきた。小学生時代、兄が六年、お前が三年の夏風呂。先に毛が生えてきたお前をみて、以来、兄は敗北者気分で生きてきたのだ。兄者気にするな、すぐ生える、お前の純粋な優しさがどれだけこの兄を傷つけたことか！お前に情けがあるなら兄の要請を受けるほかないはずだ。最後に、なぜインターネットに私信をさらしているか不思議に思うかもしれぬがその原因はお前にある故、赦せ。兄に先んじて生やしたうえ、兄の電話を着信拒否、兄のメールを受信拒否、そんな慈悲のない弟が人間があるか。お前の内裏、息子にインポこぼれ話をしたことは拒否されねばならぬほどの罪なのか。トロトロの兄は悲しい。悲しみで雪のようにとけてなくなってしまいそうだ。これを閲覧したら光の速さで連絡をくれ。さもなくばまた犯人不明の非通知電話が夕から朝までお前の携帯を鳴らし続けるだろう、生まれたばかりのお前の赤ん坊がかわいそうではないか、兄はそんな構図はみたくない。ＤＶＤの延滞は十日間故、それなりの金銭を用意されたし。では。
