我輩はインポである。営みはまだない。夫婦になって1ヶ月になるがいっぺんもない。元レイヤー、現戦国時代好き歴女西軍派の妻に「悪いね。シノさんせっかく結婚したのに悪いね。ガンダムが立たなくて。ビームジャベリンが壊れてて」というと「毘沙門天様も女性説があるほどホモインポで有名でしたからあ〜」と彼女のフィールドで慰めるだけにとどまらず、夫婦愛なのだろう、僕の大好きなガンダムにたとえ「オヤカタサマー…負けナイデー!…ファーストガンダムだって後半は合体シーン、ありませんよよよ〜」と言ってくれる。そんな優しさがかえって僕を傷つける。詫びたくなる。愛する妻に。そして、忘れられたコアファイターに。
居酒屋魚民鎌倉東口駅前店で盃を傾ける僕に妻は言う。いつか治ると。それはいつだ?人はいつかインポさえ支配できるのか。本当に?希望が失望にならない?光る宇宙。増える頭痛。中ジョッキ追加。妻は言う。キミは生きているから大丈夫です。そう。僕は生きている。僕の雄が生きている。結婚以来溜め込んだ僕の股間は大きく膨れ上がっていた。黒く垂れた茄子のように。中ジョッキ追加。自慰をとりおこなうにも妻によって所有していたエロ漫画アダルトDVDは廃棄され、それなら夫という枠組みに己を当てはめ卑下・自嘲する太宰治的手法で新たな刺激を獲得しようと夫婦会議で申請した新作DVD「夫の遺影を肛門にブチ込まれた妻」の購入は妻に却下された。遺影イエイ。中ジョッキ追加。
妻よ。居酒屋でチューハイを飲んでいる君は知っているだろうか悶々とした僕のキモチを。自慰がしたい。痛切に。悪いことに床に入るとそこには嫁のEカップ。悪いことは重なるものでダブルっつうから買ったベッドがセミダブルだったりして狭く、狭いということはEカップと近いということだ。悶々。中ジョッキ追加。妻よ。誇りにおもってほしい。「妻をオカズにしろ」という悪魔の声には屈しなかったこの僕を。僕は妻が眠るのを待って闇の底セミダブルの上でうつ伏せになり腰を動かしマットレスを愛した。過去に視聴したアダルト作品のクライマックスシーンのセピア色にかすんだ記憶を頼りに。愛する妻を愛する故にマットレスを愛した。妻を起こさないよう静かに、揺らさないようにマットレスとその上に敷いたタオルを愛した。愛に乾杯。中ジョッキ追加。
キモチいいっ。声が出ちゃう。荒くなる息。アッー!荒波のように押し寄せてくる劣情に対して僕は口をマットレスに埋めて抵抗した。うもいいい(キモチいい)。はいほー(最高)。サウンドオブサイレンス。寝返りを装い、円、8の字、メビウス、Z、卍、川、◎。マットレスのカンバスに様々な文字や模様を描くように腰と臀部を動かした。妻が寝返りをうつたびに静止して偽りのイビキをかいた。嘘の寝言をいった。「むにゃむにゃシノ、愛してる…」。告白しよう。僕は興奮していた。妻に隠れて行う淫靡な行為に。憧れの潜入、スパイ気分を味わえる時間に。スネーク!ああインポでも新婚生活がこんなに楽しめるなんて!素晴らしき哉、人生!人生に乾杯。中ジョッキ追加。
居酒屋を出て我が家に向かった。妻が腕を組んでくる。遠回りして夜の八幡様へ。こういうのっていいよね。妻がいう。「ごめんね」「なにが」あやまるのは僕のほうだ。「なにもできなくて」「いいんだよ。それに悪いのは僕のほうだ」「夫婦死ぬときは一緒ぞ!」「死なない。死なない!」「オヤカタサマ…英雄色を好むもの。その色が多少キテレツ斎でも私は何もいいませんですう〜」「へっ何それ」「今日は深く深く寝ているフリをしているので存分におやりください〜」「アッー!」。全部知られていた。一瞬、死にたくなるが死にたくない。死ぬのは、この、僕には過ぎたる妻を存分に愛してからだ。この僕の茄子のように膨らんだもので。治るまで、ちょっと時間がかかるかもしれないけど、ま、いいや。秋茄子は嫁に食わすなって言うだろ?
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