「これリアルJKに見えますかー?」
そう言って妻は僕に画像を見せた。携帯サイトにアップするものらしい。修正して顔がわからいようにしてあるもの。プリクラを利用したもの。僕は、耳にわずかな水が残っているときのような違和感を感じながら「見ようによっては…」と答えた。「全世界全人類からリアルに見えないと困るんですぅー」妻の言葉。そして先日から部屋に山積みされている赤、青、黄色のピーチジョン下着。僕のなかにあったぼんやりとした違和感がはっきりと形になっていった。妻よ。それ本当にコスプレなのか?
妻を詰問する。昂ぶって言葉が通常の三倍程度の三倍程度の三倍程度の早口になる。「いやいやいや普通のサイトじゃないっしょ。それそれそれ。下着や制服を売るとかセルとかする犯罪の温床的なゼロ年代的なサイトじゃないの?」「フミコフミオ…」妻は僕の名前を呼ぶが僕はおかまいなしに続けた。「くっそー!いつもそうだ!いつもそうだ!いつもそうやって…あなたは何やってんです!?」。言葉を紡ぎながら僕は別の情景を思い出していた。先日、妻の要請で制服を買いにいったブルセラショップ。真剣な眼差しで壁に貼られた写真と制服をみつめていた男たち。彼らは僕だ。真面目に仕事や学業を放り出して、青き衣をまといし者がリアルなJKと信じて、目線も言葉も交ぜることなく、さながら求道者のような顔面の。この怒りと悲しみをあらわす言葉を僕はもっていなかった。つまらない、借り物の言葉しかなくなる。
「今の僕は君の夫だ。それ以上でもそれ以下でもない。だが、自分の妻が高校生だと偽るのは断じて許せん。そもそも見えないよ。JKに見えない。ああああ全然見えない。もう27でしょ。雨はじかないっしょ」。いちど使ってみたかったZガンダムの名台詞をアレンジ。最近夫婦で観直しているのだよZガンダム。夫婦共通の話題から切り込むテクニック。それから、僕は、やめよーね、ホントーは大人なのに高校生だと身分を詐称してパンツを売るのはやめまちょーね、よーく考えよーと年少の妻を諭すように言った。「見えるっつーの。売らないっつーの」聞いたことのない妻の声がした。声がうわずる。「ハイ?」。
妻は声を荒げていった。「発想が貧困でつまらない…君のどこがロックなんですか?そんな大人修正してやる!」妻がむんずと床に落ちていたショッキングピンクのものを掴んで僕に投げつけた。グレネードかっ?「これが若さか…」投げつけられたピーチジョン下着を手に自嘲するのが僕の精一杯の反撃であった。
JKに見えないという一言が地雷であったらしい。現役JK3として運営しているらしい妻の携帯サイトは恐くて見れない。部屋にあるパンツが通販されていたら普通やだろ?あなたの目にはリアルJKに見えますか?今、僕の人を見る目が試されている。
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電子書籍を書きました。「impress QuickBooks」(インプレス・クイックブックス)の第二弾です。役に立たないようで少しだけ役に立つ、そんな感じの文章です。真面目なソウルとライトな感覚で書きました。よろしく。
「恥のススメ〜「社会の窓」を広げよう〜」
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