Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

妻と別居中にイジりすぎて病気になりました。

 「ちょっとーイジりすぎですよ。子供じゃないんですから」病院でお医者様に笑われてしまった。一昨日の朝、体の中心部に発生した痛みは、昨夜から耐え難いものになっていた。新年早々、病院に駆け込む羽目になるとは。初詣で引いたおみくじは大吉だったはずだ。はじめての大吉。《願望/叶う 待人/来る》。神は死んだかもしれない。イジリすぎは否めない。猫と犬どちらが可愛いかで紛糾したのを発端に勃発した第6次夫婦戦争の影響で、妻と別居していた年末年始数日間、彼女がいないことをいいことに自分自身をイジリまくっていたからだ。僕は、女子大生が、好きだ。僕にとって、風呂上がりにおっ始めた冷凍ピザを銀盆に見立てたアキラ100%の真似事に飽きてしまうと、秘密裏に購入してあった《女子大生がタオル1枚で男湯に入る》というあらすじの映像作品を視聴するのは、ごくごく自然の流れに沿ったものだった。

 プレイヤーをオンにしてから、ソファーの上で大の字になり、そっとウーパールーパーに手を添えてみる。大吉おみくじによれば病は年内に治るはずだが、僕のウーパールーパーはいつも通りにクタッと元気がなかった。僕はタオル1枚で男湯に飛び込む女子大生を背景に「キノコの山のそのオックに!タケノコの子の里があったとさー!」と口ずさみながらウーパールーパーをリズムに合わせて揺さぶってみた。「立派なキノコやタケノコになりたい!」叫びにも似た祈りとともに。マニュアル車のシフトアップ‐ダウンの要領で。だが、彼は力なく首を揺らすばかりで、その様子は僕に「バカヤロー!どうして死ぬんだよー」という叫び声と共に揺らされる死者の姿を想わせた。

 異変に気付いたのはウーパールーパーとの力感の欠けた格闘の最中だ。臍が、ヘソが、おかしいのだ。ヘソの穴から黒く、ヒモ状のものが顔を覗かせていた。1センチくらいか?ゴミが詰まっていては女子大生どころではない。ハッケヨーイ!僕は一喝しながらそれを抜いて捨てた。あらためてヘソを調べると複雑な形状をしたヘソのあちらこちらにゴマ状のものが挟まっているのが見えた。それらをプラモ用ピンセットで取り出して捨てた。ヘソ内部のシワというかヒダを押し広げてみると奥の方にゴマを見つけた。いくらかの苦労の末にそれらも排除した。するとまた別のシワヒダの奥にゴマがあって…という調子でヘソ採掘、流行りの言葉で言ってしまうと≪ヘソ・マイニング≫に没頭した。それでヘソにバイ菌が入り炎症を起こしてしまった。その症状にお医者様は《臍炎》(さいえん)と診断を下した。

 臍炎(さいえん)は基本的に小さい子供がかかる病気らしいが、このサイエンスの時代でも、大人も患ってしまうことがあるらしい。「ヘソはデリケートですからね、汚いものに触れたあとそのまま触っては駄目ですよ」と注意された。穴を弄らなくなった男は男として終了~という事実をドクターは忘れてしまったようだ。それから「なにか汚ないものに触れた心当たりはありますか?」という問いに対して僕は「汚れた換気扇を少々…」と嘘で返した。自分の、不憫なウーパールーパーを汚物扱いされたことがとても悲しかった。自ら汚物扱いしたのが後ろめたかった。まだ痛みは引かないけれど、今は処方された薬を塗っておとなしくしている(それだけで治るらしい)。大吉のおみくじをもう一度眺めた。≪大吉≫。それから僕は火事を伝えるテレビ・ニュースと自分の間にひろがる空間に手を伸ばしてそれを確認するように折りたたんだ。《願望/叶う 待人/来る》神様はいた。だが勘違いをしている。僕が望むのは臍炎ではなく、女子大に通う才媛なのだから。帰ってきた妻のアニメ声がヘソに響く。「何をしたらオヘソにバイキンが入るのですか…」。今、ウーパールーパーは僕の下の方で小さくうずくまっている。(所要時間20分)