Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

COVID‐19は営業ノルマを廃止するチャンスになるのか社長との対話のなかで考えてみた。

「営業ノルマを廃止しませんか?」ボス(社長)に対してこのような大胆な提案をしたのは、ボスから、アフターコロナでもウィズコロナでも名称はどうでもいいのだけれど、時代の変化にあわせて今後の営業活動計画を見直すよう言われて、出しても出しても「こんなもので本当に結果が出せるのか」「時代がどう変わるのか正確に見通せ」とモグラ叩きのごとくボコボコに叩かれ、いよいよ後がなくなったからである。ヤケクソである。

 僕は食品会社の営業部長。営業という仕事を四半世紀やってきた。その四半世紀はノルマとの戦いでもあった。ノルマには功罪ある。功は、目標の明確化やモチベーション維持など。罪は、強引すぎる営業につながる可能性があること、ノルマ自体が数値を達成したときにブレーキをかけ、意図的に次の期へ数字を繰越すといったストッパーになりうることなど。特に高ノルマが強引な手段や不正につながり問題となったケースを何度も見てきたので、前々からチャンスがあればノルマをなくしたいと考えてきた。新型コロナをそのチャンスととらえたのだ。

 新型コロナの感染拡大以降、これまでの営業の手法の多くは無効化した。以前と同様のノルマ設定はおのずと高ノルマになり、達成のために強引な手法に走って顧客に迷惑をかけてしまうという最悪なパターンに陥る可能性もある。そういう悲観的な未来予想図から「ノルマをなくそう」という提案が出てきたのだ。ボスは「個々のノルマをなくしても、キミの部下たちはきちんと仕事ができるか?自発的に営業をかけて数字をもってこれるか?キミは彼らを信じられるか?私は無理だと思うよ」と揺さぶってきた。きっぱりと「わたしは部下を信じています」

 

…と言えたらどれだけ素敵だろう。「無理ですね」僕はあっさり降参していた。 「ノルマ自体を引き下げます」「低い目標は低い達成しか得られない」「個々のノルマを廃して営業部全体のノルマを皆で共有します」「営業部全体のノルマが達成できなかったとき、その要因となった者がつるし上げに遭わないか?」「ではやはりノルマを全面的に廃止…」「社員が楽をするだけの結果になったらキミの責任だよ」ボスは僕の提案をひとつずつ潰していった。

 何度もやられて僕が至った結論は、営業ノルマの維持だった。昨今の変化のポジティブな面に目を向けると、新しい営業のやり方の可能性がなんとなく見えてきたからだ。たとえば対面面談からオンラインや電話での営業にシフトすることで、顧客との面談までの時間と手間は確実に減った。5分や10分といった細切れの時間で面談ができるようになったのも大きい。成約までに至るかはもう少し観察する必要はあるけれども、顧客と接する機会はコロナ前よりも増えていることがデータで出ている。これらはポジティブな要素だ。営業泣かせの、話は聞かないけれど、会いに来た回数や置いていった名刺の枚数を数えているような、効率の悪い客を避けられるのもいい。「こんなご時世ですから手短に」といって、家族の愚痴、ダジャレ、無駄な雑談を聞かされることを避けて初っ端から本題へ入れるようになったのもプラスだ。

 こういった傾向をみて僕はミーティングで「これからの営業における面談はショート・スパイス・シンプルが求められるよ~」と言ったら、「概ね同意ですが、ショート・スパイス・シンプルは昭和感しかないので客先では言わないでください。恥ずかしい」と懇願された。イチ営業として現場に出て意外な発見もあった。ショート・スパイス・シンプルを突き詰めてオンラインで商談をしたあとのことだ。相手から「圧のつよい営業マンに押し切られたり、テクニカルな営業マンの話術に騙されるんじゃないかと思っていたけれど、オンラインで簡潔にビジネスの話だけをするなら精神的に楽だ」と言われたのだ。確かに営業マンアレルギーを持っている人はいる。そういう人でもオンラインで距離を置き、かつ短時間の商談であればアレルギーを起こしにくい。これは思わぬ発見だった。これからは営業アレルギー持ちも対象にしていくことができるかもしれない。

 そのほかにも交通費の削減や事故の減少なポジティブな要素はある。もちろん、課題をあげればキリはないが、ポジティブな変化をうまく活用して、これまでのやり方にとらわれずに軌道修正しながら、目標としてのノルマ達成を目指す、というのが僕の考え方でそれをもとにした計画を出してボスからも了承を得た。ノルマをなくしても数値を出し続けるようなチームが理想である。だが、性悪説にとらわれている僕には難しかった。部下各位よ、信じてあげられなくてすまない…。

 そして昨日おこなわれた営業会議の冒頭、営業部員全員の前でボスが「(略)最後になりますが、新型コロナ感染拡大にともなう社会情勢の変化に対して、私としては営業部員の負担を減らすためにノルマを廃止したいと考えていたが、営業部長たっての希望によりノルマは維持することになりました~」という話をした。話がちがう。直後に「鬼」「冷血」「人でなし」とでも言ってくるような営業部全体からの冷ややかな視線。きっつー。僕のノルマ廃止提案に反対したのはボス、あなたではないか…。このように、おそろしいのは感染症よりも人間なのである。(所要時間45分)