Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

乳首を立てろーホッホッホ!(浴衣ガール救出大作戦)

 風呂最高。マジ最高。この季節、仕事を終えてからの風呂ラブ。僕は息子に声をかけバスルームへ向かう。「おぉい!一緒にお風呂入ろう」この「おぉい!」と声を掛ける瞬間。「立派な息子を授けてくれてアリガトウ」と部長を除く世界中の全人類と宗教を超えた全ての神々に感謝したくなる瞬間だ。


 小さな息子にお湯をかけて、「痒いとこあるかぁ」とか「今日はくっせえなあ」とか軽口を叩きながらごしゅごしゅと頭と首周りを洗ってやる。僕は直毛だが息子は天然パーマ。こいつ本当に僕の息子なのかな?なんて疑問符が末尾に付着したつまらない思いを振り払うように力強く洗ってやる。息子を洗い終え、手に残った泡をリサイクルして自分の頭を洗い、全身を洗い、全ての泡をすっきりと流して湯船に息子から入れ、次に僕が入る。湯船につかって百まで数えながらその日あった出来事を話し合うのが僕と息子の約束事だ。いーち。にーい。さーん…。


 僕は数字を読み上げるのを小さい息子に任せてこのあいだの出来事を話すことにした。僕の戦いの記録を、無惨な記憶を伝えなければいけない。首も座っていない息子に教えなければいけない。それが父親の責務だ。端的にいえば僕は人様の前で乳首を立ててしまった。左右平等に立てた。息子の影が湯気で揺れる。逃げも隠れもしない。僕は乳首を立ててしまった。宴席の乳首当てゲームで、恥も外聞も忘れ、ただ快楽のままに乳首を突起させた。シャツの上からでもわかるくらいに鮮明に。息子は無言を続けた。反応なし。呆れているのかもしれない。その小さな体で情けないと感じているのかもしれない。


 言い訳にしか聞こえないかもしれないがもう少しだけ聞いてほしい。それでもあの夜、新宿西口思い出横丁にいた僕は勇敢だったと自負している。左右に飲み屋が立ち並ぶ通りを両の乳首を立てたまま威風堂々と歩いた。そしておっ立てた両の乳首を顧みることなく、酔っぱらった浴衣ガールがバランスを崩し転びそうになるのを助けた。周りの人間は「危ない」と声にならない叫びをあげるだけで行動に移せない腑抜けばかり。僕は違った。サンダーバード精神と下心のハーモニーが僕を突き動かした。浴衣の帯は通常の洋服、例えば真夏に着るようなワンピースに比べると固い生地だ。敏感になった乳首が擦れたとき、その帯は性的に凶器となる。乳首が擦れた。喘ぎ声が出そうになるのを堪えながら浴衣ガールの腰を支点に胸と尻をがっしりと両腕で支えた。


 湯気が流れ小さい息子の全容が明確になる。浴衣ガールと僕のカラダは密着していた。浴衣ガールは僕の敏感な耳元で吐息混じりに甘い愛の台詞を囁いた。「あ〜酔った〜うぃ〜フ〜。」息子よ。僕は感謝している。お前が乳首ほど敏感でないことに。きゅーじゅーく。ひゃーく!湯船での独り言を終えた僕は三十路を越えてから欠かさず行っている、ムスコを冷水とお湯に交互に浸す儀式を正確に三度行い風呂場を後にした。