Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・螺巌篇 または私は如何にして私がインポだと知っているおばはんと臨終プレイをするに至ったか。

昨日のつづき。


 ロックじゃない。シノさんのお母さんを迎えに行く車中、後部座席でカップ酒を飲みながら僕は呟いていた。「こんなのはロックじゃない」。ロックンローラーとお見合いは相性が最悪だ。ビートルズはお見合いをした結果、メンバー間に修復不能の亀裂が走った。シドはお見合い相手のナンシーと破滅した。お見合いをしたブライアンは60年代にプールで浮き、お見合い写真が下唇ベロンだったせいで相手が見つからなかったミックは21世紀も飛び跳ねている。ジミヘンがウッドストックでお見合い写真を燃やしている映像は有名だ。


 暗い歴史を振り返ってまた呟く。こんなのはロックじゃない。ロッ、クゥ、じゃじゃ、なない。うわ、舌咬んだ。シノさんポンピングブレーキやめてー。赤信号、減速のたびにブレーキを連打。激しく揺れながら走るNISSANティーダ。胃の底から湧き起こる吐き気は安酒の香り。ロックイズデッド。


 シノさんは僕のお見合い相手でスザンヌ似の25歳推定Dカップ。ごく普通の僕らはごく普通のお見合いをし、ごく普通に破談になりました。でもただ一つ違っていたのは、シノさんは戦国好き西軍派趣味ドールのコスプレイヤーノッピー☆だったのです。うう、こんなのロ、ロッ、クゥゥじゃ、ない。「目的地到着ですうー!疾きこと風の如く!キミは独り言が多くてニュータイプみたいですね…」とシノさんが言った。バイオレントな運転ですっかり気持ち悪くなった僕はしずかなること林の如し。


  愛機≪ゴールドライタン≫を駐車場に停めてから僕らはシノさん母改めオホホおばさんがいる店をカップ酒片手に探し始めた。手掛かりは店の名前、クラブ≪ヴィトン≫。「ないなあー」「ないですうー」。3分後。「もう見つからないねーめんどくさいなあービール飲みたいなあー」「ないですうー」。10分後。「もしかしてこの店かな…」「…オヤカタサマー…ガクブルガクブル」。あった。スナック≪微豚≫。暗い雑居ビルの地下一階だった。蛍光灯が点滅して隣の女の顔に青い影を落とした。女は老けてみえた。カーツ大佐が王国から持ち込んだ熱帯の空気が僕のブリーフを吹き抜けていく。


 扉を開けた。シャンデリアの光の中で赤青白3人のおばちゃんが踊り狂っていた。赤青白のおばちゃんが踊る様は床屋の軒先でくるくる回る『あめんぼう』に似ていた。青=オホホおばさんは回転の中心でひときわ奇天烈な動きをしていた。「あらー。シノー早かったわねー」「おかーさん帰るですうー」「あら、ムコ殿も一緒じゃないオホホホ。仲いいのねオホホホ」「ズグダンズンブングンゲームやってないで帰るですうー」「もう少しズグダンズンブングンゲームやらしてよオホホホホホ」。オホホ、ですうー、オホですうー、ズグダンズグダン。グダグダ。つーかオホホおばさん無事じゃんか。あー早く家帰ってビール飲みたい。と思った矢先にオホホおばさんが滑ってオホホホ絶叫しながら倒れた。「おかーさーん危ないですうー」。オホホホー。倒れても笑ってる。


 ビールを飲みたい気分に圧倒されかけていたけれどオホホを助けないわけにもいかないので仕方なく助ける。僕がオホホの頭、シノさんがオホホの足をもって持ち上げる。ビール何杯分の労働よこれ。飲みてー。「じゃあ掛け声だすから合わせて持ち上げるよ」「わかりましたァ」「イクよー」「わかりましたァ」。よし。「ふたりはあああー」と僕。「プリキュア!」と二人。中空に浮かせたオホホをそのまま、せーので、近くのソファに投げ飛ばした。キリモミ飛行をしながらもオホホ。ええーい、インポーの知り合いは化け物か。


 ソファーで臨終のオホホがいう。「あなたたち、本当に仲良しなのね。シノ、素敵な人に会えてよかったわね。ムコ殿ちょっと…」。僕はオホホの口元に顔を寄せた。「ムコ殿、シノは小学校であなたに助けられてからずっとあなたのことを見ていました。中学、高校もあなたのことを見ていました。熱病のように、ただ、あなただけを。シノにはあなただけしかいないの。だからお願い。シノと一緒になってあげて。インポだって添え木を当てれば乗り越えられるわ」「お母さん…」。一万年と二千年前からあ〜い〜し〜て〜る〜。シノさんのカラオケ、『創世のアクエリオン』。


 「今、お母さんっていったわねオホホホ」。僕、35歳、カナガワ育ち。「おばさん酔ってますね」。ノッピー☆、25歳、ダサイタマ育ち。「酔ってまーすオホホホ。さあもう一度お母さんって呼んでオホホー」。…。どうやったら年齢も離れていて育った土地も違う僕とシノさんが一緒の学校に行けるんだっつーの、すぐバレるような嘘つくなよ。。僕の望む、落ちついたお茶の間、静かな生活をこの人たちと築けるだろうか?無理だよなーって頭を振る。楽しいけど。


 「シノさん、あとは任せた」「ディルド君によろしくですうー」。 車をシノさんに預けて店の外に出るとすぐに携帯電話が鳴った。母親からだ。話の内容は聞かなくてもわかった。僕の言動は常に監視され報告されている。ジーパンのポケットから名刺が出てきた。謎教団の名刺。蘇る言葉。「ピラミッド生命磁場のズレが顕著に見られるあなたには地球自身のアセンション干渉によって災いが降りかかるだろう」。災いか。いつしか携帯電話は大人しくなっていた。月は見えず、雲までの距離はわからなかった。夏の夜風にカップ酒を手に僕はひとり。

予告


なぜか仏像と共に自室に幽閉されるフミコフミオ。


ついに処方されるバイアグラ。胎動する海綿体。


暗躍するフォトン教と虎おばさん


強行されるお台場ガンダム見学


そして久喜より帰省するシノの妹レナ


次第に壊れていくフミコフミオの物語は、果して何処へと続くのか



次回 私の異常なお見合い・黎明篇



さぁ〜て、この次も、サービス、サービスゥ!