読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

さとり世代の若者と禅問答してみた。

日記
夏がくれば溺れ出す、なんてろくでもない替え歌を歌いながら海の家で焼きそばをつくりつづけている。若者はいいなぁ、特権だね、水はじくね、ウォータープルーフだね、とぼやいている僕にさとり世代に属するバイト君が「課長。いやユニットリーダーにも若者の時はあったはずですよね」と言ってきた。
f:id:Delete_All:20140812125035j:plain
 
役職をわざわざ蔑称に言い換えるところが憎々しいが我慢して話を促すと彼は「課長、いやユニットリーダーが若い頃はバブル期で盛り上がっていたじゃないですか」と決めつけ、その後は僕らの時代は厳しい云々とつまらないことを言い続けている。お部屋。自転車。食べ物。恋人。何でもシェアしているうちに脳も分割してしまったのだろう。想像力に欠けている。アラフォーイコールバブル。それは僕の業でもある。バブル世代という誤解、僕はそんな十字架を背負って生きている。
 
 
僕はバブルの恩恵を受けていない。まったくだ。むしろ鼻先にバブルという人参をぶら下げられ走り続け、ゴールしたときにはバブルが弾け飛んでいた馬が僕だ。まったく知らないほうがどれだけ幸せだったことだろう。
 
 
毎晩の合コン。ネオンの下にばらまかれるタクシーチケット。夜の帳に踊り狂うワンレンボディコンTバック赤坂プリンス。高校時代。11PMやトゥナイトが映し出す華やかなナイトライフを僕らは見せつけられ、そして卒業を待たずにバブルは終わっていた。山一証券も潰れた。いいことがある。華やかで楽しいことが。ずっと、そんなお預けを食らっている気分だ。知らない方が幸せだった。今も目をとじるとお立ち台の上で踊り狂う荒木師匠が鮮やかに蘇る。
 
 
この感覚は僕の世代しかわからないと思ったので、バブルなんて少しかじっただけだよと答えてから反撃する。「でも今はいいよなぁ。LINEとかで簡単に異性とやり取りとか出来てさー。悩みとか聞くふりして楽勝にゲットできるんじゃないの?」。するとバイト君はグリーングリーンを歌ったあとのような悲しげで澄み渡った目をして「いや、時代時代でコミュニケーションツールはあったはずですよ」と極めて冷静。
 
 
そんなものあったか?想像力が働かない。うまく像が結べない。あるはずがなかった。1991の高3の夏、Z会と触れ合うばかりで異性との接触はなかったから。軽音部のちゃらい奴らが追っかけ的な後輩ブスとちゃらちゃらしているのを指をくわえて眺めていただけの夏の日の1991。「なかったよ。それに異性にも興味なかった」僕は嘘をついた。ブスでもいい。とにかく女の子に触れたかった。「課長」彼は言った。その瞬間バイト君の中で僕はユニットリーダーではなくなっていた。
 
 
「何?」「課長、僕らと同じ感覚、考え方、ライフスタイルですね」よくわからない。「何が?」「恋愛が面倒くさい。恋人に縛られるのも面倒。同じじゃないですか。正解です。それは時間の無駄です。僕は僕を生きたい」僕のなかで急上昇するバイト君の非モテ度と好感度。「バイト君彼女とかいないの?」「ないですね。いらないですよ。セフレならともかく、彼女とか面倒ですよ。今は。そんなものに縛られているより大学にいるあいだに身につけておきたいことがありすぎて…」
 
 
立派すぎる。僕は感動のあまり接客をしていたバイトちゃんに声をかけた。バイトちゃんはちょっと地味な感じの地元高校生だ。「すごいんだよ、彼。大学でやりたいことがあるから恋人はいらないんだって。セフレならありとか信じられる?」無言。「信じられません…」バイトちゃんの声が暗い。僕はバイト君を見た。口をパクパクさせて魚のようだ。あかん。空気が重すぎる。いやいやいや、僕は声を張り上げた。頭の中をぐるぐる巡るJKセフレという言葉を払いのけるように大きな声で。
 
 
「いやいやいや。ところで君は何でこんな海の家でバイトしているのかな」白々しかった。バイト君は憎らしいほど冷静に「そうですねー。仲間たちと目標を達成する喜びをシェアしたいのと働くことを通じて大学では得られない気付きを得られるからですかね」。彼は肝心な気付いていない。焼きそばつくりから得られることなんて皆無だということに気付いていない。バイトちゃんは陰のようになって接客に戻っていった。
 
 
何事もなかったかのようにバイト君は続けた。「課長はLINEやってますか?」「やってるよ。友達になる?」「いや、いいです。プライベートと仕事はきっちり分けたいし、無駄は排除したいので」無駄。音がした。僕の自尊心が砕ける音だ。やはり彼は肝心なことに気付いてない。肝心なことがわかっていない。何がさとり世代だ。何も悟ってやしない。悟っているポーズをしてるだけだ。これだから若者は嫌いなんだ。今、僕はバイト君を女子高生への淫行条例違反と僕への名誉毀損で告発するか悩んでいるところだ。
 
 
 
・「かみぷろ」さんでエッセイ連載中。「人間だもの。」 (http://kamipro.com/blog/?cat=98
 
・ぐるなびさんの「みんなのごはん」にてエッセイ連載中。
フミコフミオの夫婦前菜  http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1526