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【続々】元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。

神奈川県大磯町の中学校給食が異常な残食率と異物混入件数から「マズい学校給食」としてニュースになっているのを受けて先日このような記事を二本書かせていただいた。

 元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。 - Everything you've ever Dreamed

 【続】元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。 - Everything you've ever Dreamed

記事の主旨は業務を受託した業者に非難が集中しているが、委託する側の町の姿勢にも問題が見られること、車で一時間かかる県央エリアに拠点を持つ給食会社に弁当デリバリー方式で業務委託すること自体が安全性の面で問題があることを神奈川で営業活動をしていた元給食営業マンの立場から言っておきたかったからだ。その根底には、この大磯町のケースは極めて酷いレアケースであり、給食会社や給食業界そのものに悪いイメージを持って欲しくないという思いがある。昨日、この件の続報が届いた。

 神奈川・大磯の中学給食休止 食べ残しや異物混入相次ぎ:朝日新聞デジタル

13日付、つまり本日付で弁当の配達を止めることになった。詳細はわからないが業者サイドからの申し入れらしい。代替の業者はまだ見つかっていないようだが、見つけるのはかなり困難ではないかと思われる(僕の予想に反していい業者が見つかればいい)。今回の記事はなぜ代替の業者が見つからないのか、委託給食業界の特性というファクターから考察しながら、最後に今回の業者選定の採点結果に触れてみたい。まず給食会社、委託給食という業界が飲食業界の中でもローリスクなビジネスモデルであることを前提条件として知っていただきたい。たとえば社員食堂の場合、契約形態にもよるが、一般的に食堂運営にかかる光熱費、厨房機器、食器什器、食堂ホール設備(イス・テーブル等)、空調費、専門清掃費などは委託側負担となる(例外あり)。基本的にはテナント料もかからない(大規模店舗および官公庁の食堂などの例外あり)。つまり給食会社はスタッフとノウハウだけを提供するだけでいい。たとえば駅前にあるラーメン屋ならば上記のものはすべて店で負担しなければならないが、社員食堂の場合、ほとんどコスト負担なく給食会社は事業展開が出来るのだ。食数の見通しも立てやすい。つまりリスクが少ない。大磯町と契約していたデリバリー方式の給食会社も基本的に同じで、既存の自社工場が稼働していれば(生産を集中する分、労務費が圧縮される)食数もほぼ固定なうえ契約期間内の委託料は約束されるので一般の外食と比べればリスクははるかに少ない。リスクが少ない分、販売価格を自由に決定できないこともあって利益を確保するのが難しい面もある。限られた売上のなかで最大限の利益を確保しなければならないからだ。そうなると削られがちなのは食材と労務費。つまり犠牲になるのはクオリティと安全性。大磯町の件はそれが極端な形であらわれたものと考えればいい。当該業者はおそらく相当な利益を確保しているんじゃないかな。リスクの話に戻せば、代替の業者が見つけるのが困難であると予想がつく。売上の点からいえば学校給食の特性として年間通しても180日程度しか営業日がなく(平日のみ稼働の社員食堂で年間240〜250日、大学の学食は180日より少ない場合がある)、先述のとおりローリスクローリターンな給食ビジネスのなかでも学校給食は180日運営して初めて利益が確保できるビジネススタイルとなっており、年度の途中から受託するのはリスクでしかない。乱暴な言い方になるが儲からない仕事でしかないのだ。逆説的にいえばリターンが少ないぶんリスクを最小限にとどめたいと考えるのが給食会社でもある。リスクを避けるのが給食会社なのだ。その点からいえば大磯町の学校給食は連日マスコミで全国に報道されてしまっている。そんな注目を浴びている仕事を進んで取りに行く給食会社はいない。リスクでしかないからだ。以上の点から僕は大磯町の件で代替業者を見つけるのが難航すると予測している。僕の予測が外れていい業者が見つかればいいのだが。もっとも、今回の原因のひとつはデリバリー方式の採用にあるので、次に入札を行うときは、出来るなら、業者の変更だけにとどまらず、センター方式等給食導入方式の変更か、それが不可能で現行のデリバリー方式を継続するのであれば募集要項に「近隣市町村に生産拠点のある業者」の一文を追加してもらいたい。僕が給食営業マンだった頃、毎年、日付を変更しただけの同じ要項で入札を実施してはうまくいかない案件があって、入札説明会で「少しは学習しなさいよ。もしかしてバカなんですか?」と文句を言ったことがある。営業の仕事は仕事を取ることと仕事を断ること、そしてマトモな仕事をつくることだと僕は信じている。このとに頭に来たのはそういう適当な仕事をする人間と実際に給食を食べる人が違うからだ。カスタマーのことを考えないクライアントほど悪いものはない。そういういい加減な入札はもうヤメにしてもらいたい。基準を満たさない業者の参入リスクを排除するのが業者選定の最大の目的なのだ。それゆえリスキーな入札は許されないのだ。大磯町の学校給食の導入でリスキーな入札や審査が行われてはいないと思うがこちらのリンク先採点シートを見てもらいたい。

中学校給食(スクールランチ)調理配送委託事業者/大磯町ホームページ

落札した業者ともう1社、計2社を10項目1000点満点(100点×10項目)で採点している。結果は落札業者が10項目中7項目で勝利、合計724対676の大差で勝敗がついている。たった2社で選定が行われたこともリスキーで驚きだが、落札業者圧勝の結果に驚きを隠せない。元給食業界にいた人間として、あの、1年間で100回近く異物混入事故を起こす業者に完敗する業者がこの地上に存在するなんて信じられない。僕が疑っているのは、業者が提出した資料を検証評価できる給食のプロの不在である。そうでなければ、まさか…悪いこと…行われて…ないよね…。次にロケーションの問題。中郡大磯町にはデリバリー方式で中学校給食を請け負える業者はない。大磯町の東側に位置する平塚市、あるいは西側の小田原市にある業者から選定することになるが、このスケールの学校給食を受けられる業者を僕は知らない。つまり大磯町から離れた業者しか選択肢がないことになる。このことからいえるのはデリバリー方式を採り続けるかぎり、今回のような給食が繰り返される可能性があるということ(なぜデリバリー方式がハマらないかは過去記事参照)。大磯町の学校給食において内容面、安全面に重視するならロケーション的な要因からもデリバリー方式の継続は難しいと言わざるをえないのだ。給食運営はシビアで特にコストの問題は必ずつきまとうけれども、もしコスト上で無理が生じるとわかった時点で、仕事を任せる側と受ける側どちらでもいい、一番その給食を知っている立場の人間が声をあげて一旦立ち止まり白紙に戻すことも含めてその案件自体を見直すことが給食のプロの仕事だと思う。大磯町の件でそういう動きが見られなかったのは残念でならない(先に述べたとおり採点シートの祭典もとい採点を見る限り、業者が提出した資料を検証評価できる給食のプロがいたのか疑問だ)。余談だが、落札した業者の企業理念《永遠に未完成の給食作り》は洒落になっていないので変更されたほうがよろしいかと。ではまた。(所要時間45分)