Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

労働条件を改善するためにやったこと全部話す。

この春から営業の責任者になる。高く売り込み、評価して貰って入った会社であり、突然、あーっ!と奇声をあげたり泣きだしたりする同僚もいない、実に働きやすい環境でもあり、出来るだけ長いあいだお世話になりたいと思っている。給与も上がるし。だが、半年ほど働いてみて、これからも働いていくためには契約上で問題になりかねないことが見つかってきたので、ボスに改善を訴えた。

僕の労働条件をざっくり説明すると、年俸制で、そこに残業代は含まれている。僕は管理職である。管理職は労基法上の管理監督者は違う。労基法上の管理監督者には残業代を支払なわなくてもいいことになっているが、それは非常に限定的な定義で、認められるには、1.経営者との一体性、2.出退勤の自由、3.ふさわしい待遇が備わってなければならない。ほとんどの管理職は管理監督者とはされない(と思われる)。前の会社はブラックだったので、管理職は基本的に管理監督者とされ、つまり「残業代や割増賃金は発生しない」状態だった。

今の職場はホワイトな環境なのだが、残業代については、機会があったら改善を求めようと考えていた。僕ひとりの問題ではなく、会社全体の労務管理の改善だ。それが会社の安定とリスクヘッジにつながると考えたからだ。具体的には管理職の残業代についてだ。管理職の残業代は固定残業代(定額残業代)としてあらかじめ支払われていた(固定額は個々による)。固定残業代は長時間労働や過重労働の温床とされる考え方もあるが、僕は否定しない。残業代の支払いと長時間労働過重労働の問題は本来別のものだからだ。僕はあらかじめ残業代を固定額として支払われている(45時間分)。

給与規程を確認していて、ひとつ僕が気になっていたのは、自分のもらっている給与のどの部分が残業代なのか明確でないことだ。今の食品会社に入って約半年になるが、いまのところほとんど残業をしていない。ただし繁忙期や新規事業所の立ち上げが重なれば、ある程度の残業の発生が予想される。昨今のトレンドとして固定残業代はその有効性において厳しく判断される傾向にある。長時間の残業が発生したとき問題が発生するのを未然に防ぎたかったのだ。

僕は営業の総責任者になるタイミングで、ボスに上申した。現在の給与規定、残業代(割増賃金)の規定には少々問題があると伝えた。管理職に年俸込みで支払われている固定残業代が基本給と区別されていないと。残業がそれほど発生していない事実を知っているボスは改善の必要性を尋ねてきたので、僕は最近の判例を持ち出し、「もしものときのリスクヘッジ」として改善を求めた。僕が持ち出したのはこの判例である。→最高裁:医師の定額年俸「残業代含まず」 - 毎日新聞 

固定残業代はかなり厳密に規程しても有効性が否定されているトレンドについて説明し、今の給与規定では、将来的に問題となりうるので、規程を厳密にするか、固定残業代そのものについて考え直す必要性を訴えた。個人的な待遇改善ではなく、リスクヘッジと最近のトレンドにあった提案であったことがボスを動かしたようで、期末までに規程を変更することになった。固定残業代の廃止は管理職の手取りが減ってしまうとしてボスは将来的な検討事項としてくれた。

もうひとつ。実は僕の所属している営業開発部門には、後方支援業務をやってくれる女性スタッフがいる。彼女には幼稚園児の子供を育てているので就業規則に則り午後4時までの時短で働いてもらっている。彼女は子供の小学校進学にともない、時短勤務が出来なくなってしまうことにより退職を視野にいれて悩んでいた。

僕は1.本社女性スタッフに子育てをしている人間が数名いること(状況)。2.仮に彼女たちが子供の小学校進学を理由に退職した場合、同レベルのスタッフの欠員の補充には困難が予想されること。3.新スタッフに係る募集費および教育訓練の時間を考慮すると、現スタッフに働いてもらうことがコスト的にも抑えられること。以上3点。これらをコストを明確にした上で時短勤務を子供が小学校を卒業するまでの延長を提案した。この提案についてはボスは即決で了承してくれ、各部署の長に(僕もだ)、時短勤務のスキームをつくるよう指示を出した。

以上このブログで公開できるのは2点、世間から見ればたいしたことではないかもしれない。でも小さいことでも職場環境の改善の提案をして、ほぼほぼ通ったので満足している。労働組合がないので、社内プレゼン資料から実際の提案まで労使交渉を自分ひとりでやるしかなかったのが大変だったといえば大変だったがカタチになるので苦労が報われた思いだ。うまくいった要因を僕なりに分析してみると、ボスが話のわかる人であることが大前提なのだが、営業の基本スキルを使い、それがはまったから。

問題提起と必要性の説明。メリットとデメリットの提示。世の中のトレンドの紹介。これらの材料を与えて、ボス自身に、ボスと会社の利益が最大となる選択肢を選ぶよう、そしてこれがもっとも大事なのだが、経営者は多かれ少なかれ良い経営者と見られたいと僕は思っているのだけれど、社員から「ウチのボスはスゲー」と思われるような選択肢を選ぶように、持っていった。落としどころに落とす、というヤツだ。難しいことはなにもしていない。全部、シンプルな正攻法。自分都合のお客様目線。僕が営業でやっていることの応用だ。

これまで、勤めてきた会社内でこんなことをやったことはない。メンドーだからだ。そして会社を良くしようと思ったことがないからだ。なぜ、今回はこんなメンド―なことをやったのか。それは今の会社に長く勤めたいからだ。僕は昨夏に突然やってきた新参者だ。新参者の僕がいきなりそれなりのポジションになる。ホワイトな職場環境ではあるが、面白く思わない人もいるだろう。いや、絶対にいる。その不平不満を処理しないかぎり僕は居場所を失うかもしれない。そのためには営業の実績にプラスして、会社に勤める社員にとって利になることをしなければ認められないと考えたのだ。会社を良くしよう、ではなく、居場所を失いたくない不安から発した打算があったのをここに告白しておく。

賢い人なら見透かしているだろうが、打算からでも結果的に皆に利益があるならそれでいいはずだ。僕は法学部を出てからも、趣味で社労士や行政書士の資格を取ったり、主だった判例をチェックをしているのだが、それが役に立つのだから面白い。履歴書にそういう資格や趣味は書いていないのでボスは少々驚いたようだ。このように僕は居場所をつくるため、いってみれば自分のためだけに労働条件を改善した。つい先日まで関係部署と新たな規程と就業規則の作成に取り掛かっていて、期末までにカタチになる見込みが立ったのでブログに書いてみた。一連の提案のあと、「労務管理的な仕事もやってみないか」とボスにいわれて、「前提条件が変わるので新しい労働契約を結びましょう」と冗談を言ったら、さすがに苦笑いされたけどさ。(所要時間40分)