身内の恥を晒すようで恐縮だが、母と伯父と叔母の3兄妹が祖母の遺した金をめぐって血みどろの争いを繰り広げている。たった一つの地球で、たった二つしかない睾丸から生まれた、たった三人だけの兄妹なのに、四の五の言わずに、なぜ、うまくやれないのか。僕には理由がわかっている。それは金がらみだから。お金が人を狂わせる。マネーが人を虎にする。虎同士の話合いは「お前とはもうおしまいだ!」「弁護士を呼ぶわ!」「ああ!もういい!」と決裂、僕が仲介役をすることになった。きっつー。伯父や叔母には父が亡くなったあと色々世話になったので、このような事態になってしまい悲しい。これほど悲しいのは、玉子かけゴハンを食べようとして冷蔵庫にあったラスイチの生卵を落として割ってしまったとき以来。2週間ぶり。
きっかけは30年前に亡くなった祖母の休眠口座。金融機関からの通知。これまでも通知が来ていたと思われるが、「宣伝ハガキやDMは即ゴミ箱行き」という家訓のせいで明るみにならなかったのだ。「長男は俺だ!」「私が臨終に立ち会った」「母さんに一番愛されたのは私よ!」中国地方の大名毛利氏の3本の矢になぞらえて「どんな苦難でも乗り切れる三本の矢」を自称していた兄妹がこうもあっさりポキッと折れるとは、お金はマジでおそろしい。ヒアリングをすると「お金の問題じゃない」「金額が大きいから争っているのではない」「金というか気持ちがね…」と3人が3人ともお金には執着していないと主張するのだが、それぞれに「じゃあ、譲れば?」と提案すると、それは出来ない、プライドがある、負けを認めたくない、といって断じて譲ろうとせず、分割を提案しても「分ける意味がわからない」「分けたら取り分が減るよね。増えるなら応じる」「人の命ってわけられないよね?」と意味不明な理由で拒否するなどして、結果的にお金に執着するのが面倒くさい。雁首そろえて早く鬼籍に入ってくれ、と思うけれども70歳をこえてなお、ガチで喧嘩をするバイタリティがあるので、朝8時から胃痛に苦しみ、夜9時になると目がかすみ、夜11時になると目ヤニで目を開けていられなくなる、僕のほうが彼らより先にストレスで斃れる可能性のほうが高いと思われる。いいやつほど早く死ぬっていうしね。醜い争いを回避するために意識のあるうちに一筆残しておくことをおすすめする。ちなみに僕も奥様から「遺されたものを不幸にしないために」つってエンディングノートを渡されている(まだ書いていない)。お金は譲りたくない。お金の問題で弁護士を呼びたくない。お金を独り占めしたい。祖母の愛を一身で受けたい。毎日サンデー状態の老兄妹たちを狂わせる休眠口座。本当に面倒くさい。まあ、徹底的に納得できるまでやりあえばいいと思うよ。人生はいちどきり。諦めることはないのだ。床に落ちた生卵でもおいしく食べられるのだ。巨額の遺産で争っていただけると僕も仲介役としてもやりがいがあるのだけれど…
これじゃやりがいもクソもない。(所要時間16分)
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ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。
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