Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

キャバクラ嬢の すごい 営業


 キャバ嬢のミンクちゃんから結婚指輪を外している理由を訊かれて、実のところ指輪、衛生的観点から外しているのだけど、盛り上がると思って「既婚者よりも独身のほうが若い女の子にモテるかと思ってさ」と言ったら「はあ?」とか半ギレされて僕は焦る。執拗に同伴やアフターを迫ったからか?つか僕が結婚しているのなんで知っているんだろうか。


 「つーかそういう意識、むしろ引くんですけど」ミンクは時折私昼間は女子大生をちらつかせるのがアレ。「えっ?そう考える男は結構いるんじゃないかな。時間場所限定疑似恋愛ゲームだからさ、それを優位に運びたいし現実に近いゲームのほうがハマれるじゃん」「大人の遊ぶ場所っていうのはわかるんですけど…」ってミンクは水割りをつくり「指輪とか外すってマジモードじゃないですかっ。ここで求められているのはゲームはゲームという割りきりじゃないですかあ」といい終えるとグラスを置いた。案の定濃すぎ。


 「マジモードだよ」と僕、「だってリアルなものを志向したいじゃない。限りある時間。その間だけは日常を忘れてさ…甘い言葉を囁きあいたい…そしてもしかしたら恋愛に」「そういうの違うと思うんですよね。大人なら、ゲームなら…」、その限られた枠組みとルールに則って努力すべしと彼女は言う。正論だ。ルールブックがちがうだけだ。ベイビー、フットボールにビーンボールはあるかい?


 「もしかして課長さん私たちのこと普通の女の子だと思ってないんじゃない?」「思ってるよ。だからこそマジなんじゃないの」「えーそれちがいますよー。本当に普通の女の子だと思うなら女の子の立場とか考えません?マジとかありえない。いいですかこれ一回しか言いませんからね」それから彼女は僕が一生忘れられないであろうことを言った。白い肌にピンクの唇は僕に桜の花びらを想わせた。「私、これ、仕事ですから」。「………なるへそ」。


 僕は考えていた。彼女をここまで突き動かす何かについて。「仕事だろ。わかってる」僕は動揺を見せないようにキラーフレーズを繰り出す。「見た目によらず案外マジメなんだな…」「キモっ!」僕は続ける。僕だけは理解者。そのスタンス、肝心。気持ちは伝わる。きっと。「焦ってしまうよね。突然マジで来られたら。わかるよ『仕事』って安全地帯に逃げたくなる気持ち…」「全然ちがいますよ?」「案外マジメなんだな…」「キモいからそれやめて」気持ちではなくキモいが伝わりました。


 「こんなとこで働いてるって差別意識働いてない?って話ですよ」「ないない」「だって指輪外す時点で別のペルソナに切り替えてるでしょ。普段は大人しいのに人格を変えてお店で働く女の子には多少強引に行ってもいいなんて意識あるんじゃないですか?」と僕の膝に乗せた僕のゲンコツに一瞬だけ触れた手を恥ずかしげに引っ込めるミンク。こやつ…「いやだからこの場所と時間限定で楽しみたい。指輪外すのはそれを実りあるものにしたいだけなんだけど」「ちがくて。指輪とか外しちゃうとストッパー外れちゃうことありますよね。それがちょっと…」こやつ…「…怖い?」「…はい」僕の膝に膝をぶつけてくるミンク。気持ちが入っているのか痛い。こやつ…。


 僕は言う。「ミンクちゃん。矛盾してる。そこまでゲーム的なものに固執してリアルを否定しているのにどうして?仕事だと割り切って一線を越えなければいい。考えなければいい」誰に聞かれても恥ずかしくないが小声で。「それは…そういうことだから」言いにくそうだ。こやつ…「それは僕がそういう対象になってるってこと?」恋愛の。「そう…かな…いい人だから一線を越えちゃいそうなのが」「その一線が指輪なわけだ…」「こわいんですストーカー」「ストーカー!」心外だ。声が大きくなる。


 「新しい関係を作り上げるときの怖さ、わかるよ。アラフォーの僕でも怖いもの。でもそれをストーカーだなんて」「なんか奥さんとかに冷たい感じがするし…。私が奥さんだったら外してほしくないし…」「これからは外さないわよ!」興奮すると語尾が娘。「それなら指輪しているときは奥さんのことを第一に考えてね。私は次の次の次くらいでいいですから」こやつ…どこまでも僕をストーカー予備軍だと…執拗な同伴要求が裏目に出たか…ぐびぐび水割りに浸っていると男性スタッフがそろそろお時間ですがと言ってくる。名残惜しいが妻からキャバクラは一日一時間ときつく申し渡されているので御免。


 「またお店来てね」「じゃメアド教えてよ」「えっ?」「メアド。メアド。二人のはじまりかも、しれないだろ…」「課長LINEやってる?」「パズドラならやってるよ」「それゲーム。じゃあこれ私のアカウントだから」といってミンクは裏にメモした名刺をくれた。店の前までお見送り。僕は「今度は指輪してくるから」とミンクに念を押すと「さっきのストーカーとか冗談だから〜」「どんだけツンデレよ。騙されないぞー。じゃLINEで」「…LINEでー」この駆け引き楽しすぎる。そうやって僕らは別れた。


 …といういきさつではじめたLINEは彼女の教えてくれたアカウントが偽物だったので専ら悪友とXboxの話をするのに使っている。僕は信じてる。彼女が垣間見せてくれた気持ちが本物であったことを。ストーカー扱いも偽の連絡先も僕の気を引こうとした故なのだと。そして今まで浪費した時間と金銭を忘れさせてくれる新たな出会いを。確めなければならぬ。そして何より疑惑を晴らさねばならぬ。ここでキャバクラやめるなんて到底出来ない。逃げられない。キャバ嬢の営業すごい。


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