Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

正しい企業理念に殺されてたまるかっつーの


 小さな食品会社に務めていて、今、営業課長という立場にある。食品をキーワードにいろいろ手掛けているなかで最もやりがいを感じる仕事が福祉施設向け、老人ホームの食事提供。ウチの会社は創業以来「手作り(現場調理)」をポリシーに事業展開してきて俺自身も当時の社長(現会長)の考えに賛同して今の会社にやってきた。実際「手作り」の食事は施設にも利用者にも喜んでいただけていたと思う。今その理念が問題になっている。会社を蝕んでいる。


 老人ホームで手作りの食事を提供するにも当然デメリットはある。第一に食材費が指定されていて融通がきかないこと。この食材費は外部のレストランのメニューにある販売価格と異なって実際に食事にかける材料費を指している。施設側の栄養士のチェックによって食材から利益をあげることは原則無理。大手の会社はうまく抜いてるみたいだが。ワタミとか。第二に売上アップが不可能。入居者+職員+デイサービスと対象者が限定されている。それに認知症の方から追加料金とか取れないだろ?第三にあまり知られていないかもだけど高齢者向けの食事は献立の段階でひとつのメニューを高脂血症、減塩、各禁止食、カロリー制限等々展開させたうえ食べる形態(ソフト、流動、刻み数種類、アレルギー対応)に応じていかなきゃいかない。ウチのようにジャガイモの皮剥きからのように一から手作りでやるにはそれなりのスキルが必要なこと。


 売上が上がらないことが大きい。現場スタッフのタスクは増える一方であるのに売上が伸びないので給料があげられないことによるモチベーションの低下と人材流出による仕事の質ダウン、そしてトラブル苦情解約解約今ココ。俺、会社の理念「お年寄りに手作りの食事を食べてもらいたい」ってすごくいいと思っているので悲しい。関わっている人間が正しい理念で死んでいくみたいでさ。辞めていくスタッフも真面目でいい人間が多かったけれど会社の上からは評価されずまったく惜しまれない。慢性的な人不足のなか残業残業で頑張っていて施設から評価いただいていても他の事業と比べて数字が出ないから。


 選択肢は2つだ。ひとつは企業理念を覆して大手同業他社がやっているように食材工場をつくるなり全事業所統一メニューを導入するなりのシステム化して現場スタッフへの依存度を下げ極力パート化をはかる。安定した運営を目指すならこれだ。人間味がないので福祉としてどうなの?って思うけどたぶん会社としてはこれが正解。ウチの上層部がこれを選ぶような経営判断を下せればどれだけよかったろう?もうひとつは現状の理念を突き詰めより特化させてウチの上層部に数字が出ないことを理解させて数字が出ないなりの展開をはかっていくこと。これはいばらの道。利益追求の観点からみれば不正解だけれど俺はこちらを選ぶよ。


 一番厄介なのはこんな簡単なことなのに現上層部が認識はおろかまったくわかっていないことだ。しかも一言でいえばたちが悪い。【会社の理念(手作り)は素晴らしい。それを守ったうえで数値は売上は利益は伸ばさなければいけない】そんないいとこどりは理想ではなく夢だ。何度も説明したが連中にはわからない。【いいものを出せば売上は…】【効率化で食材から利益を…】云々。だから老人ホームじゃ出来ないっつーの。いろいろあるけど根底には老人ホームで出すような家庭的な食事なんて多少いろいろあっても誰でもつくれる楽勝だろ?という変な楽観があるのだと思う。厳しい数値を前にして楽観とかバカじゃねとか思う。改革か理解だろ必要なのは。


 もしくは撤退。「お荷物と思うなら撤退するなり他社に譲渡するなりすればいいじゃないですか」「売上が下がることは容認できない」つかなんで俺が意見してんのに「愛のアセンション」なるふざけたことが言えるのかバカ死ねお前が現場いけってキレて辞めたくなるけれど俺はまだしない。周りをみてみると若い連中は辞めたり失脚したりして上に物が言えるのは俺だけだから。


 はっきりいって会社、居心地はよくないし、アセンション常務はイカれているけど、やらなきゃいけないなと思うのは「課長なんとかしてよ」という現場の声や実際に食べてくれているお年寄りの「ごちそうさま」「美味しいね」という声があるから。ま、それしかないけど。散々理念理念言ってきて理念関係ないとかアレだけど、俺のエゴかもしれないけど、ただ「ジイサンバアハンにわけわからんもの食べさせたくない手作りのおいしいものを出してやりたい」っつうだけなんだよな。結局。


 今日の午後は役職者会議。粘り強くキレないように話をしようと思う。俺はやってる人間を見殺しにするほど腐ってはいないよ。