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元給食営業マンが給食会社シダックスのカラオケ事業の進出と撤退について考察してみた。

シダックス カラオケ運営から撤退 | NHKニュース

シダックスがカラオケ事業から撤退、今後は給食事業に集中。僕はニュースそのもより、シダックスが給食会社であることを知らない人が多いことに驚いてしまった。シダックスは日本有数の給食会社である。僕は、給食の営業に携わっていたので(今もだけど)、シダックスといえば競合相手、給食会社(通称/シダ)という認識しかないが、業界の外にいる人たちが、驚くのも無理はないとも思う。カラオケと給食ではイメージが違いすぎるからだ。僕は給食営業時代にシダックスの営業マンから、カラオケ事業について聞いたことがある。今回は、その情報をベースに、なぜ給食会社であるシダックスがカラオケ業に進出することになったのか、そして撤退の理由について、給食会社の営業マンの目線で考察してみたい。

物流で利益を出す仕組み

エス・ロジックスという会社をご存じだろうか。食材の一括購買と物流、セントラルキッチンを運営しているシダックスのグループ会社である。シダックスが受託している社員食堂や病院で使用する食材は原則エス・ロジックスのものを使うことになっている(シダックス以外の大手給食会社も同じような物流会社を持っている)。つまり給食事業本体は労働力集約型だが、食材については集約と効率化がはかられている。

簡単に説明すれば、とある社員食堂の責任者が単価300円の食材を食材物流会社に発注して、300円で納品される場合。食材物流会社がその300円の食材を280円で調達(仕入・製造)できれば、その時点で20円の利益が残る(実際にはもっと利益は出しているはず)。

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極端な言いかたになるが、給食事業において苦労と面倒は給食会社(シダックス)で、利益は食材物流会社(エス・ロジックス)という構図である。よく、シダックスの営業マンが「俺たちが苦労して取ってきてもウマミは全部エスロジが持っていってしまう」と恨み節をいっていたのはそのためだ。給食事業本体で利益が出なくても、グループとしては利益が出せる仕組みだ。

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▲「俺たちが仕事を取ってきてもオイシイところは持っていかれてしまう」の図

なぜシダックスのカラオケ店が郊外にあるのか。

このエス・ロジックスを有効活用すれば利益は出せるとシダックスの誰かが気付いたのだ。それがカラオケだった。全国を網羅する調達と物流のシステムがあれば、納品先を増やせば利益は増える。シダックスは全国の会社・工場・病院で給食事業を展開しており、それに対応した物流網を持っている。もし既存の物流ルート上に、食に係る事業を起こし、そこに納品すれば収益はあがる。その食にかかる事業がシダックスの場合はカラオケ事業だったのだ。シダックスのカラオケが郊外にあるのは、エス・ロジックスの物流ルートにあるからである(これは営業マンから聞いた話で真偽は定かではないだが、最初はカラオケ屋ではなくデイ・サービスやコミュニケーションスペースを展開するつもりだったらしい)。つまり、正確にいえば「給食事業からカラオケ事業に進出した」ではなく、食材物流を有効活用の結果としてカラオケ事業に進出したのだ。すべて、物流の有効活用の産物なのだ。

カラオケ事業が本業以上に効率的でハマった!

このカラオケ事業が時代のニーズに合ったのだろう、本業の給食事業以上に大当たりした。シダックスといえばカラオケの代名詞になってしまう。毎日利用する社員食堂や病院食は基本的に日替わりでメニューを展開しなければならず、効率化が難しいが、カラオケは基本的に固定メニューのため、コストを圧縮することが出来た。また、カラオケは社員食堂や病院食よりも客単価は高く利益が確保できた。エス・ロジックスは給食事業以上にカラオケ事業がハマったのだ。

給食事業はローリスクローリターンの商売である。社員食堂を給食会社が受託する場合、原則、社員食堂の厨房やホールといった設備、厨房備品、食器・什器、光熱費は委託するクライアント負担であり、すべてを自前で準備しなければならない外食レストラン事業に比べてリスクは圧倒的に少ない。シダックスが手掛けているカラオケ事業はどうか。土地や建物、厨房設備や備品、食器からカラオケマシンまですべてシダックスが準備しなければならない(リースの場合もあるが)。給食事業に比べると、ハイリターンだがリスクは高い。

カラオケ・シダックスの弱点

カラオケ事業は低価格と駅前に出店するビジネスモデルに移行した。それほど安くない、郊外中心に展開しているシダックスのカラオケは時代に取り残された。売上が減り、先ほど挙げたリスク(投資)と物流コストをカバーできなくなったため、カラオケ事業から撤退することになったのは想像に難くない。

なぜ、シダックスのカラオケが低価格化と脱郊外へ向かわなかったのか。それはシダックスのカラオケ事業が、エス・ロジックスの抱える物流の有効活用を出発点にしているからである。エス・ロジックスはもともと給食事業のものである。カラオケは副産物にすぎない。既存の物流ルートを変えたり、低価格商品を開発するような、余計なコストをかけるようなリスクを取らなかったというだけのこと。その判断は間違っていないと僕は思う。

まとめらしきもの

一時代を築いたカラオケ事業からの撤退はショッキングかもしれないが、ここ数年は苦戦が続いていたので、シダックスのカラオケ事業撤退はむしろプラスになるのではないか。冒頭に述べたようにシダックスの利益の出し方を思い出してほしい。エス・ロジックスという物流システムと既存の給食事業があれば利益は出せるのだ。これからは給食事業のためにつくりあげた物流システムを本来の目的である給食事業に集中投下できるのだから。シダックスのホームページのグループ概要をみてほしい。

グループ概要|SHIDAX

組織図の上にあって、シダックスの各事業に関わっている組織はどこか。エス・ロジックスだ。シダックスの基盤は給食でもカラオケでもなく物流なのだ。一世を風靡した野球チーム(ドラフト一位選手も出した)やカラオケのシダックスがなくなってしまうのは、給食に携わった者として少し寂しい気もするが、まあ時代は移り変わるものだからしょうがないね。(所要時間42分)

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