僕は食品会社の営業部長だ。先日、とある官公庁の担当者から連絡を受けて話を聞いたら、税金を納める側からしたら、とんでもない仕事の進め方をしており、僕ひとりでは受け止めきれないのでシェアしたい。官公庁の食堂に係る仕事の進め方で記憶に新しいのは、条件が厳しくて参加業者が集まらなかった「これ」である。
県庁東庁舎12階のレストラン、神奈川県が要件を見直し再募集|新・公民連携最前線|PPPまちづくり
僕が受けた話は、この神奈川県庁東庁舎レストラン案件より規模は小さいものの、仕事の進め方ははるかに悪く、衝撃的だ。正式にコンペが行われる前に、「相談」という形で行われるヒアリングだった。具体的な施設名称は差し控えるが、対象は公的な施設の職員食堂。数年前に業者が撤退して以来稼働していない暗黒案件だ。話を聞く前から条件の悪さを予想できる。担当者は冒頭で「施設を無駄にしているので一刻も早く食堂を改造しなきゃいけない」と言った。前提条件が固まり次第、公募を出す予定らしい。
条件を聞いた。驚いた。営業時間は平日の昼食時のみ。一日の予想利用者数は100名程度。希望する価格は平均500円。「職員食堂という性格上この価格帯は譲れません」と担当者は力強く言い切った。このとき帰ればよかったのだ。担当者は「数種類のランチとバランスの良いメニューを業者さんには求めます。なお食堂は一般開放するが、基本的には福利厚生施設という性格上広告はやめてほしい」と続けた。官公庁案件で問題になるのはテナント使用料だ。ストレートに聞いた。「国の施設なので使用料として年間6,000,000円になります」という答えが返ってきた。真顔だった。月額500,000円。「ちなみに」「なんですか」「税抜きです」やはり真顔だった。
500円× 100食× 20日間= 1,000,000円これが月の予想売り上げ(税込)だ。税抜きで約909,000円、そこから使用料500,000円を差し引き残り約400,000円で食材費、人件費、経費、光熱水費を捻出する。さらに設備投資が加わる。厨病機器、精算機器、食器や什器が必要になる。無理ゲー。「どうですか」と真顔で聞かれたので「無理です。受ける業者はいませんよ」と真顔で答えた。月の売上100万。少し考えればわかる話である。担当者は「企業さんのノウハウと努力で売り上げを伸ばしてください」と言った。宣伝禁止と相反していないか。冒頭の神奈川県庁舎食堂もそうだが、なぜこんな厳しい条件にするのだろうか。見方を変えればいいかげんな計画で民間を苦しめているように見える。
なぜ、学業が優秀だったはずの役所の人たちが、無茶なビジネスプランを爆誕させるのか。彼らは点で仕事を見ているからだと考えている。自分たちの考えた良い施設を自分たちの考える良いロケーションに作る。素晴らしいからここにはお客さんが来るに違いないと言う楽観に基づいた「点」でしか見ない。客を引っ張ってくる線(導線)、対象になる客がどれだけいるかという面を考えていないのだ。だから何回か視察を重ねて「雰囲気がいいねー」と業界マンのような感想を述べて、なぜ決まらないかわからない。
その原因はもっとシンプルで、彼らは自分たちの稼いだ金でビジネスをしていないからだ。全部、税金。自分たちで稼いで投資していないから、必死じゃないのだ。民間企業がレストランを作って厨房機器を置いて開業できないなんて事はありえない。投資に見合う回収がなければ担当者はクビだ。だからシビアに計算するし、採算の取れない事業は見送る。
「今回、懸念事項をある程度クリアしています」と担当者は自信ありげだった。話を聞いたら地獄だった。本来、業者負担となっている厨房機器はすでに設置済みだというのだ。予算が下りて稼働可能状態らしい。つまり新品の厨房機器を無駄にしていた。食堂規模にしてはオーバースペックな機器が入っていたから一千万円以上はかかっていると思う…。官公庁の予算の元は税金、血税である。「どうでしょう」と担当者は真顔だった。だーかーらー月額40万円で運営するのが無理なのー。無茶な計画のうえで高価な厨房機器を税金で買ってしまったというどうしようという話であった。結局、自分で稼いだ金じゃないから真剣さが足りない。これがすべてだと思う。
冒頭の神奈川県庁東庁舎のレストランの業者が7月24日に決定した。決まった会社には頑張ってほしい(僕の勤める会社も地元神奈川なので検討はしたが見送った)。
県庁東庁舎レストランの運営事業者が決定しました - 神奈川県ホームページ
神奈川県庁東庁舎レストラン設置・運営事業者再募集 - 神奈川県ホームページ
入札不調が続いていたため、賃料(テナント料)設定を下げたうえで、基本設備(防火シャッター及びこれに付随する関連設備、空調・換気設備)の設置費用を県負担に変更(上限額 防火シャッター等 1,440万円(税込)/空調・換気設備 3,000万円(税込)。防火シャッターと空調換気設備の合計4,440万円は県民負担なのだから、「よかったねー」と素直に言えない。県担当者の雑な仕事ぶりは責められるべきだろう。これも自分の稼いだ金で仕事をしていないことが根本にある。中小企業でこんな仕事をやったら速攻でクビだ。なお、先の某食堂案件については、税金の無駄遣いを指摘した意見書を担当者に送っておしまいにした。関わったらヤバいもんね。
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