Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

業務上指導をしたら「私が才能ある女性だから嫉妬しているんですか」と言われて心が死んだ。

僕は食品会社の営業部長。先日、部下から相談を受けた。既存クライアントとの新プロジェクトで問題が起きているという。すでに具体的な提案を提示する段階にある案件だ。「納期がやばいです」と部下は説明した。なぜやばいのか。理解に苦しんだ。難しい案件ではないからだ。類似案件の実績が多数ある、楽勝な案件だと評価していたからだ。企画部の主任(女性)がプロジェクトリーダーとなって辣腕をふるっていると聞いていたが、部下によれば彼女の存在証明が進捗を阻んでいるらしい。意味がわからない。

驚いた。企画部主任が、既存のノウハウを活用すればいいところを、ゼロから仕事を組み立てていたからだ。もちろん、一つ一つの仕事に全力を尽くすことは良いことである。しかし、ケースバイケースだ。当案件のように、クライアントから「前回と同じような仕事」を求められ、そして相応の金額しか支払われていない仕事では過去の実績を活用してうまくこなすことが求められる。仮に、クライアントから新しいコンセプトを求められているなら、ゼロからの仕事のやり方は正しいけどね。

問題は、主任がゼロから仕事を組み立てていることにより、工程上の無理やスケジュール不足、関係部署との調整不足、つまりミスや抜けが発覚して、そのたびに中断してやり直ししているために進捗が遅れていることであった。実績があるのに、クライアントや社内の関係者がその活用を望んでいるのに、チームリーダーである主任がゼロからの仕事にこだわって進捗が遅れているのであれば営業部長として見過ごすことはできない。

彼女から事情を聞いた。おおかた事前に聞いたとおりだった。彼女は正しいやり方で仕事をしているという自負があるので、否定しないように気をつけて注意した。「君に任せている仕事は実績のあるものだ。だからノウハウを活かしてすすめてほしい。クライアントの希望だ。コストもそれを前提にしている。仕事には2種類ある。フルパワーで取り組まなきゃいけない仕事と。過去を利用してうまく進める仕事だ。これは後者だ。この仕事は君の能力やセンスを証明するためのものではないよ。ましてや納期を守れないなんて論外、そんな仕事のやり方はダメだ」あああー!気をつけていたのに否定してしまった。

彼女の反論は以下のとおりである。「良いものを作ってクライアントに提示しますから、営業部長から納期の延長を交渉してください。コスト内で最高の仕事。それがクライアントの望んでいることです」なぜ納期の延長をしなきゃいかんのだ。全然わかってない。クライアントは「前に依頼した仕事と同様に」「納期までにチャチャチャとやってほしい」と望んでいるのだ。次に僕はコスト面から攻めた。「ゼロからの仕事なら見積金額も相応のものにならなければならない。でも今回はちがうよね?コストの中でプロジェクトを動かすのがリーダーの仕事だよ。じゃなければリーダー失格だ」あああー。また否定してしまった。

僕の懸念を気にする様子もなく彼女は反論した。反論は以下のとおりである。「類似実績はあっても今回は今回です。かかってしまったコストについては営業から交渉していただけませんか」きっつー。「クライアントはそれなりのものを望んでいる。それなりは悪い意味じゃない。ウチの過去の実績を信じて言ってくれている「評価」だ。今回は君のセンスや才能を発揮する仕事ではない」とあらためて忠告した。

「それなら私がやる意味がないじゃないですか!」と彼女は反抗した。気づいてくれ。君のミスが多くて内外へのマイナスのアピールになっていることに…。彼女は「新しいものを作るのに失敗は不可欠です。イーロン・マスクのロケットだってたくさん失敗しているじゃないですか」。まさかここでイーロン・マスクが出てくるとは。「まさかスペースXのマスク氏? 」両手を交差させ、何十年もアルバムがリリースされないハードロックバンドのリーダーの人が招かれたイベントで決めるXポーズをキメて確認した。「それです」だそうです。つか「私がやる意味」って何だそれは。今回はそういうクリエイティブな仕事ではないっつうの。さらに決定した納期と金額をひっくり返せというのはめちゃくちゃである。相手によってはその場が紅に染まるかもしれない。

「君が敬愛するマスク氏にそんなこと言ったらアカウントを消されてしまうぞ」とは言わなかった。言いたいことはやまほどあったけれど、僕は「君の才能とセンスを発揮するのは、次の機会にして。これは命令だ」と言うにとどめた。なぜなら、僕の役目は当案件の進捗を修正して納期を守ることだからだ。この仕事では彼女のいう「私のやる意味」は求められていないのだ。存在証明めんどくさ。仕事には2種類あるというだけの話なのだ。まあ、ゼロベースでクリエイティビティを活かしてまったく新しいものを納期とコストを守ってつくってくれればいいのだけれど、悲しいかな、その能力が彼女には備わっていなかったのである。

「わかりました。命令には従います」といった彼女が納得したのかはわからない。そして彼女が面談の終わりに言い放った言葉は、衝撃的な驚きとなって僕を撃ち抜き僕の心をX ジャンプさせたのである。「これは能力と可能性のある私への部長の嫉妬ですか?それとも私が女性だからですか?」開いた口が塞がらなかった。僕より年上の50代後半の人間の可能性に嫉妬?女性だから?呆気にとられて何も言えなくなっていた僕の沈黙を、彼女は「ビンゴみたいですね」と都合よく解釈して納得して去って行った。強い。気が付くと僕はまだ両手でXポーズを決めていた。Xはただのバツに変わっていた。

(所要時間36分)