Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

とある値上げ交渉と契約解除の話が雑すぎる。

僕は食品会社の営業部長。長いあいだ同じ業界で営業の仕事をしていると、同業の営業職をはじめ関係者と嫌でも知り合いになる。で、いろいろな情報が入ってくる。「人脈をつくる」と鼻息荒くゴリゴリ作った関係性ではなく、仕事をするなかで自然発生した関係性だ。なお、つくった人脈は、僕の経験では仕事で役立つことはほぼなかった。

先日、同業他社の営業から連絡があった。彼の勤める会社が取引している法人についての相談だった。《昨年の夏から、労務費のアップや原価高騰を理由に値上げ交渉を打診してきたが、全く乗ってくれなかった。先日、最終通告として値上げを打診し、受け入れられなかったので、契約に則り解約通告した》という話。「残念ながら喧嘩別れという形になってしまったが、うまく契約すれば売上は大きいのでエントリーしてみてはどうか?」という案件紹介情報であった。紹介は、法人の担当者から「同条件でやってくれる後継の会社を紹介してほしい」と泣きつかれたからであった。爆弾回すなよが正直な感想だ。

別の日、取引先の紹介で、とある法人から電話を受けた。先述の法人からであった。世界狭すぎ。《ある食品業者と契約していたが、先日突然値上げ要求を出してきて、受け入れられなかったら契約通りに解約すると言われた。予算策定の時期は終わっているから急な対応はできないと答えたら解約を通告された。そこで新たに納品してくれる業者を探している》という内容であった。「値上げに応じないわけではない。でも、物事にはステップがあるでしょう」と担当者は言った。提示された条件は予想どおり爆弾級だった。

これらは、一つの商取引をそれぞれの立場から見たものである。面白いのは両者ともに「値上げは仕方ない」という考え方は一致しているが、交渉決裂している点。相違点は、一方が事前から値上げの打診をしていたといい、もう一方は、打診は急だったといっている点。もう一つ共通しているのが、お互いにそれぞれの仕事の進め方を非難しているところだ。熱い。地獄ヒートだ。なお、解約自体は、契約に定められていて全く問題がない。業者は契約どおり三か月前通達だからノープロブレムという見解であり、法人は契約どおりだが、長年付き合ってきてその対応はひどいじゃないかと言っている。ひとたび関係がこじれてしまうと、契約で決められたとおりでも感情のしこりが残るものである。

おそらく末端の担当者レベルで値上げについての話し合いはあったのではないか。「オナシャス」「ワッカリマシター」と言う口先だけのなあなあでやっていたところ、決定権のある役職者が出てきて「あれはどうなった?」となって問題が明らかになったといったところではないか。多分。どちらかが悪いのではなく、どちらも悪い。

僕の立場からみれば、これはビジネスチャンスだ。うまく乗り込んでいって契約が取れればラッキーである。可能性は高い。だが、ウチと取引をしても労務費と原価高騰を価格に反映させるのは、現業者と同じである。もし「オタクならもう少し安くできるのでは」なんて勝手に期待を持たれても困る。で、その法人に出入りしている他の業界の営業と連絡を取って、当該法人の体質を調べてみた。

想像通り、決定権者のある人が交渉に出てくるのが遅い傾向があって話が進まないという話だった。僕が情報を得たのはリネン会社の担当者で、交渉には応じてくれるがとにかく動きが遅いらしい。これも想像だけれどもわざと交渉を遅らせて優位に持ち込んでいるのかもしれない。法人の体質は変わらない。条件も悪い。トラぶりそうな仕事を、危険を犯してまでする必要は無いので断った。よい仕事(契約)を取るには、見込み客と情報源を多く持つことが大事。そして案件の当事者以外からの情報を加味して判断することだ。そうすれば良い仕事が取れる。それが営業の仕事の8割で、「良い企画を作る」とか「プレゼンをキメる」なんてことは、些末にすぎないと僕は思う。

なお、今回の話を断ったら、紹介してくれた業者と取引を求めてきた法人が「なんであんな会社(ウチのこと)を紹介したんだよ」「条件が悪かっただけだろ」と揉めているらしい。その情報はまた別のルートから得た。クソすぎる。関わらないほうがいいという僕の判断は正しかった。今は、喧嘩をやめてふたりをとめて僕のために争わないでな気分である。食品業者が見つからず泣きついてきたら、そのときは交渉に応じて優位な条件を提示して契約を結べばいいのである。紹介案件は食いついたら負けなのだ。(所要時間24分)