Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

部下が退職しました。

若手のホープから、仕事のやり方に注文をつけられてしまった。彼の言葉を借りれば「リスペクトに欠けていてビジネスライクすぎる。冷たすぎる」。昨夏、ベテランが辞める際、慰留もせずあっさり辞めさせたこと、従来のやり方を急激に変えてしまったことに不満があるらしい。ビジネスライク、冷たすぎる…今、ホープ君の言葉が重く僕の胸に刺さっている。

ホープ君から誘われて飲みに行った際、「アレは茶番すぎます」と言われた。アレとは今年5月の黄金週間10連休への対応のこと。我が社は原則10連休だが、顧客対応のため、中三日、誰かひとり出勤しなければならなくなったのだ。公平に、くじ引きを行うことになり、僕がクジをつくった。紙を長細く切断して、当たりの1本の先端をマジックで赤く塗った。部長特権で僕が最初にクジを引き、目論見通り、当たりクジを引いた。スタッフには楽させてもらっているので、連休くらいは、僕が出勤すればいい。どうせたいしてやることなどないから、という気持ちだった。北朝鮮の選挙のように公平公正にクジ引きで決めたはずだが、ホープ君は気に入らないらしい。じゃあ君がやる?とたずねると、「それはイヤです」と言う。なかなか難物である。ホープ君は、僕が「チームで戦う」といっているが、チームを尊重しすぎて、チームを構成する個人個人を蔑ろにしているようにみえる、といった。よくご存知である。僕が長になってまもなく一年。個人を蔑ろにしたつもりはないけれども、チームで戦うことを第一にしたので、そのなかで個人的に面白くない思いをしているスタッフもいるのは分かっている。だが、結果が出ている以上、基本的に今のやり方を変えるつもりもないし、必要ないと考えている。ただ、一年やってみて、多少、余裕が出てきたので、少しは個々の事情は汲めるようになると思うが、保証はできないし、君の求めるレベルではないかもしれない。正直にそう伝えた。するとホープ君は「部長はチームと仰いますけれど、それって個人の充実があってこそ、ですよね。つまり、個人が先にあってチームが成立するわけですから、その点では部長は間違っていますよ」などと言う。正論きっつー。とはいえ個人の欲求を、特に個人主義の強い営業スタッフ個々の要求を飲んでいたら、チームが瓦解するだろう。もちろん、もう少し組織が大きくて、個々の要求を吸収できる規模があればいいけれど、たかだか10数人しかいない、それも発足して一年しか経っていない独立した営業開発部(それまでは事業部付で営業スタッフがいただけ)のカタチができるまでは、ホープ君が望むようなスタイルは、実際難しいだろう。とはいえ僕はホープ君の意見が聞けて嬉しかった。営業開発部全体のことを考えている人間は僕だけしかいない、そんな孤独を感じていたからだ。僕は「この一年は行き過ぎたところもあったかもしれない。ベテラン勢も辞めてしまったし、僕はビジネスライクで冷たかったかもしれない。最近は退職代行サービスとかAI導入とか人のぬくもりが感じられない話題ばかりだったせいで、僕の心が人情紙風船になっていた。仕事の基本は人対人であることを忘れかかけていたよ。ありがとう」と感謝を述べた。ホープ君は「わかりました。何かあったら部長にぶつかっていきますよ!遠慮はしませんよ」といい「お手柔らかにな!」と二人で乾杯したのである。人間と人間の血の通ったぶつかりあいサイコー!

今朝、電話が鳴った。初めて聞く会社名。担当者名。ご用件はなんでしょうか?というと、ホープ君の代理の者です、と電話の先の男性は答え、ホープ君は退職いたしますので退職手続きをお願いいたします、理由等はいっさいお答えできません、と事務的に伝達してきた。これが噂の退職代行サービス…まさか利用する側ではなく被弾する側になるとは。僕のことをビジネスライクすぎると批判したホープ君自身がいちばんビジネスライクであった。あの酒宴は何だったのか。ぶつかっていきますよが、まさか代理を立ててぶつかってくるとはね。こうしてホープ君は音信不通になった。彼はビジネスライクな僕のやり方を認めた。つまり、僕の方が正しかったということ。そう、ポジティブに受け取っている。僕の胸に去来するのは、彼の退職という取り返しのつく現実ではなく、お答えできません、すみやかに手続きをすすめてください、と告げるだけの退職代行サービスの楽な仕事ぶりである。これで数万の手数料を取るのか、おいしすぎるだろー、次はその仕事やりてー。先ほど、退職届と保険証がビジネスレターで送られてきた。ビジネスライクでとてもいい。(所要時間24分)