Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

部下の現場への思いに、胸が熱くなった。

「我々がマトモに働けない状況でも、なんとか会社が回っているのは、現場スタッフのおかげですよね。こんな状況になって初めて、そのありがたみが身に染みてわかりましたよ」在宅勤務をしている中堅部下氏が、仕事の打ち合わせのあとで、そんなことを言った。そして彼は、「僕らも現場の1人という意識を持たないといけませんね」と続けた。その言葉に僕の胸は熱くなった。

その電話のあとも、緊急事態宣言下にある弊社を取り巻く厳しい状況は変わらなかった。売上減。人員配置を最小限へ変更。特に、我々、営業部は新規開発営業が完全にストップした。それでも、今、出来ることをする。普段仕事に追われているなかではなかなか出来ないことをやる。そういう覚悟をもって仕事にあたっていた。あの言葉がもたらした熱が、まだ残っていたのだ。僕には。そしておそらく全営業部員にも。営業マンも現場の1人だと。

僕のもとへ緊急連絡が入った。《配送スタッフの1人が体調不良。微熱》。2週間は休ませなければならない。悪いことは重なり、別の配送スタッフがギックリ腰再発。連絡は営業部から1名ヘルプで出してほしいという要請であった。要請を受けながら僕は「現場スタッフのありがたみが身に染みてわかりました」「僕らも現場の1人」という言葉で僕の乾いたハートを熱くしてくれた、あの男の顔を思い出していた。彼しかいない。

要請を快諾した僕はチームと情報共有したあとで、彼へ個別にメッセージを入れた。「待ってましたよ。やっと出番ですね」という期待した熱い返事が光の速さで……返ってこなかった。おかしい。僕は電話を入れた。結果からいうと彼は拒否した。「拒否していいですか?」一瞬、彼が何を言っているのかわからなかった。今、何と。いやいやいや業務命令だから。

彼は「今、緊急事態宣言が出ていますよね。こんなときに神奈川と東京都内を走り回るような危険をおかすことはできません。そもそもそんな命令を出す権利は誰にもありません」と言った。配送先の事業所の指定場所に荷物をおろすだけで、現地スタッフとの接触は最低限におさえてある旨を伝えた。現場のおかげで活かされている発言はどこへいったのか。彼は「受験を控えている息子がいるんですよ。息子の進路を心配している妻がうるさいんですよ。だから病気になるわけにはいかないのです。」と言い切った。そうですか。


「そこまでいうなら…あらためて確認になるけれど命令を拒否ってことでいいね?」「構いません。私は業務命令とは認めてませんから。現場は現場で頑張ってください。部長、ひとつ提案があるのですが…」「何?」「部長が手を上げたらいかがですか」「え…」命令を拒否された挙句、営業部長から配送ドライバーへのジョブチェンジを提案された。俺が上司で上司が俺で。動揺した。このあと「部長自らハンドルを握れば士気が上がります!」みたいな言葉が続くのだろうな…だが、現実は人情紙風船、そんなドラマのような展開はありませんでした。「部長には、お子さんがいらっしゃらないじゃないですか」と彼は言ったのである。クソが。

「確かに大切な部下を危険な目に遭わせるわけにはいかないな」と僕は言った。話は終わった。胸が熱かった。先ほどまでのほんわかとした熱さとは違うマグマの熱さだった。このような経緯で明日から数日間、営業部長である僕が、代理配送ドライバーとして軽トラのハンドルを握ることになったのである。安全確認、ヨシ!(所要時間19分)