Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

お役所プロデュースの採算度外視食堂案件に対応しました。

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僕は給食会社の営業部長だ。電話があった。「お盆休み明けに申し訳ないですけれど」という前置きから始まったそれは、某市役所の担当者からの問い合わせであった。内容は某市役所内にある食堂についてだ。春先に市役所食堂運営業者選定へのエントリーを打診されたのを思い出した。それまで市役所食堂を営業していた個人業者のおじさんが廃業することになったのだ。条件が悪かったので断った。平日ランチタイム3時間で平均100食あったが、その食数では利益が出ないといって辞退したのだった。あれから数か月。市役所食堂をとりまく状況が変わったのだろうか。

「ズバリ聞きます。食数が何食あれば当食堂の運営はできますか」担当者はたずねた。「食数が少ない」という理由で辞退したのを覚えていたのだろうね、食数に着目して質問してきた。実は食数の少なさ=売上不足を理由にしたけれども、その他の条件も良くなかったのだ。触れなかったのは面倒だったからだ。

【条件】客席は50席。施設は老朽化している。厨房機器と備品(食器含む)、光熱費は業者が負担する。面積に応じた施設使用料を市に支払う。強制ではないが市役所食堂という特性からランチの販売価格は800円程度に抑える。春先のときは、それらを踏まえて断ったのだ。言わなかったけどさ。

【試算】【売上】市役所食堂の売上(月)。客単価800円。1日100食で20日間だから月160万円。【支出】食材費が1食当たり400円だから月で80万円。光熱費は月10万円。厨房機器と備品は新品だと2千万かかるが中古でそろえて900万円(強引)。5年償却で月15万。諸経費(消耗品等)は月10万。人件費はパート3人体制で月約50万(時給1400円×6時間×20日間×3人)。この時点で合計165万。売上を超えている。ここに施設使用料が加わるのだ。営業利益が出ませーん。赤字でーす。

春先に連絡があったとき話をしながら頭のなかでこの計算をして断ったのである。断りの理由は「売上が不足していて利益が見込めない」であったが、そもそも諸条件が悪いのだ。個人商店が運営できたのは備品の償却が終わり、従業員(親族)の給与さえできれば営業利益を確保しなくてもよかったからではないだろうか。ていうか試算をしていないのだろうか。

「ズバリ食数を教えてくれ」と言うからには、この数ヶ月間で仕様を見直したのか、市役所を取り巻く環境に変化があったのだろうと推測した。たとえば厨房機器は市で負担することになったとか、市役所の近隣に大規模ホールやショッピングモールが出来て食数を見込めるようになったとか…。そんな淡い期待をもって僕は「1日500食、最低でも300食あれば可能性はあります」と答えた。「いいですね」と担当者。「何か状況は変わったのですか?」と質問したら「特に変更はありません。状況は変わりません」と返事があって絶望した。何の根拠もなく想定食数を増やせば数字上は運営できるだろうが机上の空論だろそれ……。愕然としていると「市としてもバックアップするので、企業努力で300食数以上に伸ばしていただければと考えています(キリッ)」と言い切ったのである。この数か月何をしていたの……。なお、バックアップは市の各施設にポスター貼付(業者負担)、館内アナウンスという効果の薄いものであった。

お役所はこういう仕事をずっと繰り返している。楽観に基づいた「こうなったらいいな」という願望でハコモノ(施設)を作って、後は業者に任せるというやり方をずっと繰り返している。厳しい部分は民間に丸投げだ。バカバカしくて付き合っていられない。失敗しても倒産しない、自分の金でやっていない、そんな危機感の無さが原因だろう。

今回もお断りした。声をかけた業者にはすべて断られていて、「何か打開策はありませんか」と泣きつかれたので、「食堂をやめて自販機コーナーにすれば手間もかからず収益も上がるのではないでしょうか」と親身になって答えたが「市の施設の有効活用と食堂設置意義の点からそれはできません」と反論された。いや、活用もなにも、稼働していない食堂は「おまえはすでに死んでいる」状態なのだが。

もう永遠に業者を探していればいい。そもそも真剣に考えていないよね。50席しかない食堂でランチタイム内に500食を回すには客を10回転させる必要がある。ミッションインポッシブルだ。まともに考えていれば僕が500食と答えたときに「いやいや無理でしょ」とツッコミが入るはずなのに「それでそれで」と前のめりだったからね。

これは一例にすぎない。国や県がやっているより大きな事業も似たようなものだった。公的な組織がやっている事業の多くはだいたいこんな感じで笑うしかないけど、原資は僕らが負担する税金なので全然笑えなーい。(所要時間27分)