Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

元給食営業マンが1食当たり100円台もある特養の厳しすぎる食事を考察してみた。

ネットで給食関連のニュースを眺めていて、給食の営業をやり始めた頃、特別養護老人ホーム(特養)のコンペで「朝食160円」という条件を見て驚いたときのことを思い出した。パンと牛乳ならまだしも、この価格でご飯、汁もの、主菜、副菜、漬物を国産食材を使用して安全で美味しい手作り感のある食事提供を求めてくるのだからたまらない。あれから数年経っているが、ちょっと調べてみたら、当時と特養の食事事情はそれほど変わっていなくてまたまた驚いてしまった。なぜ、朝食160円のような厳しい条件が出てきて、継続しているのか、給食営業マンの視点で原因について考えてみた。

 サービスにかかる利用料 | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」

まず、特養の食事代は介護保険の適用外となっており、原則、自己負担となっている。月額1名41,400円(税別/以後価格はすべて税別とする)。ただし、自己負担額については所得によって軽減されており、たとえば生活保護を受けている人ならば自己負担額は月額9000円となる(41,400円との差額32,400円は補足給付で埋め合わせされる)。

  いずれにせよ特養の食事代は「1人月額41,400円」であることを頭に入れてほしい。これを30日で割って日額にすると(特養の入札では月30日で算出するケースが多い)、「日額1,380円」となる。特養は朝食、昼食、おやつ、夕食の1日4度の食事提供があるがこれを1,380円で原則まかなわなければならない。ちょっと贅沢したときのサラリーマンのランチ1回分程度の価格で。きっつー。だがちょっと待ってほしい。これは食事代の額であって食材費ではない。どういうことかと申しますと、この1,380円は食材費と委託費(加工費)が入った額。超きっつー。

1,380円を780円の食材費と600円の委託費に分けて、780円の食材費を4度の食事に分解してみる。

例)朝食180円 昼食280円 おやつ40円 夕食280円 

どうだろうか。冒頭の「朝食160円」が滅茶苦茶条件が悪いものではないとわかるはずだ。780円(食材)と600円(委託)に分けたのは実際のコンペでそういう設定をする法人が多かったという僕の経験からである。

※実例をあげてみる。神奈川と埼玉の特養の割と最近のコンペの仕様書である。先述の食材費の枠があるため、無作為に検索したがほぼ同様の内容で驚いてしまう。

金井原苑1日680円(朝180昼220おやつ60夕220)

給食業務委託の公告にあたって | 老人ホーム、ショートスティ、デイサービス、訪問介護、訪問看護、ケアプラン作成の金井原苑|川崎市麻生区片平1430|神奈川県

花水木の里1日680円(朝160円昼240円おやつ40円夕240円)

平成30年度給食調理委託業者選定に係るプロポーザル実施の公告 | 社会福祉法人 高栄会

 特養によって食材設定については若干異なる。1,380円にこだわらず高い金額を設定する法人もある(補填しているのか利用者から徴収しているのかは知らない)。誤解してほしくないのは、食材費設定イコール食事の内容が悪いではないということ。ほとんどの施設がこの厳しい枠の中でやれることをやっている。営業で試食をした際、金額をきいて驚くような食事を出しているところもあった。残念ながら酷いところもある。だが、それは現場スタッフの努力に拠る部分が大きい。前提条件として、1日700円程度の食材費で「安全で、美味しく、家庭のような食事」を求めているのが問題なのである。

そして特養は老人ホームなので、常食だけでなく刻み食、ミキサー食、ソフト食、軟菜食といった嚥下能力にあわせた形態で提供しなければならないし、そこにアレルギー対応や治療食も加われるのだ。もし、特養の食事内容や使用食材のクオリティが悪かったとしたら、施設や業者が悪いのではなく、そもそもの条件、法律で定められた食材費の価格設定がおかしいのだ。このように、特養の食事は金額面でかなり苦しいのがお分かり頂けただろうか。

ここまでは食材費にフォーカスしていたが一方の委託費を見てみよう。例として食事代1,380円から食材費780円を引いて1日600円の委託費。定員100人の施設で1ヵ月30日をかけると月額委託費が出る。600×100×30=180万円。特養は年中無休で朝昼夕食事提供となるので、調理師を3名(交替要員1名)、栄養士1名、パートを提供時間帯ごとに3名(うち1名は交替要員)を配置する工程をざっくり作る。調理師3名の給与を30万、25万×2 計80万 栄養士を25万、パートを1,000円×4時間×21日×9名=75.6万 計180万円。直接人件費の合計だけで180万。先ほど算出した月額委託費180万と直接人件費だけで並んでしまうのだ。間接人件費やその他現場経費、利益を確保できない(説明が簡単になるよう直接人件費が180万になるように設定した)。

そこで何が起こるか。まずは労務費の圧縮。社員スタッフの給与を下げ、社員枠をパートにする。それから工程の人数そのものを減らすために、たとえばセントラルキッチンで調理した完全調理品を多用するようになる(湯煎であっためるような商品)。手作り感のある食事とはほど遠くなってしまう。このように委託費からみても特養の食事は厳しいのだ。

ここまでは食事を委託するケースから考えてきたが、自営でやられている施設もある。元給食の営業マンとしていうのもなんだが、自営でしっかり運営が出来るのが、利用者のことを考えればベストだと思う。1380円から利益を抜く必要がなく、全額を食事に投下できるからだ。

ではなぜ施設は業者委託をするのか。それは大きく三つの理由があるからではないか。一つはコスト面。自営だと労務費や食材費がかさんで1380円をオーバーするようなケースがありうるが業務委託費なら一定額で収まる。リスク回避かもしれない。二つ目は労務管理。自営の場合、スタッフが辞めたときに募集・面接・採用の時間と金のコストがかかるが業務委託すれば一切かからない。三つ目は代行保証。食中毒事故等が発生しで、保健所から栄養停止・禁止措置がなされてしまう場合、業務委託にしていれば給食会社が加入している代行保証制度で、制度に加入している他の業者や施設から、ケータリングなどの手段で食事供給がなされるが、単体の施設のみを自営で運営している法人だとこうしたリスクに対応するのが難しいからだ。

また、特養の食事事情は厳しいと述べてきたが、給食会社としてはまだ受託するメリットがある。それを証明するようにコンペになれば何社かは必ず集まる。ひとつは、特養は待機待ちであるようにほぼ満員であり条件が厳しいながらも食事売上が安定していること。飲食の世界でもっとも難しい売上予想のリスクがないのだ。もうひとつは特に大手の給食会社の場合は利益を生むシステムが確立しているから。大手の給食会社は食材と物流を系列子会社に任している。

なるほど当たり前ではないかと思うなかれ、780円分の食材を子会社に発注した時点で、利益が発生しているのだ。たとえば780円食材費設定の施設で食材発注の時点で利益を160円確保しておけば(伝票上は780円の商品)、30日運営で100名の施設ならば48万の利益を生んでいる計算になる。つまり施設現場サイドで利益がゼロであっても食材と物流を含めれば48万円の利益を確保できる。1,380円×30日×100名の施設なら総売上414万円、最低でも48万円(12%)の利益が確保されるなら、現場はきっつーでも、やるだろう。

このように厳しい食事代設定と、低い食材費と労務費のなかで施設や現場に無理をさせているのが特養の食事の現実なのだ。委託給食業界はこうした現場の無理を承知で特養の仕事を受託しているように僕には思えてならない。こうした無理のツケを払うのは実際に食事を食べている利用者のお年寄りたちで、つまり近未来の我々。他人事じゃないのだ。きっつー。(所要時間43分)

「君たちはどう休むか」に絶望した。

11月4日の朝日新聞グローブの特集「君たちはどう休むか」が非常に面白かった。「技術の発達で繋がりやすくなった現代における、持続的に働くための休み方」をテーマに米、独、仏、以の例を列挙していた。特集内ではそれを戦略的休息とも呼んでいる。ボスから就業時間短縮への施策案を宿題にされているので、個人的にもタイムリーであった。

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特集で紹介されていた仕事と生活(休み)についての考え方は大きく分けて2つ。ひとつは仕事と生活を完全に分ける。もうひとつは仕事と生活を融合させる。後者(融合)は「ワーク・ライフ・インテグレーション」と呼ばれ、すでに独の有名スポーツメーカーA社で導入されている、ワークとライフを分けるのは難しいし無理っぽいからいっそのこと分けるのをやめて融合させてしまおうという考え方である。冗談か奇策のようであるが、施策はまともで、社内にジムやスポーツ施設を設置していつでもリフレッシュ出来るようにし、上司同意のうえで勤務時間の振り分け可能とする、月20パーセントは就業場所を自由とする等々、会社内で休めるような体制を築き、仕事に生活(休み)を取り込もうとしている(逆か?)。記事にはないが、おそらくA社は社員のケアがしっかりしているからうまくいっているが、あくまで仕事と生活のコントロールの責任は個人にあるので、額面通り制度にしたら、うまく自分の仕事をコントロール出来ない人にとっては仕事と生活が悪魔合体する、ブラックな無理ゲーになってしまうだろう。ちなみに特集にも「ワークライフインテグレーションは素晴らしい働き方だが私には無理っす」と語る燃え尽き症候群の談話がある。

仕事と生活を完全に分ける例として米のIT企業が紹介されている。オフィス廃止。全社員リモートワーク。結果さえ出せば就業時間は問題にならず休暇も自由!CEO曰く「休みとは仕事を何もせず、会社について考えないこと」。最高すぎる。理想郷。これをウチに導入したい。どのような愛の道を辿ればこのような環境になるのだろうか。ところが愛の道どころか地獄紀行であった。CEOは「どうしたら最も生産的な働き方ができるのか」考えた。そして気づいた。休日という概念をなくして週7日働いて、1日の中で仕事と休みのバランスを取ればいいではないか。ウソーン!日本海軍の月月火水木金金がここに大復活。「1日5時間半に仕事を抑えれば、労働は週40時間以下になるぞ!」と彼は考えた!きっつー!ずっと仕事じゃん、アホちゃいますか、そう、凡人の僕は思ってしまう。だが凡人には天才の発想は理解できないものだ。CEOは実験した。すると、実験してみないとわからないものがあるのだね、実験はわずか2週間で崩壊、結果は「働く時間は減ったのに燃え尽きてしまった」。丸1日休むのと同じようには心身は回復せず筋肉を痛め1週間休むはめになるなど凡人からみてもバカみたいな実験は散々な結果に終わったのである。凡人に見えていても天才には見えないことがあるらしい。だが人間は経験からでしか学べない。このバカバカしい失敗が理想的な環境を実現するのに必要だったのだから決して無駄ではなかった。

僕がボスから与えられている宿題のヒントがここにはある。しかし、いきなりオフィス廃止!リモートワーク!成果さえだせば就業時間廃止で休暇自由!などと提案しても、実現は難しいだろう。なので諸事情を忖度して、いろいろな実験の実施を提案するつもりでいる。先ずは忌々しいオフィスを爆破解体し、理想郷の礎にするのを提案したい。新たな秩序は破壊から生まれると信じている。

休み方について考えるのは大事だ。だが「働くために休む」ではなく「休むために働く」「休むために休む」ことが大切であって、言いかえれば「ドラえもんの『ぐうたらの日』」こそが本来の休みのあり方だろう。「戦略的休息」「生産性をあげるため、持続的に働くための休み方」という考えを出発点にしているかぎり、どれだけ休みについて考えても、僕らが本当に休むことなど絶対に出来ない、「君たちはどう休むか」は、そんな絶望的な宣告をしているような気がしてならないのだ。(所要時間15分)

出ていった妻の憤怒と怨念が凄まじい。

私事だが、壮絶な夫婦大戦の末、先の日曜から妻がご実家へ帰ってしまっている。別居というやつである。喧嘩のキッカケは知人の結婚式。スピーチを頼まれていた僕は、当日の朝、妻を相手に練習をした。普段、そのような弱気は見せないのだが、最近の体調不良、目まい、吐き気、頭痛、鼻血ブー!が、僕を弱気にさせ、人生初のスピーチ練習をさせた。結婚なんてそんなにいいものじゃない、数年経てばわかるよ、という既婚リアルに言及した僕のスピーチを聞き終えた妻は、ひとこと、「クレイジー」と評した。それから、キミはバカなんですか、と。自覚しているが僕は相当に口が悪い。妻は常日頃から一連の僕の発言に不満を持っていて、結婚式スピーチ練習がヒキガネとなり爆発!夫婦大戦が勃発してしまった。で、出て行ってしまった。そして、妻が残していったメモが怖すぎるうえミステリアスだった。実際の映像が残っている。こちらである。

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「先天性なの  後天性なの 」と妻の愛する松浦亜弥の楽曲「ね〜え?」(セクシーなの?キュートなの?)の影響が見られるポップな冒頭から、「やっぱり脳の…」という諦念の締めまで、怨念が詰まっていて、ただただ恐ろしい。画像でもうっすら透けてみえるようにB面もビッシリと僕への怨みライムでギッシリ(トラウマになりそうで読み返すことが出来ない)。こんなに短くて恐ろしいラブレター初めてだが、僕へのポップな応援歌に読めなくもない。それでもやはり僕のスピーチは間違ってなかったと確信した次第である。(所要時間50分)

「ワークライフバランスをライフワークにする」ということ。

「ワークライフバランスが崩れているので、給料を上げてほしい」と訴えてきた過去をお持ちの部下の人から「話があるので時間をください」といわれた。嫌な予感しかなかった。当該部下氏は50代。横浜スタジアム前一等地のマンションや高級外車の購入、ご子息の私立学校への進学、ご子息の英国短期留学その他もろもろの要因で支出が増大し、収入が足りない状態になったのを「ワークライフバランスが崩れている」と捉え、「そのバランスを保つのも2010年代を生きる上司の仕事でしょ」的な甘い考えで、かつて、僕に昇給を求めてきたのである。速攻で却下した。僕が評価するのはあなたの仕事だけだ、と言ったのである。厳しいですね、と言われたが、どこが厳しいのか今だにさっぱりわからない。そんな部下氏なので、また終始家計収支バランスとワークライフバランスを混同した話をされるのでは…と警戒するのも無理はないだろう?

面談の冒頭、部下氏は「今、妻はパートを三つ掛け持ちしています。三つですよ。先日、息子に買い与えたサキソフォーンのローンを払うためです。一応、頭に入れておいてください」と意味不明なことを言った。何を何のために入れるのだろうか。サキソフォーンだろうか。さっぱりわからない。ありがたいことに、一応、と本人もわざわざつけてくれたように、絶対ではないらしいので、お言葉に甘えて僕は忘れることにした。彼に話を促すと、給料をあげてほしい、という訴えだった。やはり。きっつー。僕の評価対象はあなたの仕事ぶりだけだ、半年前と同じことを言った。あなたの家計が苦しいのはあなた個人の問題で、収入が少ないのを「わー!お金使ってるから給料あげないといけないねー!」と謎評価して給与アップするのはありえない、と。僕の宣告を受けて、部下氏は「私の家庭は関係ないです!私の仕事ぶりを正当に評価してください!」と声を荒げた。先入観をもっていたのは申し訳ないが、妻がパートを三つ掛け持ちしてる、いわゆるワークワイフの話題をしたのはそっちだろ、と言い返したいところを堪える。正当に仕事を評価する…か。部下氏は僕の預かっている営業スタッフのなかで優秀とはいいがたい。ノルマをギリギリで達成している平均点の営業マン。優秀なスタッフはノルマより更に数字を上積みしているので、正直、見劣りする。とはいえ部署全体の成績は悪くないので、本人の希望に沿っているかはともかく、定期昇給のタイミングで微増にはなるはず。冬季賞与についても同じである。という内容をオブラートに包み、「あまり期待させてもアレだから」「期待しないで欲しいけど」と逃げ道をつくりながら、話をした。誠実すぎる僕。すると部下氏は「数字にあらわれない、数字に出ない仕事も評価してください」と言い出した。氏曰く、人柄の良さや遅刻ゼロ、それから同僚とバトルしない協調性をみてほしい、と。なるへそ。もっとも僕が驚いたのは部下氏が、チームの輪を乱さないよう、数字が突出しないようにセーブしている、と言い放ったことだ。数字が出ない、ではない。あえて数字を出さないようにしていたらしい。勉強が出来ない人の言う「勉強は意味ない」みたいだ。どういうワンダー理論だ。なるほど、それがあなたの仰る「数字に出ない仕事」ですか。きっつー。僕は「もういいかな」といって話を打ち切ろうとした。アホは伝染するからだ。すると部下氏がふたたびワークライフバランスが崩れてる、なんとかしてほしい、という話をはじめたので、僕はこのあいだネットで見かけた薄気味悪いフレーズを持ち出すことにした。「『死ぬこと以外かすりキズ』って考え方もあるみたいですよ。生活頑張ってくださいよ」と僕が言うと、彼は「部長ご存知じゃないんですか。かすり傷でも人間は死ぬんですよ」と反論してきた。じゃあ、言わせてもらうけどね、あなたが時折投げつけてくるワークライフバランス爆弾のかすり傷で僕の心は出血死しそうなんですよ!とは、これ以上精神が疲弊して僕の生活が壊れるのを恐れて言わなかった。僕にも僕のワークライフバランスがあるのだ。(所要時間18分)

入社8ヵ月で部長になった僕が実践したクレーム電話への神対応について全部話す。

サラリーマンなって20年以上経つが、そのほとんどの時間を「新規開発営業職」として過ごしてきたので、営業をサポートする、いわゆる営業事務の仕事の経験が僕にはない。だが、部門長として営業事務スタッフを抱えているので、その仕事を何も知らないというわけにもいかず、数日間、実際にその業務に触れてみることにした。「やっていなければわからない」が僕のモットーだが、そのせいで僕はずいぶん損をしてきた気がする。激オコなクレーム電話を受けたのはそのお試し営業事務期間の真っ只中のことである。

我が営業部では、かかってきた電話に出るのも営業事務スタッフの仕事のひとつになっている。個人携帯を持たせているので、クライアントからの連絡は基本的にはそちらに入るようになっている。つまり、営業部の電話が鳴るときは、新規の仕事に係るもの、セールス、間違い電話、それからクレームで95%は占めているのではないか(体感的に)。営業部長兼営業事務スタッフ見習いの僕が激オコ・クレーム電話を受けることになった。「あの~。おたくにすごく迷惑しているんだけど!」声色から声の主はおばはんだと推定した。電話のディスプレイは9時ジャスト。始業同時にかけてくるあたりに相手の怒りと暇さが見て取れる。厄介だな、と直感。

クレーム対応はコツがあって、迅速な謝罪、事実確認、対応/解決策の提示、アフターフォローを順番を間違えずにやればいいと僕は考えている。フォローのあとにクレームを整理、分析して今後の糧にすればいい。迅速な謝罪をのぞけば、営業開発と一緒だ。いずれにせよ全体的にスピード感をもってやらなければならない。クレーム対応にしくじって炎上するのは、適切な謝罪を迅速におこなっていないことがほとんどだ。まずはお詫びだ。「ご不快な思いをさせてしまい、たいへん申し訳ありませんでした。私が責任をもって対応いたしますので、お話をお聞かせいただけないでしょうか」相手は、そんな機械的に対応されても困るんだけど、どうせマニュアル通りなんでしょ!とこちらにガチンコを挑みたいようなポーズをみせるので、キレちゃダメだキレちゃダメだキレちゃダメだ、と心の中でマントラを唱えぐっとこらえて、「機械的に思われたのでしたらお詫びいたします。私は営業部のフミコフミオ(仮)と申します。お話をうかがってもよろしいでしょうか」と対応。迅速な対応と身分を明かして不快の理由を開示するように促した。この事件の真相が発覚した事後、相手の名前と連絡先をこの時点で聞くべきと、周りから言われたが、どうなのだろう?営業マンの僕は自分から名乗るのが染みついているのでそれはなかなか難しい。事実確認フェーズに突入。

「あのね、おたくからDMが届いたのだけど、まあ、私もね、一度だったら何も言わないけれどね、送るのをヤメてといったのに、何回も送ってこられたら、仕事にならないし迷惑なのよ」「それはご迷惑をおかけしました」話によると、ウチの営業部が出したDMに対するクレームであった。確かに定期的にDMを発送している。送信拒否のサインが出された場合にはリストから除外して、次回に反映しているよう徹底していたはずだが、その工程で漏れがあったのだろう。「大変失礼いたしました。私から担当者に連絡して次回からこのような事態にならない対応させていただきますので、お手数ですがお名前とご連絡先をいただけませんか」これで事実確認フェーズから対応/解決策提示フェースに移行する…はずだった。だが。

「なんで被害者が連絡先を教えなきゃいけないのよ」オーマイガー!「確かに仰るとおりですが、ご連絡先をいただかないかぎりはまた同じご迷惑をおかけしてしまうので…」「そもそも教えていないのにウチの連絡先を知っているのよ!おたくは集団ストーカー?」こいつっ!いや。キレちゃダメだキレちゃダメだキレちゃダメだ。マントラを頭の中で唱える。綺麗な川の流れを頭に浮かべる。平穏を取り戻して僕は応じようとして、躊躇した。DMについては業者に任せているのだけれど、その際のクレーム対応のまずい例として「業者からリストをもらって送りました」というものがあったのを思い出したのだ。ブラック組織に情報が漏れていると勘違いする方がたまにいるからと理由だった。業者という言葉にアレルギー反応する人もいる。だが、今回の場合、特別にインターネットでお調べして、などと言ったら、むしろアウトなのではないだろうか。どれだけ修行すれば「私たちのチームにお任せください」と薄気味悪い連帯と自信を見せる損保会社のCMの人のようにスマートに対応できるのだろう…。

仕方なく僕は「個別にお調べして送らせていただきました。大変失礼いたしました。ですからご連絡先か、法人名を…」「そちらが送ってきたのだから、連絡先はご存知でしょ。大きな会社がひとつひとつウチみたいな家の連絡先を調べ上げられてるなんてこわいわー。眠れないわー」この方、もしかして世界から監視されてる系?世の中には数多のDM業者がいて、条件別に情報を収集したリストを持っていて法人ならほぼすべて何らかのリストに載っている、という現実を知らないのだろうか。個別に調べたのだから、知っているはずだ。相手の言い分は正しすぎた。僕は何か引っかかるものを覚えながら相手の話を促した。まずは話を聞いて、この引っかかりの正体を確実なものにしなければならない。

「メールを印刷した紙がね。無駄になったのよ。それからこの電話をかけている時間も電話代も」紙はA4だろうか。通話時間は10分を超えていた。クレーム対応に求められるのはスピード感。「大変ご迷惑をおかけしております。紙につきましては印字に要したインク代も含めた額を保障いたします。ご希望でしたら実物で保障も可能です。また、貴重なお時間を消費した分も規程で定められた額をお支払いたします。ですからご連絡先かお名前を」紙なんて1円もしないけどな、フリーダイアルだから電話代はかからないけどな、と言いたい気持ちをおさえながら告げた。すると「個別にー!調べたって言ったじゃないの―!」と相手は主張を繰り返した。受話器を下ろしたくなるところを、切っちゃダメだ。切っちゃダメだ。切っちゃダメだ。第2のマントラを唱えて堪える。着信から調べるか、と思ったら非通知だった。こわいわー。調べられてるー。という合間、合間のおばはんの呟きがクソリプ並にうっとうしかった。

ちょっと待て。「メールを印刷」といったな。おかしい。そういえば「ウチみたいな家」ともいっていた。ウチは条件にあうターゲットを絞って郵便とFAXでDMは送っているが、電子メールでDMは送っていない(速攻で削除されてしまうから)。それに送ったのは個人ではなく法人だけだ。FAXが届く、とはいうが、FAXを印刷する、とは一般的に言わない。「もういちど確認させていただきたいのですが」「なによ」「弊社からオタクに何が届きましたか」「DMよ」「DMは何で届きましたか」「なんだっていいじゃない。証拠に残るようにわざわざ印刷して取ってあるのよ」「それは電子メールをご印刷された、という意味ですね」「そうよ」「あの、大変申し訳ありませんが、今、どちらにお電話されてますか?」告げられた電話番号は下二けたが間違っていた。96が69に。ロック。シックスナイン。怨念は人の視界をおかしくする。もっともこの方は世界から監視されている系かもしれないが。僕が事実を懇切丁寧に丁寧語で説明すると、相手の人は、「あなたがご丁寧に対応するから悪い!」と言った。「お褒めいただきありがとうございます」事実確認フェーズと解決策提示フェーズ同時に完了。

アフターフォローがまだ終わってなかった。「このお電話にかかった時間はどうましょうか。その分を御請求させていただいても…」僕が言い終える前に相手は「あんたこわいわー!」と捨て台詞を残して電話を切った。切っちゃダメだ、切っちゃダメだ、切っちゃダメだ…。この出来事を営業事務のスタッフに話したら、よくありますよー、と言われてしまった。これは大変だ。僕は営業マンなのでカネにならない仕事を見下す傾向があるのは自覚しているけど、こういうカネにならない仕事の大変さがわかって良かった。部下たちからは神対応、神対応を讃えられたけれど、賞賛でもお世辞ではなく、かつて自分がそうだったように上司をおだてるふりをしながらバカにしてるのだろう。いったん、そのような邪な考えが頭に浮かんでしまうと、僕にはもう、彼らのいう神対応が紙対応としか、聞こえなかった。(所要時間40分)