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【続】元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。

神奈川県大磯町の中学校給食がそのマズさと、異常な残食率と、異物混入件数とでニュースになっているのを受けて先日このような記事を書いた。

元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。 - Everything you've ever Dreamed

書いた理由は「委託や給食やデリバリー方式が悪い」という片寄った報道が多すぎて「いや委託側にも非はあるよ」と、大磯町と近い湘南エリアの元給食業界にいた者として言い返したかったからだ。そういう意図で書かれていたので、なぜ、当該受託業者に決まったのかと、導入プランの拙さについてはほとんど触れていなかった。その点を補足するのがこの文章の狙いである。なので補足なので先の記事を読んでからにして欲しい。先の記事で、僕はこの大磯の事態の大きな原因として「条件の悪さ」を挙げた。特に業務委託料(総額134,224千円【580日分】/1日当たり231,420円)は調理盛付け配送を相応のクオリティと安全安心を確保しつつ実施するには心もとないものだとした。安く済ませようという委託側と安く受ける受託側双方の責任だと。ではなぜ委託側はそのような安い条件を出し、業者は受託してしまうのか。それは給食業界の特性に一因がある。現在給食業界にはマネー的にオイシイ仕事がない。かつては一般企業の社食や社員寮、社員クラブという案件があったが、現在、それらを新規に立ち上げるのは、ごく一部の例外はあるが大企業のみ。また既存の事業所も廉価な外食、コンビニ等の中食との競争が激化している(企業内にコンビニやファストフードを設置してるのを見たことあるよね)。オイシイ新設案件と既存案件売上の減少、福祉施設の給食に手を出すがこれまた年中無休3食提供で人はかかるわ生産性は低いわでひとことでいえば「大変」なのである。売上増や利益の確保が図れず、それをカバーするために、営業マンはうま味がないのを知りながらも今回の大磯町の中学校給食案件のような入札案件に手を出すのである。参加する業者があれば入札は有効になる。入札が有効となれば繰り返すのがお役所。どの業界も同じだと思うが入札案件負のスパイラルはこうして出来あがるのだ。ましてや当該受託業者は大磯の中学給食事業の受託1年後の平成29年に工場を新設している。

給食のエンゼルフーズ、神奈川に新工場 横浜の中学に弁当供給 :日本経済新聞

大規模な設備投資が予定されていたら、尚更、仕事を取りに行くよね…。多少無理してでも…ってことになるかもしれない。業務拡大の結果、衛生管理がずさんになった可能性もあるだろう。また、学校給食(公立保育所給食)契約の特性として、「労務委託方式(食材の売上は委託側に計上される契約形態)」と「契約期間の業務委託金」が保証されている点がある。業者にとっては、利益が少なくても確実に売上が確保できるのは大きい(大磯町の当該案件は3年度)。売上が多かろうが少なかろうが評価が良かろうが悪かろうがその委託金額の中で契約期間を乗り切ればいいのだ。悪く考えれば食数がどうであれ委託金額が確保されるので、食数が減ったほうが労務費は浮き、利益は出る(そんな業者はいないと信じたいが)。では、なぜ大磯町が今回の入札に当たりこのような条件を付し、マズいといわれる給食で全国区になってしまったのか。悪い人たちの話し合いがないと信じるならば、準備不足に尽きる。前の記事で書いたとおりに募集要項によれば業者導入スケジュールは「平成27年7月開始、10月業者決定、翌1月スタート」とあるように非常にタイトなものになっている。タイトなスケジュールは業界あるあるなのだけども調べてみると選定のキモであるポジション担当栄養士を入札とほぼ同時に募集している。

学校栄養士(任期付職員)を募集(締め切りました)/大磯町ホームページ

入札公募とほぼ同時に担当栄養士を募集して十分な準備が出来るだろうか。僕が給食担当営業時代に学校や保育所相手の営業でもっとも苦戦したのは、口うるさい栄養士オバハンだったものだが…。大磯町は不在。業者天国かよ。しかもこの担当栄養士の募集、条件が月給171,296円~である。給食業界にいる人なら皆知ってるが栄養士さんは薄給で、この条件も業界あるあるだが、それでも昨今の人不足で栄養士さんの給与も上がり気味であるし、ましてや学校給食の知識を十分に持った方をこの条件で採用できるか疑問である。さらに、大磯町の場合は1時間以上かかる場所からのデリバリー方式を前提条件としている。はたしてその条件とスケジュールで、学校給食の知識と通常の自校式やセンター式学校給食とデリバリー方式の特徴と差異を熟知した献立の作成と発注が出来る栄養士を確保できるだろうか。自校式センター式とデリバリー式では使える食材もメニューも別物である。それをこなせる逸材新卒が17万円で採用されたと願ってやまない。どうしても町側の杜撰な導入計画が透けてみえてしまうのだ(町がどのように委託金額も設定したのかもお察しだろう)。次に、入札の方式そのものの問題。今回の大磯町中学校給食の入札は公募プロポーザル方式が採られている。公募とは字のとおり公にして業者を募る方式だ(学校給食ではスタンダード)。公募といっても期日に町のホームページや掲示板に貼られるくらいで実務的には担当者から業者の営業に「何月何日からホームページに要項が出るのでよろしく」的な連絡が入るのが一般的(余程アンテナを立ててないかぎり知りようがない)。今回の案件も恐らくそういう流れで業者に声がけが行われているはず。聞くところによると参加した業者は2社だけだったらしい。たまたま別件で連絡を取ることがあって、競合他社営業マンに話を聞いたら大磯町の案件は誰も知らなかった。連絡がなかったからだ。なぜ当該2社だけだったのか。公募の名の下、連絡の段階で実質的な業者の選定が行われていたのではないかと疑ってしまう。今回ばかりは公募ではなく、デリバリー方式で学校給食を運営できる県に業者登録をしている企業から指名入札をすべきだったのではないか。確かに指名よりも公募の方がオープンでトレンドだが、安全性が確保されるのは間違いない。実際、横浜市の公立保育所は公募ではなく指名入札を採用し、信用できない業者を入札前に排除している(実効力があるかは別の問題だが)。また、先の記事で、異常な異物混入件数については異物が髪の毛、虫であることから調理後の混入が濃厚で前の記事では工程に無理があり目視チェックが行き届いていないと推測したが(新工場設置による人員不足と熟練度の不足もあるかも)、もうひとつファクターがある。意図的なものである。普通に注意を払って業務に当たれば年に100件の異物混入は起こるはずがない。僕が実際に経験した意図的は異物混入は「こんなマズい給食フザケンナ。トラブルを起こして迷惑をかけてやろう」的な食べる側が起こすテロ型と「仕事多すぎる。トラブルを起こして仕事を減らそう。どーせ人不足で首にならないし」的なブラック環境型があるので関係各位には原因の究明に努めてもらいたい。僕の推察では先の記事で書いたとおり工程の無理があってチェックが行き届かないが第一候補で、ブラック環境型が大穴ってところだ。テロ型を排除したのはそれが衛生管理の問題ではなくクレーム処理、顧客対応の問題だからだ。いずれにせよ、大磯町の中学校給食の問題は、コストと手間を惜しんだことに由来している。安全で美味しい給食事業にはお金がかかるのだ。大磯町には財政の余裕がないというのは言い訳にならない。同じ神奈川県中郡二宮町は大磯町より若干小規模な自治体ながら立派な給食センターを保有して町内中学校の給食をまかなっているのだ。このページを見てもらいたい。小さな町で大きな負担になっているはずだが立派に給食センターを運営している。

学校給食センター/二宮町ホームページ

僕は給食営業を担当しているとき、ケチっているクライアントに「社員食堂なんて利益を産み出すものではありません。中途半端に五をかけて五を無駄にするのではなく十をフルに活用していい食堂を作りましょう」と何度か言ったことがある。金が出せないなら満足な運営は出来ないとこちらから断ったことも多くあった。やるのもプロ、断るのもプロなのだ。学校給食も同じで安全で美味しい食事を提供するには金と時間は必要不可欠なのだ。大磯町の件はそういう考えが委託側と受託側に欠けているように見えてならない。まとめると給食ナメんなってこと。つらつらと業者だけが悪いわけではなく町の給食導入プロセスに問題があると述べてきたけど、町が入札の不備を認めるとは考えにくいので、おそらく受託した業者の衛生管理の問題とすることで幕引きをはかると予想しているけど、そんな幕引きでは問題解決にならないとだけは言っておきたい…。つって〆の言葉としようとしたら大磯町が予想通りの対応でおったまげたよ!

“異物混入給食”大磯町「業者変更せず」(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース

(所要時間55分)

元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。

町導入の中学校給食「まずい」食べ残す生徒続々 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 神奈川県大磯町の中学校給食のマズさと異常な残食率と異物混入件数がニュースになっているのを聞いてとても悲しい気分になった。なぜなら僕が長年食品業界に勤めており、一時期数年間ほどだが給食の営業を担当していたことがあるからだ。ましてや神奈川湘南西湘エリアは僕の地元。そのエリアで展開しているほとんどの給食会社は(完璧ではないものの)全体的には良くやっているのを知っている。なので、一部の業者のテキトーな仕事のせいで、学校給食はマズイ、委託最悪、デリバリーは不衛生みたいな風評が蔓延するのはちょっと我慢ならないというかいただけない。そんな義憤と、台風で外出できない状況から、なぜ大磯町の学校給食がマズくなったのか考察してみたい。先ず、契約について。公立の学校給食は通常、公募プロポーザル入札で決定される。大磯町もその例に従っている。中学校給食・調理配送等事業者を募集(募集を締め切りました)/大磯町ホームページ

給食業界の営業マンはここにある募集要項と仕様書を確認して入札に参加するかどうか決定する。この募集要項をザッと見てみるとポイントは2つ。献立作成と食材の発注は委託側(町)となっていること(つまり大磯町の栄養士が担当)。そして契約期間内の業務委託料。当該業務委託料は平成28年1月から平成31年3月末までで134,224千円。金だけの面でいえばこの金額で業務を遂行して利益を出せるか否かで給食の営業マンは入札に参加するかどうか決めるのである。1億3千万超の大金だが「こんなに金をかけてあの給食なのか」と思うことなかれ。1日当たりに換算してみる。要項に拠れば1年度における給食提供日数は180日とされている(平成28年1月から3月までは40日)。つまり契約期間内の給食提供日数は180日×3年度プラス40日なので580日。業務委託料総額134,224千円を580日で割ると1日当たりの業務委託料は231,420円。食材については町が発注調達となっているため(食材からは利益を得られない)、この金額内で1日870人分の調理盛付配送業務を行う労務費と経費をカバーし、その上で利益を確保しなければならないのである。会社によってこの規模の給食にどれだけの人員をかけるかは違うけれども、まあ普通に考えて余裕はないよね。少なくともこの業務を遂行するうえで必要な機材やスペースを新設することは難しいと言わざるを得ない(そのあたりが異物混入の遠因になっていると思う)。つまり、大磯町がこの委託金額をどういう根拠で設定したのかはわからないけれども、安全で美味しい給食を提供するには十分な金額ではない。契約形態に関していえば、食材の発注調達と献立の作成を町が請け負い、その他の調理盛付配送業務を業者に委託する方式(労務委託方式/学校給食では一般的な契約形態)の悪い面が出ている。この方式の場合、食材の発注調達と献立を作成する担当者と実際に調理をする業者と提供がなされる場所(学校)間の連絡が密に出来る環境が必要となる。今回の場合、大磯町の栄養士と委託業者(綾瀬市)と現場の距離がありすぎる。神奈川に住んでいる僕の感覚でいえば大磯町と調理業務を行う業者所在地まで1時間以上かかる。給食のトラブルで大事なのはスピード感のある対応である。なぜ近隣の市町村にある業者に委託しなかったのだろうか。不思議だ。契約形態に続いては提供方法についてだが、当該給食は調理した食事をランチボックスに盛付けて配送するデリバリー方式で行われている。つまり弁当である。クックサーブ方式(現場調理提供)と比べてコストは安く済むけれども、基本的に火を入れなければならない、適温提供が出来ないなどメニューと食材の制限が多いやり方でもある(例/生野菜→温野菜。揚げ物の多用。色どりは全体的に茶色っぽくなる。ニュースで見た当該給食も茶色っぽい)。そのデメリットを選考と導入の段階で周知されていたのだろうか。今回の大磯町のケースはさらに提供場所から車で1時間以上の工場からの配送という要因が加わる。業者サイドとしては食中毒を恐れ、弁当が傷まないようにするのが第一となって味や見た目が二の次になったのは想像に難くない。人の味覚はそれぞれなので何ともいえない部分があるけれども、大磯町の中学校給食がマズくなった理由は金額面と運営面で無理があったからだと僕は考えている。続いて異物混入の多さについて。ニュースから知るかぎり混入物が髪やビニル片や虫なので、意図的なものでないかぎり、弁当の盛付時と配送までの間で混入されたと思われる(フタ付きの弁当容器であるため、フタをしたあとは混入しない)。委託開始1年半で100件超の異物混入は異常としかいえないが、ひとつ原因があるとしたら、工程的な無理だろう。先の募集要項にこの給食業務は厚労省が策定した「大量調理マニュアル」に沿って行うとある。このマニュアルは給食業務に携わる人間にとっては一般的なものなのだが、そこには調理後2時間以内に喫食が望ましいとされていて、保健所からもそのように指導されている。2時間以内提供を守ろうとすれば、今回の場合、業者と提供場所(中学校)の間が車で1時間程度なので、調理後の盛付けはかなりのスピードで行われているはず。先述のとおり金額面で余裕はないので十分な人員を確保できるはずもなく、盛付けと確認作業は雑になっているのではないか(事実、盛付けのムラは報告されている)。また、僕のいた会社ではスタッフが目視でひとつひとつ確認していた。1日870食の弁当の目視を時間内に行うにはそれなりに労務費がかかるのである。もし少ない人員で混入チェックをするなら相応の時間が必要となり、その間、フタをするまでの時間は長くなり異物混入のリスクは高まる(古い工場なら天井からゴミや虫が落ちてきたりする)。一方、募集要項をみると金額面だけでなく時間的にもタイトなのが見て取れる。28年1月業務開始の2ヶ月前27年10月中旬に業者決定。年末年始を挟んだその2ヶ月間に先述の限られた予算内で870人分のキャパをカバーしたうえ、安全面を考慮した設備と人員の確保が出来るだろうか。安全を確保するには金と時間としっかりした導入計画が必要なのだ。最後にもうひとつ、これは大磯町特有のファクターなのだが、なぜデリバリー方式を採用したのだろうか。コスト面を考慮したのはわかるけれども、隣接する平塚市と二宮町は僕の知るかぎりデリバリー方式ではなくそれぞれ自治体でセンターを設置運営するセンター方式を採用して中学校に給食提供をしている(平塚の一部は自校式かもしれない)。平塚市はともかく予算規模的に小さな二宮町でさえ、給食センター方式を採用している、その理由について考察しなかったのだろうか。なぜ二宮町がデリバリー方式を採用しなかったのか。エリア内にデリバリー方式を安全に行える企業がないという前提条件は考慮されなかったのだろうか。この問題の根本には給食運営と安全性の確保に対する大磯町の甘い認識があったとしか思えないのだ。長々と書いてきたけど以上である。元給食営業マンから言わせていただくと、給食ナメるなってこと。ちなみに僕が現役の給食担当だったら募集要項を読んだだけで大磯町の中学校給食の入札に参加しなかったと思う。この事案は、安く済ませようとする委託側、安く受ける受託業者、実際にマズい給食を食べない両者が両者とも罪深いのだ。(所要時間50分)

試用期間中の僕にもたらされた非情な通告に戦慄しています。

新しい職場で働きはじめてから3週間、おかげさまで充実した時間を過ごせている。とはいえ絶賛試用期間中。8ヶ月に及んだ苦しかった失業期間。一族郎党からの冷たい視線。減っていく一方の預金残高。書きっぱなしで放置した履歴書。あんなツラい思いをするのは二度とごめんだ。そんな強い悔恨と大きな反省から、僕はこの試用期間を無事にやり過ごすことだけに集中している。「自分ならこれくらいは出来ます。費用対効果を見てください」つって自分を売り込んで決めた手前、一層の慎重さが求められている。元ロッテ・オリオンズの愛甲選手が執筆された名著「球界の野良犬」で学習した《エサは貰っても尻尾は振らねえ》精神を表に出さないよう、常に上役の目を気にしながら仕事に当たっている。ミスしませんように。輪を乱さないように。丁寧な仕事を心がけるように。そう、毎日、祈るような気持ちで出勤している。40代半ばに差し掛かった僕には次はあるかどうかわからないのだ。だが、そんなささやかな祈りに耳を傾けてくれる神はいなかった。試用期間を必死に生きる僕に悪魔の通告が来てしまい、今、僕は頭を抱えているところである。上を見て仕事していたせいだろうか。悪魔は下からやってきた。具体的には下腹部からやってきた。

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診断/前立腺肥大症。早期の入院と手術が必要。試用期間も終えていないのに一時離脱を余儀なくされてしまった。「健康面は問題ないよね」「まったく問題ありません!」ボスとのこんなやり取りが悔やまれる。「年齢が年齢なので相応にガタがきてますが、なんとか誤魔化しています」と言えば良かったか。人生に正解はないと思い知らされる。ドクターからは先っちょから管を入れてチョンチョンやるだけと言われたが何の慰めにもならなかった。仕事出来るマンをアッピールしながら、いきなり前立腺肥大マンに堕ちてしまうとは、この世に神はいない。病気とはいえ試用期間に一時離脱するような人間を果たして雇い続けてくれるだろうか、不在の間にやっとの思いで得た席を誰かに奪われてしまうのではないか、不安で仕方ない。今、僕は不確かな将来を前に不自由な前立腺と戦慄している。(所要時間10分)

【自己PR】私の異常な就職 または私は如何にして就職活動をするのを止めても定職に就くことが出来たか

おかげさまで新しい職場で素晴らしい仲間たちに囲まれて忙しくも充実した毎日を過ごしている。信じられないのは毎朝鏡に映る自分の顔、そして表情。弾道ミサイル発射直後に「米国を正義の炎で無慈悲に焼き尽くす」などとイキってる平壌市民のようにエネルギッシュなのだ。万歳。ほんの1ヶ月前まで炎天下の駐車場の片隅で熱中症に震えながらアルバイトしていたのがウソみたいだ。今だから言える。8ヶ月超の失業期間は想定外だったけれども僕の蘇生には必要な時間だったと。ハロワに通わない。求人情報も検索しない。傍目には昼スナック通いの怠け者にしか見えなかったであろう僕が如何に前職以上の待遇で超ホワイトな環境の会社への転職を叶えたか。ひとことでいえば発想の転換に尽きる。きっかけは幸薄そうな顔面をしたハロワ職員との就職相談でのやり取りだった。僕が真顔で希望の仕事・待遇をカミングアウトすると幸薄男は「そんな好条件の仕事はここにはありません」と言った。「ここにないなら隣町のハロワにあるのですか」「隣町にもありません」「ないの?」「全国津々浦々どこにもありません」そんな無意味なやり取りの果てに、僕が転職についてダーマ神殿の次点に評価していたハローワークはグッバイワークへと堕ちたのである。そのときわかったことがある。求人というのはその理由が欠員補充であれ何であれ、雇用主側の求める理想の型にすぎないということだ。ピッタリの型が見つかれば本当にラッキーだけれども、悲しいかな、僕にピッタリの型はこの世にはないらしい(ハロワ調べ)。そこで僕は求人には期待せず、働いていたときの人脈、どこの業界でも同じだと思うが営業マンには横の繋がりというものがあって、その人脈に流れてくる業界の情報に注意を払うようにした。誰々が辞めた。転職した。という類の人の動きではなく、ひたすら業界の動静を炎天下の駐車場で観察していた。スマホって便利だね、駐車場バイトをやっている最中、とある食品会社のトップの事業展開の情報が入った。情報といっても営業マン同士の雑談のなかで『アソコの社長がこんなことを言っていたらしい』程度の雑談レベルの情報。僕が以前積極的に携わっていた仕事であったのと、なんとなくピーンとくるものを感じて、知り合いを通じてその会社の営業マンにアポを取って15分だけ時間をもらった。貴社の事業展開に役に立つものを提供できるとか何とか理由をつけて。当時絶賛失業中。完全にハッタリである。与えられた時間は15分。僕はその席で営業ボーイに自分を売り込んだ。前職での実績。僕を雇用すれば貴社の新規事業展開にどれだけ貢献出来るか。予想売上と利益。中長期のビジョン。その際にかかる経費つまり自分の給料と社会保険料、費用対効果。エトセトラ。いきなり企画書を持ち出して自分自身を営業しはじめたので、ただ話を聞くだけと鷹をくくっていた営業ボーイは「そういう話は!」「ちょちょちょ」「いきなりそんな」と狼狽すると「ちょうど社長がいるので」つって飛び出していった。7分経過。あらわれた社長は僕より少し年上の落ち着いた人で僕の企画書に目線を落としたまま「続けてください」と言った。僕は自分自身の営業をもう一度繰り返した。社長は、話はわかりました、検討しますと言ったあとひとつだけ質問させてくださいと言った。「なぜ8ヶ月も失業していたのですか?大人にしては無計画ですよね」痛いところを突かれた。ここだけはハッタリは通じないとわかっていたので素直に無計画を認めたうえで「失業しながら自分に合った仕事を探していました」と答えた。「わかりました。もうひとつ。仕事は好きですか?」「正直いって好きではありません。ただ、やるなら楽しみたいとは思っています」それから丸一週間後に採用の連絡がきた。待遇は僕の望んだとおり。肩書きは営業第二チーム課長。新規事業にかかわる新設営業セクションなので人員は来春までは僕ひとりである。ハードルを上げまくって入社を決めたので仕事自体は大変だ。もちろん新たな同僚たちも高いハードルを掲げて来た人として僕のことを見ているのでプレッシャーは大きい。仕事は大変だが、仕事に集中できる環境は素晴らしく、今、僕はとても充実している。ハッタリというか詐欺まがいのルートでの再就職であること、天から授かった能力と容姿は人それぞれ違うこと、等々の諸事情から再現性はまったくないので参考にして欲しいとは思わない。僕がいえることはせいぜい、情報を得てから企画書をつくりアポを取りつけるまでを半日で片づけるようなスピード感が何よりも大切になるときがあること、そして、他人がつくった型枠に自分を当てはめるよりも自身で作った型枠を売り込む方が簡単なときもあるということくらいのものだ。偉そうにいえば、自分都合のタイミングで求人を作ってしまえばいいのである。このように順風満帆の僕だが、実はブラック環境から超ホワイト環境への適応に少々苦労している。もはや呪いとしか言いようがない。(所要時間23分)

20年引きこもっていた友人の社会復帰への決意が悲壮すぎて言葉を失った。

この記事の続きです。20年間引きこもりしている友人に会って思わず絶句した。 - Everything you've ever Dreamed

就職先で心身を壊して1997年の夏から20年間引きこもっている友人Fが社会復帰するらしい。僕は、たまたま美容室でFの母と一緒になった母からその話を聞いたのだが、嬉しさより不安の方が大きかった。なぜなら、数ヶ月前にスーパーで会ったFは20年前の世界からやってきた時間旅行者みたいに、僕がすっかり忘れていた中学高校時代の友人や出来事の話をしていたからだ。仕事。家族。病気。人にはそれぞれの戦いがある。生真面目なFにとってのそれは20年前のことを忘れないでいることだったのだろう。僕にはそう見えた。そんなFが社会に復帰するというのだ。不安を覚えないといったら嘘になってしまう。Fとはずっと同じ学校だったけど、一度もクラスメイトになったことはない。そんな僕ら二人の共通項はピアノ。高校時代。放課後の音楽室で即興の連弾で遊んだ記憶は強烈な印象をもって僕の中にあり続けている。久しぶりに会ったFは失業期間まっ只中でくたびれた僕を見て、連弾が不調に終わったときと同じように「お前大丈夫なのか?悩みでもあるのか」と声をかけてくれた。そのFの引きこもりが終わる。今度は僕がFにエールを送るターンだ。僕はFの家に電話をかけた。オバさんが電話に出て、少し、世間話をしてからFに繋ぐ。待っている間のビートルズのオルゴール。携帯電話やスマホをもっていないFとのコミュニケーションは僕にあの頃の気分を思い出させてくれた。「もしもし」少し声が明るくなった気がした。Fは近所の小学生低学年向けの塾でアルバイトとして働くらしい。「時給930円、最低賃金からのリスタート」とFは言った。企業への就職は、40代半ばで職歴がないことが理由で叶わず、諦めたらしい。「何も悪いことはしていないのになー。ムショ帰りみたいだよ」と笑えない冗談にあわせて無理矢理に笑った。確かに20年の空白期間は大きすぎる。世間一般的にはその時間は《無》と判定されてしまうのだろう。だがその20年はFがふたたび動けるために必要な時間だったのだ。Fの個人的な戦いは今までの20年よりもこれからの方がずっと厳しいものになると僕には予想出来た。乗り越えて欲しい。20年という時間が無駄でなかったと証明して欲しい。エールを送るつもりで僕は提案した。「就職祝いで飲みに行かないか?」「俺、金ないよ?」「もちろんオゴるさ」「ありがたいけどやめとくわ」断られると思ってなかったので少し驚く。かつての連弾パートナーは続けた。「ヤメておく」「お前と同じくらいのレベルになれたら、そのときにご馳走になるよ」「何年掛かるかわからないけれど」続けざまに出てくるFの言葉に悲壮な決意を見てしまい僕は言葉を失ってしまう。「やれると思うだろ?」Fの問いかけに僕は素直に頷けなかった。出来なかった。少なくとも僕は20年間社会人としてやってきている。自分が優れているとは全く思わないけれど、その差を埋めるのは僕には不可能なことに思えた。高校時代。ふいに連弾をしているときFが言っていた言葉を思い出してしまう。《俺のピアノに問題があったら、遠慮なく言ってくれ》 正直に「厳しいと思うけど頑張れ」と言うべきか、それとも「余裕だろ」と言うべきか。あの頃。僕はヘラヘラして誤魔化したのだった。でももう僕らは高校生じゃない。大人になった僕らには誤魔化したりはぐらかしたりして逃げる余地はない。迷っている僕にFは「気を使わなくていいよ。俺も無理だとわかってるから」と声をかけてくれた。そんな甘いもんじゃないのはわかってる、自信なんかあるわけない、と。Fは「でもやるしかない。もう俺には次はないから。許される年齢じゃないから」と。見透かされていた。Fの20年をどこかで僕は見下していたのだ。恥ずかしかった。僕は自分の過ごしてきた時間がFよりも絶対に価値や意味があると信じ切っていた。間違っていた。引きこもっていたFの20年と僕の20年は違う場所を走っていただけで、その価値は本人が決めればいい。ピアノと同じだ。連弾を弾く二人の関係は完全にイーブンで上下はない。あるのは時折の役割の違いだけ。役割。僕は自分の役割を果たさなければならない。僕は言った。「何年でも待ってるよ」。Fは何も言わなかった。かつてピアノの先生はこんなことを言っていた。《ピアノは歳を取っても楽しめる》 こんなことも言っていた。《ピアノは人生》。つまりそれは人生は歳を取っても楽しめるということになるのではないか。今、僕は20年間の引きこもりから蘇った年老いた友人とピアノの前に座るのを楽しみにしている。その日が何十年先だろうと僕は構わない。(所要時間21分)