Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

続々・私の異常なお見合い または私は如何にして家を追われて神を求め、極太ディルドをつくるに至ったか

 ウォシュレット。ああそんな、そんなところまで、などと呟きながらひんやりした便座に座り、小さな悦びにうち震えてはらはらと涙を流していた。口ずさむは即興戯曲《ウンコとウォシュレット》。「ああウォシュレット、あなたはどうしてウォシュレットなの」。お見合い以来、僕は追い詰められて生活が破綻寸前。用を足せばこのようにわけもなく涙をはらはらと流す有り様。というのも先日お見合いをした娘からの大河ドラマ「天地人」感想メールに加え、その母親からも連日、「オホホいつ我が家に遊びにきてくれるの?」やら、「家族一同楽しみに来訪をお待ちしておりますオホホ」というふざけたメールが執拗に送られてくるからだ。


 オホホ。なにがオホホ。浮かれてる。みっともない。僕が間抜け面に北京ダック片手で赴くような安い男とでも思っているのだろうかオホホ。腹立たしい。本来なら若い女性とお話が出来るのはオホホな心境になるのだが。普通の女性なら。そうです、彼女は戦国好き西軍派趣味コスプレだったのです。オホホ。破談にしようと企み、シモネタ連発、インポ告白してみたのだけど、「インポ。きゃー上杉謙信公みたいですうー」とわけの分からぬ軍神扱いをされたりしてぐだぐだと関係が続いている。以降も対外的に理性のある『いい人』であり続けたい僕は交際を断れないままでいる。つーかインポであることを流布されるのを畏れていたのだ。「ちょっと聞いたー奥さん」「なになにー」「あの人、イケメンだけどインポらしいわよ」なんて会話を近所で耳にするのを畏れていたのだ。


 で、今日は一緒にレッドクリフ2。朝イチの回を観て速攻で解散するつもりだったのだけれど「日曜朝は仮面ライダーを観るからダメですうー。変更キボンヌ」と言うので午後に待ち合わせ。「今日こそ、この因果断ち切ってくれん」と気合と魂のカップ酒《大関》を一気飲みした僕は、ママチャリを引きずって待ち合わせ場所へ向かった。で、待ち合わせ場所に膝までを隠す淫靡な黒い靴下をはいて、彼女はいた。「すみません遅れましたー」「今日は騎馬ですかあオヤカタサマー」ママチャリ=騎馬?オヤカタサマ。オオクワガタ。心を鎮めるために虫になろう。太ももを眺めながら目眩。「さっさと映画でも観ましょう」「合戦ですうー」声が大きいっつーの。


 で、レッドクリフ。髭の長いオッサンたちが二時間暴れるさまを観て、二時間分髭が伸びた僕と娘は劇場を出て裏通りにある蕎麦屋へ。とりあえず中ジョッキと板わさ。適当に「映画どうでした」と話をふる。「西軍が勝ちましたねぇ」は?「いやいや三国志だからあれ」「わたしの頭のなかでは関ヶ原ですぅー」「えー!」大丈夫かその頭。中ジョッキ追加。「ずっと関ヶ原に変換して観てたのですか?」「周瑜石田三成様、孔明島左近殿ですぅー」「や、やはり同人的には…」 「絶対ホモですぅ!」ジョッキ、がちゃーん。「お、落ち着いて!」「映画を観ながらずっと三成様はウケかな。左近様がタチかな。なんて考えてましたー」レッドクリフは、三国志は何処。「BLは嫌いですか?オヤカタサマー!」店のおばはんがこちらを凝視している。「シノさん声が大きい」「キミはやっと名前で呼んでくださいましたね…」「え…」「これからはシノじゃなくてノッピーでいいですうー」「ノッピー?」「コスのときの私の名前ですぅーお尻に☆が付きますぅー」ノッピー☆。「ああ…」。中ジョッキ追加。


 お下劣な話をするしか僕には手がなかった。「前に行ったとおり僕は『夜』はすごいんです」「暴君なんですよね。英雄、色を好む」「今だって《赤壁》じゃなくて女の子の《肉壁》のことで頭は目一杯!」「…」最低シモネタ炸裂。敵は沈黙。勝った。「でも…」「なにかありますか?」勝者の余裕だ。中ジョッキ追加。祝杯だ。「インポじゃなにもできないのですぅー」「そう僕はインポです。だから」「だから?」「ノッピー☆とノッピー☆のお母さんに子供を見せてあげられない。終わりにしよう」完璧だ。「キミは大丈夫だよ…戦えるよ…」はい?「母のアイデアですけどー」「なんでしょう?」「立たないなら添え木を当てればいいんじゃないかって」添え木!「なんすかそれは…」「戦に怪我は付きものです。手足が折れたら添え木を当てて戦うのが武士ですうー」「無理だ…」中ジョッキ追加。「母はムコ殿ムコ殿と大騒ぎしながらキミが来るのを待ってますぅー」「ムコ?どーいうこと?」「私には男キョーダイがいないのでお家断絶の危機なのです。ですからキミが我が家の希望。お母様もムコ了承済みですぅー」僕は知らず知らずのうちに家族に捨てられていたのだ。中ジョッキ追加…。


 家族から捨てられ、ノッピー☆と別れ、部屋に帰った僕は神の不在を知った。この世に神はいない。それならば。それならば自分の手で自分の神を作ろう。インポでも出来る。工作は得意だ。神だ。神だ。とにかく神だ。僕に都合のいい神だ。僕は角材を削り神をこしらえていった。ええーい神よ。我を守りたまえ。つくりかけの神のいでたちは、まるで僕の煩悩を映したように、



ディルドによく似ていた。自作のディルドを前にして呆然としている僕の目の前でケータイが光る。メール受信。「今度は我が家に来てくださいね。母と家でお待ちしてますうー」敵は煩悩寺にあり。どうやら修羅となってお手製ディルド片手に敵の本陣へ突撃するしか僕にカードは残されていないらしい。