Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

セカンド・サマー・オブ・ラブ


 高校からのガールフレンドの暑中見舞いにはお決まりの手書きメッセージが添えられている。「元気ですか?」僕は玄関先のポストの前で彼女の言葉を読み、ほとんど不審者のように隣家の女子大生が住む二階を見るふりをした。元気だよバカ。もう残暑見舞いだろバカ。

 僕はアラフォー。暑中見舞いや賀状のやりとりだけになってしまった学生時代の友人も多い。彼女もその一人。結婚しました。新しい家族が増えました。そんなハガキに添えられていた彼女の手書きの言葉は、いつも幸せが跳ねているようだった。僕はいつも気のきかない言葉を返していた。元気だよ。新婚生活どう。育児大変だね。それで、よかったんだ。


 数年前の秋、彼女から喪中の知らせが届いた。亡くなったのは彼女のご主人だった。三十そこそこの急死。そこに添えられていた彼女の言葉を僕は忘れることができない。

「お腹にいる次男共々みんな元気です」

力強さ、決意、受け取った者への気づかいと優しさがそこにはあった。焦った。彼女を支えるような言葉を。彼女の力になるような言葉を。そんな言葉は都合よく僕に降りてこなかった。どうして投げかけるべき、ふさわしい言葉をとらえられないのだろう。言葉の神様は努力を怠った者に冷酷だ。僕が掴むのはいつだって言葉の残滓だ。けれども僕の格闘は無駄だった。喪中ハガキに返信するタフネスをそのころの僕は幸いにも持ち合わせてなかったから。


 彼女とのハガキだけのやり取りは続いた。何も変わらなかった。僕は、何も出来ない、気のきいた言葉も捧げられない、自分の無力さにもどかしさを感じながら、そして時折、彼女の生活がどうなっているのかという興味本位野次馬根性丸出しになるの自分にヘドを吐きながら、変わらないやり取りを続け、相変わらずの言葉を並べていった。


 そして今年も夏が来て、いつもの「残暑見舞いじゃね」っつうタイミングで彼女からの暑中見舞いが届く。いつものように添えられた手書きの言葉。「元気ですか?こちらは母子共々元気です」。元気だよバカ。元気ですかじゃねーだろバカ。僕のことはいいだろバカ。自分のことだろ。僕はあのときみたいに彼女の強さと優しさに圧倒され、嬉しくて、近所のガキが遊んでるすぐそばで半泣きだ。僕は彼女のように強く優しい人間になれるのだろうか、自分の伸びしろの無さに情けなさを感じながら。彼女のメッセージは、こう締められていた。「またまた結婚しちゃいました」。さて、どんな言葉を返そう、名前が変わった、変わらない彼女に。多分、ありきたりの言葉、それでいい。


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