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Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

毎日、妻にファブリーズをかけられています。

日記

 仕事を終えて帰宅するなり玄関先で配偶者からファブリーズをかけられているのは僕だけなのだろうか。ファブリーズとは、P&Gから発売されているスプレー式消臭・除菌剤で、妻はそれをピストルに見立てて構え「バキューンバキューン」、眉間、胸、腹部、股間、背、手足の順で僕の全身を撃ち抜き、消臭・除菌するのだ。

 

ファブリーズ ダブル除菌緑茶成分入り 370ml

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 僕は汚物か。汚物は消毒か。悔しくて悔しくて仕方がない。胸を撃つとき、妻がわざわざ北斗七星の形に撃つのが、そして僕の股間を撃ち抜くとき、「梨汁ブシャー!」と言わされるのが、屈辱的で、より悔しい。

 

 僕は臭いのだろうか…それともバイキンマンなのだろうか。最近、洗濯物も別々になされているうえ、信用出来る情報筋(義妹)によればもう一台洗濯機、僕の洗濯物専用の二槽式の購入を画策しているようでもある。くそ。そのへんをハッキリさせてモヤモヤにバイバイキーンしたく妻に尋ねてみた。

 

 すると妻は「妊娠中の喫煙は、胎児の発育に悪影響を与える恐れがあります」と無表情なボーイソプラノ風に言うだけであった。 妻が僕という存在をどれだけぞんざいに取り扱いをしておられるのか、測りかねるところではある。だが妻の言葉から、妻が、僕が妊娠していると考えていること、及び煙草の臭いを嫌悪していることがみえてくる。僕はまだ妊娠していない。だが、臭さは否めない。

 

 僕は臭い。それは認めよう。けれど煙草臭ではない。断じて。なぜなら僕は煙草を吸わない。わーたーしは吸ってないー。潔白だー。正直に告白しよう。僕の臭いの正体は加齢臭だ。絶望はしない。カレーシューってパンケーキ屋さんで出す創作シュークリームみたいだよねと現実逃避もしない。「認めたくないものだな。自分の加齢ゆえの臭いというやつを」とニヒルに決めるつもりもない。僕は臭いのだ。掛け布団を頭までかぶると吐き気を催すほどの加齢臭を発している。

 

 だが自覚している。きっかけはある時期、同僚から「昨日ギョーザ食べましたね!」と言われるようになってから。もちろんギョーザ、食べていない。心ない言葉に対して「羽根つきギョーザをちょっとね!」と応じる僕は心で泣いている。


最終的に、ギョーザですかと言われることもなくなり、気まずそうな伏し目がちの同僚に対して、尋ねられてもいないのに「いやー毎日羽根付きギョーザでさー」と自ら吹聴してまわる、羽根つきアッピール野郎にまで転落して現在に至る。僕の心のギョーザの羽根は、太陽に近づきすぎたイカルスの翼のように焼け落ちている。

 

 夫婦なんてパートナーの臭いを忌み嫌うのではなく、お互いの加齢臭をかぎあって生きていくようなものじゃないのか。そもそも、夫婦の道の前に、人の道として、仕事で疲労困憊になって帰ってくる僕にファブリーズを乱暴に噴射することはどうなのか。僕は、僕の臭いは、月の小遣い1万円ポッキリで一所懸命働いた結果、吹き出した皮脂が原因だ。つまり家族への思いの強さの反映なのだ。

 

 もう少し、そのあたりをくんでくれよと詰め寄ると妻は「十分に考慮したうえでの行為です」という。妻、曰く、「臭いの強度によりファブリーズ、リセッシュ、ハイジア、3種類の薬剤を使い分けていますぅ」。使い分けの詳細は企業秘密とのこと。

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 考慮するポイントがズレている。まるで僕の気持ちがわかっていない。けれども妻が、彼女なりに僕のことを考えてくれていることが僕は嬉しい。たとえ、その行為が間違っているのだとしても。僕はそのあやまちを許す。きっと、許しあっていくのも夫婦なのだ。「妻を憎んで罪を憎まず」と心に誓って今宵も僕はピストルの標的になるのだ。