Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

社畜からの脱出

 平成27年9月9日、午前5時。社畜の朝は早い。今日のような台風の日はなおさらで、試されるのは社畜力。僕は、交通機関の遅れを予想し1時間早く出勤したが、出勤直後に自宅待機命令が出されているのを知る。非常なのか、非情なのか、わからない。

 

 自宅待機命令にもかかわらず定刻までに何人かの社員が出勤してきた。僕や彼らに自宅待機命令が出されていなかったことに驚いたけれど、仕事上での目立った活躍を見たことのない彼らが、覇気のない顔で西日の当たる窓際や空調が直撃する場所に与えられた席に座り、アクビをしながらYahoo!ニュースを閲覧しているのを目撃してしまうと、驚きは失せ、諦めが心に広がっていった。地獄だ。ここは地獄なのだ。

 

 任せられている仕事がある。3ヶ月の自宅療養から復帰した営業課長の僕には、一部上層部により進められている《営業部門外注化》のための販路の確保や顧客リストの作成という重要な仕事がある。仕事はきっちりやらなければならない。たとえそれが自分の墓穴を掘るようなものだとしても。

 

 与えられた仕事はしっかりとこなす。一仕事人としてのプライドもあるが、過去にこなしてきた自分の仕事を僕は裏切りたくない。外注先の営業が苦労することのないよう、スムーズに業務移行が出来るよう、しっかりとした仕事をするつもりでいる。外注営業がポカをして会社の信用を損なうような事態は絶対に避けなければならない。一部の社員たちからは、僕がワザと営業外注化を妨害するような仕事をするのでは?という疑いをかけられている。さいわい、このブログは会社バレしてるので、疑いを晴らすために所信表明をさせていただく。

 

《僕は自分を殺して営業外注化を進めるぞ~。適当な業務委譲準備をして営業外注化が失敗、頓挫し総務部長の足元がグラつくような仕事は絶対に、絶対に、絶対にやらないぞ~~》

 

 全力は尽くすけれども、総務部長の評価通りなら僕は「仕事の出来ない危険分子」、仕事のクオリティもそれなりなので、その結果として営業外注化がしくじってしまったら本当に申し訳ない。墓穴は二つ掘っておくので総務部長、ご自由にご利用ください。
 

 人はそれぞれ正義があって、僕の嫌いな彼にも彼なりの理由があると思うんだ、とSEKAI NO OWARIは仰っておりますが、団塊ジュニア世代の僕には、セカオワが売れている理由も、総務部長の正義もよくわからないし、わかろうとも思わない。人と人なんて、分かりあえやしないってことだけを分かりあうしかなく、それでいいと僕は考えている。

 

 閑散としたオフィスで、与えられた仕事をテキトーにやっていると、もちろんこのテキトーは《イイカゲン》という意味ではなく《目的にかなっている》という意味で使っているけど、いかにもうだつのあがらない同僚が、ああああああああっと奇声を上げた。当該同僚の姿が眩しすぎて直視出来なかったので詳細はわからないけれど、その同僚は色、大きさ、カタチ、様々な種類のネジのようなものが大量に入った箱からひとつひとつネジのようなものを取り出し、分別するというクリエイティブな仕事をしているようであった。元々は広告を担当していたはずだが、《職務拡大》という名目でネジ選別というクリエイティブな仕事も任されるようになったそうである。キッツー。

 

 仲間を見殺しには出来ない。絶対に。今やっている仕事に僕がたぶん無意識のうちに仕込んでいる不発弾が炸裂すれば、営業外注化は頓挫し、この地獄から日の当たる場所に這い上がれる。まだ希望はある。その希望は細く、頼りない、蜘蛛の糸。僕は蜘蛛の糸でこの地獄から地上にあがる。自宅待機命令が送られるレベルの人権を取り戻す。あ。芥川龍之介によれば蜘蛛の糸は一人乗りだった。仲間を見殺しにするのは忍びないが、今回はスマン、見殺しにするわー。とりあえず今は自分だけがこの地獄から救われればいい。ああああああ。叫び声ふたたび。もう底は見ない。見てしまったら社畜以下の何かになってしまう気がするから。