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Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「豊かさ」って何だろう?

日記 メモ

 「豊かさ」って何だろう?不惑を迎え人生の折り返しターンをしたからだろうか、最近そんなことばかり考えている。真っ先に思いつくのは金カネマネー。豊かさは金だけじゃない。カッコいい車に乗ることや、大きな家に住むといった「モノ」を豊かさとする人もいれば、大勢のガールフレンドとの交遊のような賑やかな時や、心の落ち着く静かな暮らしといった「時間」を豊かさと考える人もいる。また、地方に移住してトマトを見つめながらサラリーマンを揶揄することに豊かさを感じるような哀れな人もいる。豊さとは人それぞれ。いつもそんなつまらない結論に至るわけだけれども、僕はその過程で一人の中年男を思い出してしまう。

 

 四半世紀も昔のことだ。当時、僕は県立高校に通う高校生で、吹奏楽部、俗称ブラバンでトロンボーンを吹いていた。コンクールや大会に出場しないユルいブラバンだったので、音楽室の隣にあった音楽準備室で、女の子のことやゲームのことなど、ホントにくだらない話ばかりしていた。ブラバンのOBで時々トレーナーとして演奏指導にやってくる中年のオッサンがいた。正確な年齢はわからないけれど当時彼は三十代後半から四十代前半の、ちょうど今の僕と同じくらいの年代で、僕の記憶が正しければ確か独身だったと思う。仕事は何をしているかは覚えていないけど土曜の午後にあらわれる格好はたいていダサいスラックスで、薄くなりはじめていた頭髪の効果もあってひどくくたびれているように見えた。

 

 彼は貴重な休日にわざわざ時間を割いて高校にやってきては、何の手当もなしにトレーナーを引き受けていた。ユルい部活だったので厳しい目標もない。僕は口では「アザース」つって感謝をあらわしてはいたけれど、正直言って彼のことを少しバカにしていた。周りも少なからずそういう目で彼を見ていたのではないだろうか。県下有数の進学校に通い、まだ若く、燃えるような理想を持ち、上昇志向の強かった僕は、金銭的な見返りもなくトレーナーをしている彼の存在を理解出来なかった。もしかすると小馬鹿にすることで自分のちっぽけな価値観を守っていたのかもしれない。 

 

 僕が自分の間違いに気づいたのはずいぶん後のことだ。豊かさとはお金だけじゃないって気づくまでは。彼は純粋に音楽を愛していた。そして彼自身がどう思っていたかは永遠にわからないけれど、木管楽器のスペシャリストだった彼は可憐な女子高生部員に「レッスン」と称してはクラリネットやサックスを差し出させて、それを吹いていた。毎週毎週。何本も何本も。女子高生の心からのイヤそうな顔。彼に悪いからという理由で彼使用後のクラリネットを思い切りハンケチで拭けない乙女心。

 

 彼の本心はともかく、それらはお金には替えられない価値のあることなのだと今の僕にはわかる。不惑を迎えた平凡な会社員の僕が、今後、合法的に女子高生のクラリネットを咥えるようなことはないだろう。勝利者で豊かな人生を送っていたのは彼で、敗北者は僕だ。在学中の3年間で彼が男子部員から楽器を取り上げるのを見たことは一度もない。多分そういうことだ。

 

今、豊かさについて考えれば考えるほど彼を心の底なら羨ましく思う。クッソー!ウラヤマC!僕が今、当時の彼の立場ならと想像しては歯ぎしりをしている。このブログは会社バレしているので、ストレートにあらわすのはひどく難しいけれど、本当のことを言うよ。僕は、毎週土曜日の午後に、女子高生のクラリネットを、吹いてみたい。それは僕が永遠に手にすることのない豊かさなのだ。

 

 クラリネットについていえば、パパからもらった僕のクラリネットはとっても大事にしてたのに壊れて出来ない時がある。どうしようどうしよう。戸惑う毎日。僕は夢想する。もしJKにパッキャマラードパッキャマラードしてもらえたらパオパオパッパッパッパオーンでパンパンパンパン!出来るのにと。彼は、今も、女子高生のクラリネットを吹いているだろう。僕のような愚か者を嘲笑いながら。敗北者の僕は壊れたクラリネットと並んでライザップ使用前の人のようにうなだれるしかない。