Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

エマージェンシー!オッサンをなんとかして!

 地元の青年会は季刊紙を春、夏、秋、冬と年四回発行している。僕は青年会書記代理という要職に就いているので、こないだの日曜の午後はその季刊紙の「夏の号」打ち合わせに参加していた。夏。もう夏なのだ。そういえば暑い。僕がぼうっとしているうちに空気は初夏特有のカラっとした熱を帯びていた。


 公民館のいくつかある中会議室の一室を貸し切り、折り畳み式の長テーブルを4つ正方形のカタチに組み合わせ、パイプ椅子を並べ、即席の会議場を仕立てた。メンバーは会長オッサン、会計オッサン、書記オッサン、お祭り部長オッサンと謎のオッサン1号、2号とオッサンV3と僕の8名しかいないので、普段は週末の社交ダンスの練習場にも使われる広さを持つ会場は少々大袈裟かもしれない、なんて思いながらパイプ椅子を並べていた。


 恐るべし。全員が着席した瞬間にこれだけのスペースがオッサン特有の臭いで充たされるのだから。オッサン恐るべし。何もいわずにエアコンのスイッチを入れる、クールな僕。動揺を見せずに人数分用意しておいたペットボトルをテーブルの上に並べていく。緑茶と烏龍茶をそれぞれ4本。烏龍茶が飲めないんです。紅茶はないんですか。ホットはないのかね?炭酸が飲みたかったなあ。無視して会議を始めることにした。「定刻となりましたので…」今回の司会進行役は僕なのだ。


 会議は順調に進行した。季刊紙の原稿は地区の決まった人に割り振っているので、〆切までに回収すれば成り立つ。楽勝だ。ただ、最後にひとつ課題が残った。この春に行われたお祭りについての原稿を書く人間が決まっていなかった。謎のオッサン1号が撮ったというお祭りの写真に添付する原稿だ。写真のなかでは、子供たちがお神輿を担いでいる。神輿に手が届かなくて格好だけしているチビっ子もいる。なかなか素敵な写真だった。やるじゃん1号。ともかくだ。その素敵なお祭りの写真につける原稿の担い手がいないというのだ。


 途端に先程まで静かだったオッサンたちが騒ぎ出した。「隣町へのメンツもあるし流麗な文章が欲しい。ゲッ」「賑やかさ華やかさ、我が町内の活気が伝わるようなやつですね」「ハークション!」「写真に負けない力強い文章がいいですね」「ウゲーッ」オッサンたちの意見の合間にはゲップやクシャミがインサートされた。まるで自分たちの存在を主張するかのように。


 「若いセンスでナウさを前面に出したいね」「隣町に負けたくない。インディアンズ(少年軟式野球チーム)が隣町のスネークスに連敗していますしね」等等。エトセトラ。インディアンズのユニフォームを旧南海ホークスに似た古臭いやつからいい加減変えてやればいいのにと思いながら、僕は自分が原稿を書くと言った。何より、負の連鎖、ゲップの連発を断ち切ってこの会合をさっさと終わらせたかった。


 「我々の要求はわかってくれてますよね。ではアナタに頼みます。素晴らしい原稿を期待していますよ」会長オッサンは言った。僕は〆切と原稿の文字数を確認した。会長はあっさりと言った。「25字です」…25字!無理だ…。


 僕は即席で原稿を考えて提案する。「3月×日○○町○○神社のお祭りで神輿を担ぐ子供達」ホワイトボードに書いた僕の力作をみてオッサンズは一斉に顔をしかめた。数秒してオッサンズの集中砲火が始まった。「起承転結がないよね」「悪いけど文学性がない。フミコさんは本を読まない人なのかな」「ハックショーン」「こういってはなんですがセンスが、古くないですか?ナウくない」「ゲフッ」「これだから最近の若い人は…」「オリジナリティがね…」オッサンズは僕の思った以上に手強かった。僕の原稿はゲップとクシャミにまみれて修正され以下のとおりに変身した。


 「○○神社の中心でワッショイと叫ぶ(2008年作品)


 オリジナルでナウいぜ!悲しいことにノンフィクション!体内から沸々と湧き出るアツサはきっと、きっと夏のせい。震えるぞハート! 燃えつきるほどヒート!