Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

25年後の磯野波平


 「25年後の磯野家」というグリコのCMシリーズをご存知だろうか。「サザエさん」の磯野家の25年後をカツオたち磯野チルドレンの視点から実写で描くシリーズCMだ。このCMを観るたびになにかモヤモヤした気分になるのは僕だけじゃないと思う。「彼」がいないからだ。「彼」=磯野波平。磯野家の主=NAMI★HEIは、コルレオーネ・ファミリーにおけるドン・コルレオーネ、EXILEにおけるHIRO、杉山清貴&オメガトライブにおけるカルロス・トシキである。そう、僕らが「25年後の磯野家」にひかれてしまうのは《大人になったカツオたちの存在》ではなく《波平の不在》にこそあるのだ。僕たちが愛したNAMI★HEIはどうなったのだろう?年老いて「バカモン!」一喝ができない体になってしまったのだろうか…まさか…信じたくないけれど…故人に…という不安をあのCMははらんでいるのだ。極論かもしれないが、人生は波平を追うようなものじゃないだろうか。プラットホーム、公衆便所、キヨスク、公園、人ごみのなかで僕らは波平の影をさがしてしまう。日本が燦然と光り輝いていた昭和を波平に重ねるようにして僕らは波平を探してしまう。僕だってそうだ。波平のことを忘れたことは物心ついたときから一瞬たりともないなんてことはない。


 僕らが愛してやまない波平はどこへいってしまったのだろうか?今何をしているのだろうか?かつて波平が理事をつとめていた秘密結社TTK(都下禿頭会=とかとくとうかい)からの極秘情報をもとに捜索を開始し、人食い蟹や人面トカゲ、一時停止を監視する警察官…幾多の困難を乗り越えた約一時間の旅路の果てに、ついに波平の居場所を突き止めることに成功した。これがその証拠画像である。



 波平は関東某所で経営者になっていた。看板に「磯野」ではなく「波平」を掲げているところに、世襲を否定し、三十路を過ぎてなおプロ野球選手を夢見る息子・カツオへの厳しさとエールと強い父親としてのソウルを感ぜずにいられない。現場は雑草が生い茂っていて車を停めることはおろか侵入さえ不可能におもえる土地であるのに「無断駐車」を禁じてしまうあたりに、近所の子供を叱り飛ばしていた古きよき昭和のカミナリ親父の矜持を感ぜずにはいられない。磯野波平は生きている。磯野波平は生き続ける。僕やあなたの心のなかで永遠に。ついでにフネも。