Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

信仰上の理由により別れた恋人を見かけた。

 最初に疑問がある。恋人でも愛人でも女房でも構わないのだけど、かつて関係のあった女性が他の男といるのを見かけたときに3カウントでこみあげてくる、あの感情は何だろう。僕はその奇妙な感情を、男女平等の立場からアナルシンドロームと呼んでいる。けれどもそれが、正確に、どこから、去来するものなのか確かめるのはひどく難しい。嫉妬。郷愁。フロンティア精神。先住民族の誇り…わからない。過ぎてしまった時間を掘り返すことは、プラスのねじをマイナスドライバーで回そうとするようなものだ。うまく回せるかもしれないが、素敵な思い出までも壊してしまいかねない。

 日曜の夕方、ホームセンターで「彼女」と再会したときに沸き起こった感情は、より熱気を孕んだ、異質なものだった。十年前僕と連れ添っていた彼女は、ご主人らしき男性と連れ添って買い物をしていた。彼女のお腹は大きく膨らんでいた。食器コーナーをご主人とじゃれあいながら遠ざかっていく彼女の背中。僕はその小さな背中に幸せを祈った。本当に自分のことのように嬉しかったのだ。


 彼女とうまくいかなかった理由は宗教。彼女はとある宗教にハマっていた。具体的な宗教の名前はいえないが、仮にNとしておこう。「N以外の宗教は邪教、神仏は邪神」「Nの本部に行けば人生は開ける」「SGやHSを信じる人は酷い目にあって当たり前」。そう語るときの彼女の真剣な顔を見るたびに、この関係は長くないな、と思ったものだ。決定的だったのは、僕が彼女の部屋にあった大きな祭壇を指で指して「あれ何?」と尋ねたときだ。彼女は持っていた雑誌で僕の腕が内出血するまでバシバシと何度も激しく叩くと意味不明な文句を早口で唱え、祭壇の前で吠えるように泣いた。僕たちが別れたのはそのあとすぐのことだ。


 あれから十年。彼女は幸せをつかんだ。彼女の信心が彼女に幸せをもたらしたのならそれでいい。今。祭壇のおかげで殴られたことも含めて、ぜんぶがどうしようもなく懐かしく、僕はついついあの頃のすべてが大好きだったかのような甘い錯覚に陥ってしまいそうになる。そして、あのご主人が十年前の僕がさせられたように、坂本龍一のenergy flowが流れる祭壇の前で、夜な夜な全裸四つんばいワンワンポーズを取らされ、突き出したお尻の穴を彼女に舐められながら、激しい快感と引き換えに神への忠誠を誓わされていると想うと、僕の胸は熱くなる。もしかするとセックス教団だったのかもしれない。

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