Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

平均年齢70.4才、働き方改革の届かない場所。

スタッフの平均年齢が70才を越えているのは知っていた。ウチの会社で食事提供を受託している、とある老人ホーム(大型)の厨房スタッフのことだ。最年少で64才。ホームの利用者と変わらない。代理の長として(半年前に事業の長が病で倒れた)現場を訪れて、食事提供の様子を観察してみると、ユニフォームがなければ、どちらが入居者かわからない。スタッフはよくやってくれていて、感謝しかないが、数年後を考えると頭が痛くなる。すでに、スタッフ高齢化の影響は出始めている。人員は常にギリギリで、体調不良等でシフトに穴が開くことが増えている。

世の中は人不足で、募集をかけても反応は鈍い。元々、老人ホームの厨房は人が集まりにくい傾向があって、直近の当老人ホームの募集は相当の費用をかけたが反応はゼロであった。働き方改革といわれるように全体的に就業条件が向上している、失業率も改善している、よろしくない仕事は選ばれずに淘汰されていく、労働者としては喜ばしい状況下にあるが、その反面、老人ホームの仕事は他の仕事と比べて、無休事業所(シフト制)、肉体労働という不利がある。僕は業界にいて実態を知っているから感じないが、外から見れば、実態以上の負のイメージがあるのかもしれない。

シニアスタッフは本当に頑張ってくれている。頭が下がる思いだ。彼らのほとんどは「年金だけじゃ暮らせないから」「他に働ける場所がない」「旦那が倒れて働けないから自分が」と言っている。必要から働いている。真面目だ。一生懸命だ。その一方で、年金受給の兼ね合いと体力面の不安からフルに働けない、体調不良で突発的にシフトに穴をあけてしまう頻度が上がってしまっているという実態もある。年末、僕がヘルプで夕食後の皿洗いに入ったのは、70才のパートさんが出勤しようとして玄関の前で転んだからである。高齢化は進み、ぽちぽち退職者が出ているが、補充はうまくいかない。募集費はかさんで現場収益を圧迫している。今は本社によるヘルプ対応がうまくいっているが、それが回らなくなったら、業務遂行は不可能になり、最悪、契約不履行で訴えられる。損害賠償で詰む。ムリが出始めている。このまま状況は好転しないだろう。現場個人の頑張りを評価しながら、事業としてどうするか考えないといけない段階に来ている。

僕の出来ることはまず待遇と環境を改善して、少しでも魅力ある仕事だとアッピールすることだ。実際に待遇(給与)はかなりアップさせた。業界の水準はこえている。新しい技術を入れて労働時間も短縮させている。肉体的にも楽な仕事へ変えている。たとえば、再加熱調理を導入。朝食を前日のうちに調理し翌朝自動的に再加熱することで工程を圧縮させている。湯煎加熱で提供できる加工食品の割合を高めている。合理化している。それでもダメなら、お手上げだ。

国は「働き方改革」を掲げているけれど、病院やホームといった無休事業所について有効な施策を打ち出していない。普通に考えて給料が同じならばキツクなさそうな仕事を選ぶだろう。僕だってそうだ。今は、給料以外の休日等の他の条件を重視する人も多い。話を聞くと同業他社も似たり寄ったりだ。同じ飲食の世界でも、外食のように定休日や時短営業が出来たらどれだけ楽だろう。冗談半分で「土日休みにしてもいいですか?」とクライアントにいったら、冗談でも言わないでくれ、とガチで叱られたものだ。休め休めといわれている世界の裏に、休みたくても休めない世界がある。介護の世界はもっとハードという話をよく耳にする。実は、こういった労働集約型事業からの撤退をはかるのが正解だと分かっている。僕は今、事業継続の可能性を模索しながら、撤退に向けて動いている。

シニアスタッフの皆に「明日も頑張ってよ」「これからは仕事が楽になるようにしますから」と言いつつ、先に述べた再加熱調理や前面加工品の導入は彼らを削減して安定をはかっているということでもある。合理化と労働力集約型からの撤退。いずれにせよ、今働いているシニアスタッフ(パート)の働く場所は減っていく。最終的にはなくなってしまうかもしれない。僕は会社サイドの人間だから割り切るしかない。

僕は、現場で働いているシニアスタッフに「お疲れ様です」「無理しないで長く働いてくださいね」という感謝を伝えながら、近い将来、彼らの働く場所を自分の手で奪ってしまうことになるだろう。営業マンだから仕事で言葉に詰まることはないけれども、パートさんに「ここで働いているから、孫にオモチャが買える」と言われたとき僕は何も言えなかった。裏切っているようで、申し訳なくて、胸が痛いし、イヤになるし、マジできっついよ。(所要時間22分)