Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

超高齢化社会、中途採用面接のリアル

体調不良でダウンした同僚の代理で、中途採用面接に立ち合った。調理技術とリーダー経験を求められる現場責任者の枠だ。事前のエントリーシートで面接者のデータを確認してから面接に臨んだ。ヒアリング等細かいことは採用担当者が行うので、僕の役割は、その隣で意味ありげに「なるほど」といってうなずいたり、ちょっと気になる発言があったときに目を見開いて興味を浮かべているような表情をする実質マスコット的なものである。いらなくね?と自分の存在に疑問をおぼえるが、面接は2名以上で行うという規定があるので仕方ない。

入室した面接者が挨拶をした瞬間、僕は違和感を覚えた。手元にあるデータと渡された履歴書を見比べて、その違和感の正体を確認してから、隣りにいる採用担当に「地雷だぞ!」と視線を送ったが気付かない。急に寒くなりましたね~なんて、すでにフランクな感じで話しかけている。面接者は58才男性。資格経歴職歴は我々が望んでいたものであった。その人となりも、僕が猛烈な違和感をおぼえた一点をのぞけば、やってくれる感に溢れていた。

隣の採用担当もイケる感で高揚していて、地雷に気が付いていない。配置される現場はハードだぞ、技術的にも体力的にも、それを忘れるなよ、と念を送ったが互いにエスパーの素養ゼロなため伝わらない。仕方なく、机の上に置いてある履歴書を揺らすなどして気づかせようとするが、採用担当はバシっと手で履歴書をおさえてしまった。どうやら前面にいる地雷より、「今良い感じで話をしているから黙っていてくれ」と言わんばかりの顔を浮かべる。傍らにいる僕を地雷認定しているようであった。

いい感じに面接は進んでいき、やっていただく仕事の詳細は採用の連絡の際に~なんつって、まとまりそうな雰囲気を醸し出しているなかで、採用担当が「最後に何かありますか?」と話を振ってくれた。のちのちの災いになると思ったので、憎まれるのを恐れず、あえて地雷を踏みにいく。「エントリーには58才とありますが、実際はちがいますよね?」 頭髪で気付いた。20年間白髪染めを自分でしている僕にはわかるのだ。黒髪と安っちい白髪染めで染められた偽黒髪の違いが。「今年で73です」あっさりとゲロった。エントリーシートには58才と記載されていて、履歴書も58才とあった。だけど生年月日の欄が西暦で記載しなければバレないと思ったのか「昭和22年生」となっていた。

問い詰めると「本当の年齢でエントリーしたら書類選考で落とされてしまうじゃないですか。自分の技量と経験で判断してください」と彼は言った。実年齢でエントリーしていたら、体力面の不安を覚えて「弊社基準を満たさず」の一言で書類選考で落とされていたかもしれない。「いや、でも嘘はダメでしょう。嘘をつく人とは一緒に働けないですよ」と僕がいうと「年寄りにも働くように言っておいてこの仕打ちだよ」と彼は言った。返す言葉もない。

彼は落選した。弊社が求める人物像とは残念ながら合わないという理由だ。詐称する人を採用することは出来ない。彼には15才もサバをよんで選考に挑むタフさがある。だから、きっと、なんとかなるさ、と僕は自分に言い聞かせている。そのタフさをもっとちがう方向に活かすことを祈ることしかできない。彼は面接の終わりに、こうも言った。「あんたたちも何年か先、俺と同じことをするようになるぞ」その言葉は呪詛になって僕の心にあり続けている。彼は、超高齢化社会という地獄を生きる未来の僕だ。きっつー。(所要時間19分)

このようなエピソード満載のエッセイ集を去年出しました→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。