Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

自己都合で退職した元同僚の自分都合のワンダーな悩みを聞かされた。

(「自己都合で退職した元同僚が半年間のプー経験を売りに在籍時以上の待遇を求めて復帰を希望してきて驚いた。」http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20120612#1339503482
「自己都合で退職した元同僚が想定外の助けを求めてきて驚いた。」http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20120902#1346588487
のエピローグです。)

 僕は小さな食品会社の営業課長。約束があって足を運んだ居酒屋で「自分探し」を理由に自己都合で退職したゆとり世代の元同僚君(自称必要悪君)とばったり会ってしまった。彼とは色々あって縁を切っていた。別に会う必要なんてない、しなきゃいけないことたくさんあるしという宇多田スタンス。だが、哀しいかな、僕の身体に染み付いた、営業マンの習性。そいつに突き動かされて近況をたずねたら、凍えそうなヤモメ見つめ泣いていました、なんて泣けることを言うものだから、約束の時間まで飲むことになってしまった。


 「生ビールでいい?」「はい」。適当なツマミと中ジョッキを頼む。前回までの経験から仕事の話は避けたい。「今何しているの?」結局仕事の話だ。男って哀しい。「ニートに見えますか?」「見える」「いいすよ。お世辞言わなくても」。死ぬ。コミュニケーションの困難さをコイツに自覚させないと死ぬ。


 気を取り直して仕事について訊くと「課長のところを辞めるとき、騙されて自己都合になってしまって損をしたので…」といい始める必要悪君。「勝手に辞めたんだろ」と茶々をいれても「あ、学習して会社都合にすることを覚えたから俺的にはイーブンっす」とどこまでもポジティブ。ビールを飲んで勢いづいた必要悪君は「予定どーり試用期間中に出社しないでいたら会社都合の退職になりました。予定どーり!」と大きな声を出した。「予定どーりじゃねーよ、解雇じゃん」「確かに見解の相違でハロワではトラブってますけど」あかん。完璧な解雇や。中ジョッキ追加。


「辞めた理由は?」「インスピレーションでないなって。スタイルの不一致ってゆーか」「試用期間で?」。不思議…自分の会社のことでないのにイライラする。「課長、知ってます?」「質問で返すなよ」「課長は今はもう俺の課長じゃないっしょ。命令する権利ないっすよね。ま、いいっすけど。【権利の上に眠るものは保護に値せず】って知ってます?課長の好きなUKロックの歌詞じゃないですよ?」「知ってるよ」何が言いたいんだ?


 「雇用する側が働く場所を提供するだけの時代は終わったんすよ?」「はあ?」「試用期間で見切るのは無料アプリにキレる人と一緒っすよ。対価を支払わなければ正式なサービスを受けられないのは当たり前。ぶっちゃけ、試用、ですからねー。こちらが提供するサービスも既存の職員に比べたらそれなりになるのが道理でしょ」言葉が出ない。「ま、固定給を上げ下げするのが難しいのは俺も理解してます。二ヶ月ですから試用期間。それなら他の社員と同レベルの仕事をこなしたらプラスアルファをくれればいいだけなんすけど。ソーシャルゲーとか基本無料だけどアイテムを得るときは課金するでしょ。でもわかってもらえなかったな〜」。嘘。今【わかってもらえなかった】って言わなかったか?「言ったの?それ」「言いましたキッパリ」「スゴイな…」「スゴイっしょ」中ジョッキ追加。


 「無料でも有料でもまともに動かないアプリはダメだろ?」「動かない?俺のことアプリ喩えっすか?ま、いいっすけど。俺、きっちり働きましたよ?」「は?出社してないって言ったろ?」「会社が働いてないと思っていただけですよ」「は?」「ノマドっす。会社に顔は出してなかったけれど、自宅でやってました。でもノマドって用語も知らなかったんす、参りましたよ」「仕事なんだったっけ?」「漬物を売る会社のルート営業です。漬物を欲しがっている人をググるだけではダメでした〜」。殴りたい気持ちを抑えて「ルートまわれよ。使えねーな。」と言うと必要悪君は「使えない、ですか、またそれか、参ったな。俺、モレスキンなんすよ」と不思議なことを言う。「ノートの?」「そうです、課長でも知ってるモレスキンノート、一見扱いづらいけど一度慣れてしまうと使い勝手がよくて離せなくなる、みたいな。雇う側には使いづらさというハードルを超えてきてほしいっす」。こいつ何様だ。中ジョッキ追加。


逃げるようにして話題を変える。


「子供は?」女子大生彼女のお腹の子供の話を促すように「順調なの?」。すると必要悪君は「俺は面接、嫁は臨月」などと無駄に韻をふんだジェイラップ調。アホさに笑ってしまい、自覚あるのかよー、と冗談で声を荒げると「ホントに俺の子供なんすかねーーー」と必要悪君が不必要に語尾を伸ばすのにイラついて、まだそんなことを、と喝を入れようとしたまさにそのタイミングで「ってレベルを俺は超えました」と来るから調子狂う。


「そーなの?」「ビッグダディを見て、たとえ血のつながらない親子でもやっていけるという勇気、ダメなら相手を変えるという決断力が身につきました。実は俺、隠し彼女も…」ウワー、聞きたくないよー中ジョッキ追加。「本当に父親の自覚あるのかよ。しっかりしろって」「課長課長。ありますよ課長。課長俺ね課長」課長連呼はバカにされてる気がするが堪えて「何よ」。「マインドマップを描いたんです。俺のモレスキンの一ページ目はマインドマップっすよ」意味がわからん。「何で?マインドマップを?」と尋ねると「三色ボールペンで書いてます」とアンサー。日本語むずかしいね。「あっそ」「保険にも入りました」「生保?」「生命保険っす。親の金で。俺に万が一のことがあっても、家族が路頭に迷わないように…嫁にかけました。これでいざとなったら!」この人危ないっ。中ジョッキ追加。



 たまらず「仕事しろよ〜」と言うとなぜか自信ありげに「ニートに見えますか?」と胸を張る必要悪君。「見える」私にもニートが見えるぞ。「実は面接を受けてます。今日も受けてました」「そーなの?」ジーンズ腰ばきの格好で?が、詰問したら負けなのでスルーする。だが、しかし、ナメすきなのでは?「ま、受けてる最中に、もうないな、って思ってるんすけど、話をしてるうちに空気を読んでくれてるみたいでこちらから辞退する前にその日のうちに向こうから断られますね。ケータイ代も浮くしコスパのこと考えればいーんすけど」「でも結論早くね?」この問いがバカでした。


 「面接の時間に遅れてしまうんすよ。どーしても」。遅刻の理由は体調不良といって必要悪君は続ける。「約束の時間に来るのも評価のうち、とか言うんすよ。おかしいでしょ。スピード競争ですか?能力が同じなら面接に早く来た人間を採用するんですか?そうしたらウサインボルトだらけになりますよ?」「ちょっとちょっとー」「課長?」「言ったの、それ?」「言いました」「スゴイな…」「スゴイっしょ」。こいつ子供ができてもダメだ。「そもそも採用枠が一人なんて無理ゲーじゃないすか…」「一番いい人を採りたいのは自然なんじゃ…」「参ったなー。そういう考え。」「へ?」「二番じゃダメなんですか?蓮舫も言ってたでしょー。俺が世界で二番だったらどうするつもりなんすかねー。GoogleAppleはよくてサムスンはダメなんすか?俺のギャラクシー、Androidアプリが動くんですよ」疲れる。「言ったの、それ?」「言いました。」「スゴイな。」「スゴイっしょ」中ジョッキ追加。


 「そもそも課長のような団塊ジュニア世代が多すぎなんですよ。ホント、ジュニアは千原ジュニアだけでいいっしょー」「喧嘩売ってる?」「喧嘩売ってんのは立ち上がれ日本ですよ。老人が若者の居場所を奪ってどうするんすか。俺に議員やらせてほしい」
「あのさー。自分の強みとか売りをつくっていくしかないだろ?世の中の悪口言ったってはじまらないよ」「ありますよ強み」「えっ嘘!」声が大きくなる。「人脈があります。毎晩LINE掲示板とフェイスブックで見つけた知らない人にメッセージを飛ばしまくってます。ま、面接をする側は先入観ガチガチで聞く耳持たずでしたけど。あんな会社フェイスブックに吸収されればいい」「言ったの、それ?」「言いました。」「スゴイな」「スゴイっしょ」


 「ま、俺みたいな人間は受け入れる側にある種の覚悟を求めますからね、会社を乗っ取られるリスクを負いたくないのもわかります。だから、iPadミニのように小さくまとまらずにギャラクシーのようにざっくり大きく、自分でやるしかないと考えはじめてます。アイデアはあります」。なんだろうこの不安感。「アイデア?」「最近Excelを勉強してるんすけどアプリ作る方面に行こうかなって。サムスンでも動くiPhoneアプリとか誰もやってないでしょ。それにお笑いタレントもありかな。課長がボケで俺がツッコミ」俺がボケかよ!キズつくわ!「あとは食い物屋ですかね」「食い物は難しいぞ」「オリーブオイルでごまかしますよ!」ダメすぎる。中ジョッキ追加。


 約束の時間が迫っていた。「もう時間だからさ」「時間気にしてるフリして、俺に丸裸にされるのをビビってんすか?課長にお願いがあるんですけど」挑発してるのか懇願してるのかはっきりしてくれ。「金?嫁に許可もらわないと無理だよ」「ちょっとー二次元のヨメとかやめてくださいよー」それから必要悪君は僕をキレさせる言葉を放った。「…課長に金の相談をしようとした俺がバカでした」。キレちまった。こういうときは、しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん、しーとーぴっちゃん、子連れ狼を脳内でリフレインさせて鎮めることにしてる。ダメでした。「さっさと言えよ」「履歴書返してくださいよ。二年前課長のところに入ったときに提出したやつ」「今なんと?」「コスパ悪いっしょ。リサイクル社会っすよ。買うのも書くのも無駄じゃないっすか」「がたがた言わずに買えよ書けよボケ」「モレスキン高いんすよ」「関係ねーよ!」


「二人とも…目くそ鼻くそで何をやってる…」。背後からの僕ら以外の念仏のような声。タイムオーバー。僕との約束に一時間遅れて、「自称チャンスをピンチに変える男」部長、登場(参考「上司の言葉をまとめてみたよ。夏コレクション」http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20120806#1344263499)。「部下を恨めば穴ふたつとはよくいったものだ。腹を切って話そうじゃねぇか…」なぜかいきなり戦闘モードの部長。このあと部長と必要悪君とで繰り広げられた地獄の戦いについてはまだ語りたくない。最後に、僕をキレさせた必要悪君の言葉をここに記して結びの言葉としたい。「またラブプラスの話ですか?(苦笑)」


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