Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

君へ


 やあ、久しぶり。元気ですか?おかげさまで僕はあれ以来インポです。このあいだ酔っぱらった夜に君にメールを送ってしまいました。君に届くはずのメールは総務のマヤちゃんに届いていました。次の朝、総務ガールは僕に文句を言ってきました。僕はただ頭を下げて謝りました。


 でもそれはいい。いつもは遠くから眺めているだけの、総務ガールの黒いニーソックス。膝頭をくるりと隠す憧れのニーソックス。夢にみるくらいに憧れた存在を間近に見れたのだからそれはいい。よくよく考えてみると君のアドレスを消してしまった僕が君へメールを送れるはずもなかったのだ。だから僕はこうして、朝のマクドナルドでコーヒーを飲みながら君への手紙を書いている。


 僕は悲しい。何かの間違いだと思うのだけれど、mixiで僕は君からアクセスを禁止されている。僕にとって鼻毛ほども役に立たない、たいして面白くもない、君の、可愛らしいmixi日記。僕は、そんな君の鼻毛日記から拒否されていることに悲しんでいる。


 「私は鼻毛程度の存在なのでしょう?それについて悲しむなんて矛盾しているわ。あなたの言っていることは矛盾している」そう君は言うかもしれない。君も、僕と同じように、異性と会うときには鼻毛を抜いているだろう?鼻毛、一本。たった一本の鼻毛を抜くときの、あの、稲妻のように全身を走る痛みを、君も覚えているだろう。それと同じことだ。


 いろいろ問題があっても、僕は君が元気でいてくれるならそれでいい。君の健康は僕の幸せだからだ。雨がやんだらこの手紙は、空き瓶に入れて、相模湾に放とうと思う。気高い君が生まれ育った街の海はきっと、どこか南国の島のように青く透き通っていることだろう。山はきっと、北国からの冷たい風を着て尖り、宇宙まで澄んだ空に伸びていることだろう。僕は君をおもう。君をおもうことは、君を包んでいる街をおもうことだ。だから僕はおもう。君住む街を。埼玉。美しき海岸と山々に囲まれたエルドラド。


 埼玉に海がないなんてことはないと思うけれど、僕は空にも手紙を託す。薄い和紙を貼り合わせ風船爆弾をつくって手紙を乗せる。案外、僕は障子を貼るのがうまいんだ。風船爆弾は簡単につくれた。大戦時、風船爆弾は太平洋を越えアメリカへ達したという。僕の手紙を偏西風に乗せて埼玉に届けることくらい容易いだろう。


 きっと、埼玉にも空はあって、僕の住む街と繋がっている。一枚の硝子板のように。いまだ見ぬ埼玉の街と空はとても綺麗で、あの、忌まわしいカラスが一羽もいないらしい。だから手紙には手作りのキャンディを同封しておくよ。よかったらレロレロ舐めてほしい。体液や陰毛を混入させたりはしていないから安心してよ。いい風が来た。空はきっと応えてくれる。きっと届く。僕は信じている。それから、僕は公衆便所でよく見かける、恥ずかしいマーク入りの風船を空へと放した。