Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・序 または私は如何にしてインポを乗り越えお見合い相手の秘所をお手製ディルドをもって突いたか

 僕の日曜日は不幸のメールで終わる。今週は「小栗旬の石田三成は今週もチャラチャラしていて全然ダメですうーウケにもタチにもなれないハンパ者ですうー ノッピー☆」。ノッピー☆は先日お見合いしたシノさんのコスプレ時の名前だ。彼女はスザンヌ似の25歳、戦国時代好き西軍派、趣味コスプレ。毎晩十時の無差別中傷メールは酷くなる一方で、小栗旬バッシングが内容のほとんどを占める大河ドラマ「天地人」感想に加えて「戦国BASARA」「メイちゃんの執事」「仮面ライダーなんとか」「黒執事」「ハルヒ」の感想が送られてくるようになった。


 そのうえ、母親からは「この縁談がまとまらなかったらもう終わりだと思え。身の程知らずのインポ息子。あんたの定額給付金は牛角で使わせてもらったから」という意味内容の話を、生命保険受取人の確認と共にされ、シノさんの母親からは「早く我が家に遊びに来てねムコ殿オホホ。ウチの娘を傷モノにしてただで済むとは思っていませんわよねムコ殿オホホ。早急に陰茎を治して性交して赤子を見せてくださいよムコ殿オホホ。先日は牛角で焼肉ご馳走になりましたムコ殿オホホ。」という意味内容の留守電メッセージが残されていて、僕の精神をみしみしみしと軋ませる。つーか勝手にヒトの金で焼肉食べに行くなよ。


 「宛て先にノッピー☆を入れて送信…」「宛て先にノッピー☆を入れて送信…」「宛て先にノッピー☆を入れて送信…」精神が弱まり虚ろにメールの対応をしているうちに火曜日の夕方に会うことになっていた。「オヤカタサマー!こけしのディルド君に会えるの楽しみですうー」うわー記憶ない。何言ったんだ僕チン。火曜日仕事だよ。仕事なんだけど→楽しみですうー→だから仕事なんだよね→約束ですうー→仕事だっつーの→楽しみですうー→だから仕事…→楽しみですうー→仕事休みます→オヤカタサマー!。


ま、縁を切るのは早いほうがいいしっつって、会社を休み、歯を磨く時間を惜しんで日本酒「菊正宗パック」をがぶがぶ飲んで決死の思いを固め、ビニール袋に切支丹こけし(洗礼名=ディルド君)を入れて右手に担ぎ、玄関に塩を盛り盛りしてから待ち合わせの餃子の王将へ。早く着いたからね、手持ち無沙汰だからね、汗かいちゃったしねと言い訳して、とりあえず餃子一皿と生ビール、中ジョッキ、傍らにはこけしのディルド君。


 ディルドく〜ん、僕はどうなってちまうのでちょうねえ。バブバブ〜。オッサンは独り言が多い生き物だ。こけしと僕を交互にみた店員のねえちゃんの不審さを湛えたまなざしに耐え切れず中ジョッキ追加。すると膝までを覆う黒い靴下に、女子高校生がお召しになるようなブレザー制服という奇怪な出で立ちのシノさんが現れて僕の目の前に座った。「今日はディルド君のお友達を連れてきましたぁ。ディルド君こんにちはー。ディルド君も今日から一人ぼっちじゃないですうー」そういって鞄から何かを取り出しテーブルに置いた。「ディルド君のお友達ですー」ディルド、ディルドって、お、お願いだから声を下げて!あたふたしているうちにテーブルには二体のこけし


 「これはなんですか?」「白石からやってきた『こじゅうろう君』ですうー」えー!「ディルド君、友達がいなくて可哀想なので週末に買ってましたぁ」「わざわざ、僕のために白石へ…?」「キミはやっとわかってくださいましたね…」いかんいかん。このパターン。ここで流されるから駄目なんだ。この妙な空気を打ち消すんだ酒のパワーで。無駄無駄無駄無駄ー。中ジョッキ追加。「話すこともないので店を変えましょう」と僕。「出陣じゃー」とノッピー☆。お願い。静かにして。で、シノさんのヴィッツで移動。カーステからは当たり前のようにスーパー歌舞伎三国志」。


 スーパー歌舞伎に合わせ萌え萌えキタキタ騒々しく走るヴィッツの助手席で僕はひとつの情景を思い起こしていた。定期健康診断。大山のぶ代似の男性医師とのやり取り。なにか健康上の問題はありますか?ええ私はギンギンのインポなのです。精神的なものが原因かもしれませんよ。精神的なものですか。悩みやストレスはありませんか。ある。今はある。インポを治さないとこの夏もギャルとチョメチョメすることなく終えてしまう。丸井で買ったカッコいい海パンも箪笥のゴミになってしまう。ああ。ギャルと水・餃子プレイしたいなあ。ミぃズゅギョウジャー!


 鬼になろう。鬼になってこの身に降りかかっている精神的圧迫を排除するのだ。鬼になれ。とことん鬼になれ。この縁談を断ち切り、実母を姨捨山に捨ててくる鬼に。それで僕はグッドバイするのだ。風呂場で先っちょを冷水とお湯にアップアンドダウン、交互に浸し、それから身体を駒のように回転させて遠心力で先っちょに血液を送る涙の日々にグッドバイするのだ。つーわけで今日から僕は女癖酒癖の悪いヤリチンを装うことにした。インポなヤリチン。斬新。


 でメイド・バー。テーブルには僕とシノさんとメイドしゃん。オムライスにケチャップでお絵描きゲーム(別料金)。「ホイどうよ!コロ助ナリよ!」「オヤカタサマー上手いですうー」「ご主人さまー」女の子楽しいなあ。愉快だなあ。酒がすすむなあ。がぶがぶ。中ジョッキ追加。つづいてUNO(別料金)。「ホイどうよ!リバース!」「オヤカタサマーずるいですうー」「ご主人さまー」女の子楽しいなあ。愉快だなあ。酒がすすむなあ。がぶがぶ。中ジョッキ追加。一通りゲームが終わると会話が続かなくなった。僕には初対面の女性と話が出来なくなるときがある。メイドしゃんがサービス精神を発揮して切り出した。「ご主人さまは大人しい方ですね」「ええ…」「ご主人さま調子が悪いのですか」「ええ…中ジョッキ追加で…」


 メイドしゃんがさらなるサービス精神を発揮しようとするとシノさんが「侍女の分際で…黙っているですう!!」と静かに強く言った。ど、どーしたの。「すんまそん。こういうときどういう顔をすればいいかわからないんだ…」と僕が言った。「笑えばいいと思うよ…」と彼女が返した。で、「さすがオヤカタサマ…アル中で無口で女嫌いのホモ…謙信公…毘沙門天…」とシノさんは付け加えた。インポだけどホモじゃねーよ。中ジョッキ追加…。大きなお友達たちが歌うコンバトラーVの主題歌をバックに僕らは店を出た。星の海がゆっくり、白く、酔っぱらった僕を包んでいった…☆☆☆オヤカタサマー!オヤカタサマー!シノさんの声が遠くで響いていた…。





「知らない甲冑だ」



 目が覚めると覚えのない甲冑が目の前に置いてあった。白い蛍光灯の光。畳の匂い。僕は布団に横たわっていて、枕元にはディルド君とこじゅうろう君が置いてあった。身を起こした。和室。甲冑と刀剣と数々の人形が壁際にずらずらっと並べられていた。ノッピー☆は襖の前に立って超笑顔。「大丈夫ですかぁ?オヤカタサマー!」。ココハドコ?ワタシハダレ?「ここはどこですか?」「オヤカタサマ…ここは私の部屋です…」「ウワー!!」ピシッ。僕の唇が裂けた音を僕の耳が聴いた。血ボタボタ。「何が何だかわからないのだけど」「突然柱にブツかって倒れたので死んだかと思いましたぁ。」鏡を渡された。石田家の家紋が入った鏡に写った僕の顔はボコボコ。



 「うわー顔が滅茶苦茶だぁ」唇ざっくり。眼球鮮血。全体腫れてる。明日からどうしよう…。「キミは本当に不死身の軍神なんですね…ここまで自分のアンヨでちゃんと歩いてきたのですから…明日は病院ですうー!おやすみなさいオヤカタサマ…」そう言い残してノッピー☆は襖に消えた。夜は更けていった。時折、襖の向こう側から笑い声が聞こえた。オホホホホホホホホ!どうか時計の針が戻りますように。そう祈りながら、甲冑と人形に囲まれて、僕は、眠りが落ちてくるのを待った。オホホホホホホホ!