Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・落日篇  または私は如何にして大人の病でたおれお見合い相手からメンズとのホモ関係を疑われるようになったか

血尿、つづいて、ゼリー状の物体がぬらぬら先端から噴出するようになったので、三年前から患っているEDが悪化したのかと恐慌して、泌尿器科に赴き診察を受けたのが一週間前。は、ヒニョーキカってなんか〜東欧の〜語感があるよね〜と軽口をたたき、モスクに似た睾丸をいじって不安な一週間をすごしたあと、たびたびの泌尿器科。厳しい表情のドクターから、不特定多数の異性と遊んだり、風俗にいきましたかと詰問されて動揺、二年ほど前に「電車でGO!」というイメクラにて「逆痴漢コース」で戯れた恥をカミングアウトしたが、そんな昔ではなく最近ですと一笑に付された。それから深刻な顔をしたドクターが口をひらいた。「フミコさん…聞いてください…」

 受付で料金を払う際、患者さん顔色が悪いけれど大丈夫ですかと声をかけられ、それから、ふらふら、暮れなずむ街の光と影のなかを歩いて居酒屋に向かった。シノさんに会うためだ。これを聴くと元気になれると、強引に押し付けられていたスーパー歌舞伎CDを返すためだ。明日オバマ大統領が訪れることになっている我が町は警戒のために辻辻に警官が立っていて、顔を陰にしてタメ息をつきながら歩いていた僕は次々に警官から不審者に向けるものと同質の眼差しを投げかけられた。 


 とりあえず中ジョッキを頼みひとこと、「まいったよ。シノさん」。シノさんは僕のお見合い相手で、世に言う歴女であり、男装を得意とするレイヤーだ。コスプレ時の名前はノッピー☆。「どうしたんですか。身体は治りましたか?」シノさんの声は明るさが僕を余計に悲しくさせた。お通しの鶏の唐揚げは冷えていた。「僕はEDを患っています…」「インポ☆テンツですね。うかがってますうー。なにをいまさら。謙信公もインポ☆テンツだったのですから気にしない気にしない」声が大きい。店員と眼があったのでとりあえず笑っておいた。


 「EDなので女性との情事は不可能なのに…」と僕。「ど、どうしたんですかオヤカタサマー」「実は」「ジツは?」「いや、こんなことシノさんに言うのもあれなんだけど」「ですから何が?」「いやいや、やっぱり言うのはやめとこ」「ですから何が!」「うーん、うーん、やっぱりシノさんに言ってもなあ…」「男らしくなーい!」シノさんがテーブルをどーんと叩き、中ジョッキからあふれる生ビール。「お、落ち着いて。ぼ、暴力はよくない!」「なにがあったのか聞いてあげるから話して」とりあえずビールを飲みきって中ジョッキ追加。涙目になったのは炭酸のせい。


 シノさんが見つめるなか、ビールをぐびぐび飲んで、ほろ酔いになった僕は言った。「実は性病にかかってしまいまして…」「性病!」「声が大きい!ええ、ま、クラミジアという病気で、ちょっとというかかなり悪くなっていて、ドクターにはなんで早く治療を受けなかったのですかと怒られるくらいだったのですが、この鯨ベーコンは味がしないのですが、ドクターからは薬で治るから大丈夫といわれているのですが、なんというか、ショックで…」鞘から枝豆を取り出そうとしたが力加減を間違ったおかげで、豆がふたつ潰れ、ぐしゃぐしゃのペースト状に。「クラミジア…性病…君はEDじゃなかったんですか」「僕はEDです」「お天道様に誓って?」「正真正銘のEDです」僕は胸を張った。それから「女性とちょめちょめするのは不可能です」と付け加えた。自棄になって大声で宣言するように。ぽかんと驚いた顔でこちらをみていた店員さんに、中ジョッキを注文。

 
 性病でインポ、これでもう終わりだなと思った。同時にほっとしていた。これでシノさんとの不可思議な関係は終わり、家族からの、シノちゃんと早く結婚しろ、他の女との可能性を模索したい?はっ、寝言は寝てから言え、お前に他の女は見つけられない無駄無駄無駄ー、という重圧もなくなる。精神的な重圧がなくなれば、もしかするとEDは治るかもしれない。EDと性病を抱えて結婚する地獄と、自由にエレクトするが結婚できない地獄なら、迷わず後者を選ぶ。今回ばかりは呆れたようで、シノさんはチン黙。


 不公平だ。インポをかかえて真面目に生きてきたのに、なんで僕が性病、クラミジアを患わなければならないのだ。つーか性交しないでクラミジアさんが感染に成功するものなのか。くっそー。不公平だ。これはテロルじゃないか。風呂が壊れているあいだに通った銭湯。クラミジア・テロリストが湯船で放尿したんじゃないのか?畜生。チキショー、と独り言をいいながらビールをぐびぐび飲んでいるとしばらく黙っていたシノさんがいった。「さすがオヤカタサマ…」意味がわからない。


 「シノさん、僕は性病ですよ…」「君は、1000パーセント、イー、ディー、だから、女の子と、変なこと、できない、です」シノさんはひとことひとこと確認するようにいった。「まあ、確かに…」「さすが軍神の生まれ変わり…」「はあ…」中ジョッキ追加。「さすがオヤカタサマ、女性ではなく男性と…」「えー!ないない」「小姓とホモって性病をうつされて出血するなんて毘沙門天そのものですうー」「えー!ホモしてないホモしてない!」


 シノさんはアイフォーンで「クラミジア」を検索し、wikiに<性交・オーラルセックス・キスなどにより粘膜に感染する>と記載されているのを確認して、性的なものがないと感染しないと決め付けて言った。「わたし、そのへんは理解あるほうなんですうー女の子で出来ないなら若い男と一夜の過ちキタコレー」「シノさん僕は立たないんですよ…」ぶふふー、笑うシノさん。「ってまさか!」「突っ込まれるほうでございます。武将と小姓は床では普段の関係と逆転するのが常。もしかして前に(id:Delete_All:20090203)嬉々としてお話していたアナルパールのキュベレイでお戯れを…」「えー!ガンプラ入らない入らない」シノさんがホモ戦国武将について熱く語るのを黙って聞きながら、僕はただビールを飲み続けた。アルコールで身体を消毒するかのように、ただ、飲んだ。テーブルにこぼれたビールの小さな水たまりは越後国に似ていた。


 性病インポの僕のところにシノさんから数時間ごとにお見舞いメールが飛んでくる。シノさんから連絡を受けた母上からは、そういう部分だけは大丈夫だと思っていたのに、なんてだらしのない、母さんこれほど恥ずかしい思いをしたことないわ、なんて絶望的なメールが送られてきた。今、僕はバラク・オバマ来訪で騒然とした街でたったひとり、処方された薬をいわれたとおりに服用し、静かに病原菌が殺されるのを待っている。しばらく誰にも会いたくない。