Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・覇王伝 または私は如何にして独身の自由をかなぐり捨て結婚を決意するにいたったか

 突然だが結婚することにした。来月から彼女と暮らす。籍を入れるのは来月上旬の予定。身内で不幸が続いているので、当面、式やパーティーはやらず、来年あたり、不幸のホップステップジャンプが無事着地して落ち着いたら、ささやかなパーティーをやろうと彼女とは相談している。プロポーズの言葉は二人だけの秘密。当事者以外が聞いても面白いとは思えないし。「結婚するかい?」「ハイ、キミとなら」。ね?面白くない。面白くないと言われればそれはそれで腹が立つが。

 いままで彼女との結婚を考えなかったかといえばウソだ。僕は、語感からすると矛盾しているようなことを述べているように聞こえるかもしれませんが、筋金入りのインポテンツ。そんな病気を抱えたまま、嫁をもらうわけにはいかない。もし彼女に触れたとき、反応しなかったら彼女が可哀想だろう?。だから僕が病気に打ち勝ったとき、それがいつになるかわからないけれど、そのとき彼女がまだ僕のそばにいてくれていたなら…。漠然とそんなふうに思っていた。


 なぜ、突然、結婚を決意したかというと、春先から急速に仲良くなった僕のオカンとの関係を見たからだ。本当に仲が良くってさ。オヤジをわりと早くに亡くしている長男の僕はオカンの面倒をみなければいけない。だから嫁になる人には、僕と一緒にオカンから近い場所にいられる人でないと駄目だ、まだ若い彼女にそれを求めるのは無理な話だと僕は考えていた。


 でも彼女は違った。あまりに楽しそうにウチにやって来てオカンと話をしているのが不思議でならなかったので理由を尋ねた。お二人様はレズビアンかも…生理などあがっているであろう実母とお見合い相手がレズ関係だったら、嫌だなあと思いつつ。彼女はこう答えた。「好きだからですう」。そんな…ストレートに言われたら照れちゃう…僕がぽくぽく頬を染めていると彼女は続ける。「こういう家にいるのが」。頬を平熱に戻し、話を促すと、彼女は自分の家族が大好きで、ここから「彼女の」が多くなりますが、彼女の母親が彼女の父親の家に入り彼女の祖母とも彼女の家で楽しく暮らしてきたような彼女の家庭を自分もつくりたいといった。もう亡くなってしまった彼女の祖母は洋服や人形を彼女にたくさん作ってくれたそうだ。それでコスプレとドールか。三つ子の魂二十六まで。


 「私もおばあちゃんのように自分で作ったお洋服やお人形で家族を繋げたいのです」。《家族を繋ぎたい》。僕はこの一言で結婚を決めた。こんなスゴイことを言える人間がいるか?アニメ声で。ニーソで。しかもどうやら僕を好いてくれていて。そんな人間は彼女しか、この地球上にはいない。僕は初めて、純粋に、完璧に、彼女と、一緒に、この先の人生を生きてみたい、この先の世界を、活きて、見たい、と思った。インポテンツがなんだっていうんだ。立たぬなら立つまで待とうホトトギス。立たなくても彼女のささやかな夢の手伝いは出切る。僕はサイモンとガーファンクルの歌う「橋」になってやる。家族を繋ごうとする彼女の未来に困難があったら僕がフニャチン橋になって乗り越えさせてあげたい。そんで「結婚するかい?」「ハイ、キミとなら」。「ハイ、キミとなら」。この返事には続きがある。「立たなくても生きていればダイジョーV」。そのとき彼女が出したピースサインで、なぜだか僕は絶対に大丈夫だと思ったんだ。インポじゃなくて二人が。


 彼女は歴女。厳密にカテゴライズするなら戦国時代西軍派。僕のことを半分本気でオヤカタサマと呼んで、そのたびに僕は少し恐縮する。彼女の好きな石田三成の家臣島左近は「治部少(三成)に過ぎたるものが二つあり 島の左近と佐和山の城」と謳われるほどの人物であったという。僕からみれば彼女は島左近、僕に「過ぎたるもの」だ。でも僕は彼女と僕自身に誓うよ。過ぎたるものって言われないようになれるよう努力するって。今まではアホなロックンロールばかりを奏でていたけれど、これからはアイのロックンロールを奏でよう。僕には見えているんだ。もうすぐおばあちゃんの人形たちを連れて僕の部屋にやってくる彼女が、自分の子供のために人形をつくる未来が。そのとき未来の僕は立派なヒゲをたくわえた正真正銘本物オヤカタサマになっていて、シノさん、いや、志乃に「オヤカタサマー!」と呼ばれて胸を張るのだ。


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