Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

上司の脅威のプレゼン 人々をひきつらせるいくつかの法則


 久しぶりに部長のプレゼンテーションに同行した。部長曰く、貴様は何もすることはない、使用する資料を持参するだけの誰にでも出来る仕事、2ヶ月にわたり対策を研鑽してきた、ということなのでタイタニックに乗った気分で臨んだ。

 部長の練り上げた対策とは、いつもの価格連呼戦略を抜本的に改めて、商品・サービスをひとことであらわすキーワードを提示する、商品をゲットした人がどうなるのかというストーリーを語る、そのストーリーのなかに敵役を登場させて日本人が好きな水戸黄門的な筋にする、ディテールにこだわりストーリーにリアリティーをもたせる、というものであった。なんとなく合っているような気がした。「持ち時間は30分、うち10分は質疑応答になります…」先方担当者の乾いた声とともにプレゼンテーションははじまった。


 すると部長は、おまじないだろうか「株パック…」と隣にいる僕にだけ聞こえるような弱弱しい声で呟くと、極度の緊張により静止した。10秒…20秒…。短い沈黙が僕には永遠に感じられた。静止した時間のなかで相手の目線が突き刺さる。ごめんなさい。こういうときどんな顔をすればいいかわからないの。


 部長再起動。「失礼しました。仕方ないのではじめさせていただきます」なんだか挑戦的。不穏な空気から簡単な挨拶を経て本題にはいっていく。驚くほどにスムース。そこにはいつもの念仏のような原稿を読むだけの部長はいなかった。絶妙なスピード。聞き手の注意を喚ぶ間合い。心地よいグルーヴ。もしかすると冒頭の空白も作戦だったのかもしれない。


 風向きが変わったのは肝心の商品の説明に入ったときである。作戦通りリアリティーのある敵役の登場である。「えぇぇ今回、おお俺たち、わたしたちがご提案いたしますのは…」皆が手元の資料、該当の頁と部長を交互に見ながら聞き入っている。ナイスグルーヴ。「…致します前に…」どこへいくんだ?不穏な様子に客が一斉に目線をあげこちらに向ける。痛い。部長は続ける。


「今回も参戦しておわします、東京都大田区に本店を構えるラ、ラ、ララライバル会社のA社のサービスは弊社より高いです」


 自社の説明より敵役に焦点を当てた斬新な切り口。


 「A社は高い。弊社より高い。高いよお。しかし質は格段にいい。弊社はA社よりコントパフォーマンスに若干優れますが質は格段に落ちます。嘘ではありません。なんなら長年しのぎを削ってきたA社の担当者イソザキ氏に聞いてみてください。電話番号はTOKIO ゼロ、スリー…」


 ファイブ、フォー。これがリアリティーのある敵役…あ、圧倒的じゃないか…。僕は部長の陰気な声で召喚される英数字を聞きながら、この嵐がすぐに終わるように祈っていた。部長はコンティニュー。


 「腹を切って語りましょう。我々はパートナーとなるのですから。今回、私たちがご提案するのは、A社より格段に質は落ちるが若干安いサービス、【ノーマネー、ノークオリティ】でございます。さあ、質は劣るが若干安い私たちと一緒に過去と未来をつくりませんか?」

 
これが商品をひとことで表すキーワード…つか何も説明してないような…。会場は、しん、として耳が痛いほどでした。
「【ノーノーマネー、ノークオリティ】」。念を押すように部長は繰り返した。ノーがひとつ増えていた。
「それでは…」担当者の乾いた声が沈黙を切り裂いた。「質疑応答です」


 するとなぜか部長が「今回の選定のポイントは、真意はどこにある?」「今のプレゼンはどーよ?A社と比べてよ」「ノーマネー、ノークオリティ。意味わかる?」などと逆に質問を浴びせはじめた。皆さん大人ですので冷静に対処していただき事なきを得たが、今回のコンペにA社が参加していない旨を伝えられたときの部長の寂しそうな「なるへそ…」が二時間経っても頭から離れない。


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(プレス)

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