Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

プロ経営者が あらわれた!

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僕は食品会社の営業部長だ。先日の会議で、会社上層部に「なぜ業界のことを知ろうとしないのですか?」と質問をした。彼らは金融機関からの出向でやってきて、取締役におさまった。そして、十年もその立場にあって業界の知識とコネがゼロで、的外れなことばかりしている。先日も受託している社員食堂の販売価格を、委託契約を無視して上げようとして先方とトラブルになりかけた。「牛丼屋だって自由に価格に決めている」が言い分であった。外食産業と給食事業の区別がついていないのだ。質問に対する専務(上層部トップ)の回答が想定外だった。「あえて学ばないようにしている」と彼は言い切ったのだ。「君たちは業界の知識常識に縛られているが、私たちはフラットな視点で見ることができる。なぜかわかるかね営業部長」。わからない。わかりたくもない。「我々はプロの経営者だからだ」と彼は付け加えた。プロ経営者があらわれた!

プロ経営者と聞いてフラットな気持ちになった。プロとは仕事人である。対価を得るために商品やサービスを提供する。そのために必要な技術を習得して実戦で経験を積む。それが仕事人だ。フラットな気持ちでプロについて考え、思い浮かぶのは、子供の頃に川崎球場で見たロッテオリオンズの落合選手だ。贔屓目に見ても数十人しか客がいないライトスタンドに淡々とホームランを打つ姿は幼い僕に「プロ」の凄みを教えてくれた。翌日のスポーツ欄に観客動員五千人と書ききった記者のプロ意識も忘れられない。また、我が家の奥様もプロの仕事ぶりを評価している。変な犯罪が報道されるたびに「もしムラムラしてどうしようもなくなったらプロの店に行ってくれ」と僕に懇願してくる。それくらいプロはすごいのだ。

それに対して当社の会社上層部はどこがプロなのかまったくわからなかった。真顔でプロ経営者を自称されると、フラットな気持ちでいようとしても思わず(笑)になってしまう。そもそも経営者はプロだ。プロでない経営者などいるのか。プロ経営者が経営に参画して酷いことになった企業は数知れない。なかでもマーケットの専門家やマーケターは地雷。でも、招へいする側が悪い。わざわざ「負ーけっと」「負ーけたー」と名刺に記載されているのだから。市場が読めるという傲慢と、成功体験だけを記憶して失敗を忘却する図々しさがよろしくない方向へ企業を動かす。大金を集めて沖縄にハリボテのジェラシックパークを築く。きっつー。

会議は衆院選の話題になった。食料品が減税の対象になったら事業に大きな影響が出るからだ。僕が「プロ経営者のフラットな視点から見て今回の結果はどうですか」と話を振ると、専務は「まだまだ世襲議員、二世三世が多い。全然駄目だ。政治に染まっていない、フラットな視点をもった人がこれからの政治には必要なのではないか」と発言した。ごくごく平凡で予想通りでフラットな意見だった。上層部のメンバーが口々に、さすが、わかってらっしゃる、と専務を持ち上げた。

するとそれまでニコニコと楽しそうに話を聞いていた社長が「私も二世なのだが」とひとこと言った。抑揚のないフラットな口調だった。一瞬で会議室の空気が重苦しくなる。会社上層部たちは、あっ、という声にならない声をあげた表情でかたまった。それから社長は会議室にいる人間一人一人に「なんで二世はダメなのかな」と詰めていった。「社長は特別です」「例外です」という哀れな老人たちを「その特別な理由を聞かせてください」「例外という答えは答えになっていませんね」と追い詰める社長。詰められた人たちの心電図がフラットになっていくようだった。社長はプロの殺し屋だ。

いよいよ僕の番。答えを間違えたら最悪、失脚。フラットライナーズの仲間入りだ。咄嗟の機転で「メジャーリーグのグリフィーはお父さんも良い選手でしたが、息子さんの方がメジャー史に残る名選手ですよね」と言った。社長は満足したようにうなずいた。ありがとうメジャーリーグ。僕の次に詰められた経理部長は僕が野球で乗り切ったのを真似して、長嶋茂雄・一茂親子を持ち出した。カズシゲはアウトだろう、怒声が来ると思って身構えていたら、社長は「一茂は売れっ子だからね」と許していた。社長の怒りポイントがわからない。

ここまで読んでお気づきだろうか。僕は、会話を誘導することによって、自らの力を使わずに対抗勢力にダメージを与えている。すなわち僕はプロの工作員。こんなクソみたいなデスゲームに勝ち残りながら、僕は会社員人生をなんとか生きている。会議の終りには、専務も心電図フラットから生き返って「次回の会議ですが」と各自の日程を調整していた。さすが自称・プロ経営者。なかなかしぶとい。みんな必死に生きている。(所要時間25分)エッセイ集を出しました。よろしく。→