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元給食営業マンが「なぜ新型コロナ感染防止の臨時休校方針で給食食材取扱業者が厳しくなるのか」その背景を簡単に説明してみた。

新型コロナ感染防止のための全国的な休校方針で、学校給食にかかわる業者が悲鳴をあげているというニュースを見た。ざっくりというと給食向けの食材がキャンセルされて困っているという話だ。引用は牛乳だが給食に使う食材はほぼ同じような状況と推測される。

www.agrinews.co.jp

食材ロスの観点からはもちろん業者の死活問題なので、給食以外での活用が望まれるが、なかなかうまくいっていないようだ。その理由として学校給食というボリューム(受け入れ場所がない)、生鮮食品特有のリミット(消費期限)があげられているが、近年の学校給食ならではの「背景」については指摘されていないようだ。そこで、元給食営業マンとして学校給食の営業を担当した経験をもつ僕が、その背景にフォーカスして、なぜ学校給食が厳しいのか解説してみたい。

理由1「地産地消」 なぜ、学校給食用の食材がキャンセルされて困るのか。その理由は簡単で「他の販路を確立していないから」だ。たとえば学校給食専門(または高い比率で取り扱っている)食材業者は、取扱いボリュームもあり、かつ、安定し確実な売上を見込めるために、特に地元の小規模な事業者などは、学校給食以外に販路をつくる必要がなかった。それだけで食べていけるからだ。学校給食用の食材を確保するだけで大変な労力がかかるため、販路を拡販する余裕がなかった可能性もある。学校給食に使用する食材は、大ボリュームかつ安定してオイシイ仕事であるが、今回のように給食が停止してしまうとと、販路がないうえ、そのボリュームゆえ他にもっていきようがない、生鮮食材は工業製品のように急に生産をとめられない、という事態に陥る。これまでの強みが弱みに一転してしまうのだ。

ではなぜ地元の中小規模の事業者が給食食材を取り扱うようになっているのか(大手も取り扱っているけれど)、それは、ここ数年、国が主導してきた給食の地産地消方針が背景にある。地産地消とは地元、地場食材は地場で消費しようという取り組みと考え方である。学校給食にも採りいれられていて、たとえば、「第3次食育推進基本計画」の中では、学校給食での地場産物の使用割合(食材ベース)を、平成32年度までに全国平均で30%以上にするとしている。食育基本法・食育推進基本計画等:農林水産省

実は第2次基本計画の目標も「30%以上」であったのだが、未達だったために第3次計画に目標が繰り越されている(平成24年度から25%前後でほぼ横ばい)。ざっくりいうと国が学校給食で地産地消を推進してきており、その比率は上がっているということ。平成16年度は21%程度なのでその比率は上がっているのは明らかだ。一見すると低い数値に見えるが、それは消費地である東京や大阪を含めての全国平均の数値となっているためであり、生産地では高くなっている。たとえば代表的な生産地である北海道では70%と全国目標の30%を大きく越えている.

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/data/deep/file/H26-6.pdf

地産地消を推進して地場食材を活用するためには、地域にある中小規模の業者を活用せざるをえない(地域振興にもなる)。そしてそれらの業者は先に述べたように、給食だけで食べていけるため、他に販路がなく行き詰まってしまう。大手に比べれば体力もない。今回のような事態になると、在庫の山と廃棄コストを前に悲鳴をあげてしまう。

理由その2「地産地消の解決策」もうひとつ、地産地消を推進するとともに、それがかなわない地域もあるため、「国内生産品」も推奨していることもその背景にある。先の第3次計画では地場産物の使用割合目標とともに国内生産率80%以上を掲げている(現状は77%程度)。ざっくりいうと、地産地消を推進しているが、地域の事情でそれがかなわない場合は、国内生産率を高めていこうという施策を推進してきたということ。

その結果、生産地と呼ばれる地域に対する全国からの学校給食食材の依存が高まり、それに応えようとする生産地にある食材業者は、地域だけでなく全国からの給食に食材提供をおこなうようになっていた。この状況下で、全国の休校要請にともなって給食食材のキャンセルがきたら…残るのは地域で消費できるボリュームをはるかにこえた食材と迫りくる消費期限だけである。

僕がネットでニュースを確認した範囲では、今回の騒動で悲鳴をあげている業者はほぼ生産地の業者だ。いわゆる生産地の、全国からの学校給食を受けている食材業者にとっては、質とボリュームを確保するだけで学校給食以外の販路を開発する余裕もなかったのではないか。限定されたエリアだけの休校措置ならばともかく、全国的な休校措置によって、全国からのキャンセルに対応できないのは、経営努力というレベルを超えた事態であり、悲劇である。もちろん、余ってしまった給食用食材を即売会などで売るという試みも大事であるが、民間だけでなく、施策を進めてきた国も対応するべきだろう。感染者のいない自治体の給食だけは実施するとか、給食をこども食堂的に使うとか、いろいろ出来ることはあるし、こういうときにしか出来ない「食育」を示すのも、大切なことではないかと僕は思うのだ。(所要時間30分)