Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

岩田健太郎著『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』は、究極の「いつ読むか?今でしょ!」本である。

岩田健太郎医師の著作。僕は、ガチガチの文系で、ウイルスの知識がほとんどないまま、誤魔化し誤魔化しで46歳の今日まで生きてきたけれども、昨今の社会情勢からウイルスの基本的な知識がないとさすがに厳しい…となってきたところで手に取ってみたのが本書である。内容はウイルス(の知識)について、ではなく、感染症に係るリスク・コミュニケーションについての著者の経験をまとめたものであった。望んだものではなかったが、結果的に読んでよかった。望んだもの以上であった。まさに、今、読むべき本といえる。

本書のテーマは「リスク・コミュニケーションを効果的に行うために必要なこと」である。リスク・コミュニケーションとは社会的なリスクに関する情報を、関係主体間で共有、意思疎通を図ること(かな)。はっきりいってわかりにくい。著者は自身の経験から、うまくいったケースとうまくいかなかったケースを例に出し、これを分かりやすく説明してくれる。数年前の著作であるが、たとえば「些末な情報にとらわれないようにする」「数字の評価は客観的ではなく、主観、クオリアを含んだ情報としてみるようにする」としている。これは今まさに僕らが直面している新型コロナ感染において、ワイドショーでおこなわれているような患者数の速報とどう向き合えばいいのかを示唆している。面白いと思ったのは、情報を発信する側、たとえば会見をする側の目線から具体的に書かれているところだ。ほとんどの一般人にとって、感染症について発信する側(コミュニケーター)になることはない。だが本書では、発信者側から、先ほどのような数値情報を出す場合いには「あえて主観的な情報をまじえて伝えたほうがいい」「スティグマ、偏見はよくないが自分にもあるという意識をもって臨むようにする」と語っている。なぜか。それは本書のテーマである、効果的なリスク・コミュニケーションは、発信する側と受信する側の相互理解が前提になっており、発信者側の立場や考え方を受信者側も知っていたほうが、より効果が出るからだという著者の考えのあらわれだろう。特に、リスクが感染症のような目にみえない恐怖をともなうものの場合、リスク・コミュニケーションの失敗はパニックにつながる可能性がある。そのためにはリスク・コミュニケーションは「効果的に」おこない、必ず、結果を出さなければならない。その前提条件となる良い関係性は無視できないということだ。また、本書を通じて根底にあるのは、既存の知識の枠外にあることは心配しないとする態度の危険性である。その態度がこれまでリスク・コミュニケーションのうえでどれだけ障害になったのか、著者は警告をしている。いうまでもなくリスク・コミュニケーションは相互理解と意思疎通のツール、手段にすぎない。ツールは目的に対して効果的でなければならない。本書はその当たり前だが忘れがちなことを思い出させてくれる。

今、新型コロナについての情報に触れる機会は多い。感染症の専門家でなくても「その情報がはたして効果的になされているのか?」という観点をもつことだけでも、「え!4月9日の東京の感染者180人以上ヤバい!」とプチ・パニックに陥る可能性は低くなるのではないかと思った。リスクや感染症にかぎらず、コミュニケーションを効果的におこなうためには?について実に参考になる本。繰り返すけれど、今読まずしていつ読むの?な本。余談だが、例のクルーズ船の岩田先生の告発の際に、彼が僕のツイッターをフォローしてくれているのを知って驚いた。毎日くだらないツイートでタイムラインを汚してすみません…(私信)。(所要時間28分)