西日本を中心に学校や寮で食事の提供が停止する事態が起きている。運営会社は広島市に本店のある給食会社ホーユー。ホーユーの名はコンペで何回か見かけたことがある。詳しくは知らない。
給食事業はリターンも少ないけれどもリスクも少ないビジネスだ。給食設備や用具や食器をクライアント側の負担で事業が行えるからだ。ひとことでいってしまえば経費負担が軽いのだ。食材費は実費、人件費も委託費でカバーできる。「莫大な利益が出せるか?」といわれると案件次第だが、一事業所当たりで赤字になるリスクはとても少ない事業である。
そのため、近く破産申告するとみられるホーユーの社長が人件費や食材費の高騰を理由に上げているのを知って「妙だな…」とコナン君のように疑ったのがこの文章を書いた表向きの理由である。なお裏向きの理由は奥様からの「あなたの会社は大丈夫なのか」という不安を取り除くためである。
一般的に公立の学校給食や寮食事提供の業者は入札で決まる。入札金額は契約期間内の運営費(人件費+経費+利益)の合計額である(食材費は実費)。参考までに入札ではないけれども、たまたま僕が先月60食規模平日昼食のみの某食堂の委託費見積を提出したときの算出金額を出してみる。社員月30万1名とパート2名体制で、経費と利益を込みで月90万円台。この金額ならば確保できて人件費が枠内でおさまればたとえ食数が1日1食でも運営できる。食材費は1食当たりの単価内でおさめればいい。ローリスクでしょ。
正常に入札と落札が行われていれば給食事業はローリスクで破産するような事態には陥らないのだ。ところが事業所をゲットしたいがために滅茶苦茶なことをする会社も存在するのだ。一番酷いケースが20年近く前に某地方の官公庁関係の寮の食事提供業務である。僕は前提条件をふまえたうえで人件費や経費を算出して入札金額を算出した。具体的な金額は忘れてしまったが、年で1千万は余裕でこえていたと思う。失注した。現行の会社が落札した。落札金額をみてびっくりした。12万円だったからだ。月ではなく年額だ。月1万円。ありえない。からくりはこうだ。寮の食事単価は高めに設定されていた。朝食と夕食の提供だった。定員×食事単価の売上が約束されていて、食べても食べなくても、売上は確保されていた。100名定員で朝夕2回の食事提供でそれぞれ単価500円で月25日営業なら250万の売上。喫食率が50%なら売上の半分125万が利益になる。その寮は長く運営していて(例よりも大きな規模だった)、特に朝食の喫食率がめちゃくちゃ低くなっていたため(30%くらいだったと記憶)、最初から30%しか調理せず本来食材費であるべきの残り70%をそのまま利益にすることができていた。そのため月1万円で入札することができたという話だった。こういった事情は外部に漏れないので現行既存業者の運営が続くのである。
大昔の話なので、今はこういうビジネスモデルは成立しないだろう。だが本来100%をかけるべき食材費から利益を確保することで、入札金額を圧縮して思い切り低く下げる方法は今も生きている。ただ昨今の想定をこえる食材費の高騰で、食材から利益を確保できなくなったら、この方法では人件費の確保もままなくなるはずだ。その人件費も最低賃金の大幅なアップで上がる一方だ。
入札金額のからくりをざっくりと図にまとめてみた。
①がまっとうな給食業務の入札金額の算出方法 ②が食材から利益を確保して入札金額を圧縮する方法。②は食材が高騰した場合に一気に経営が苦しくなる。
ホーユーの落札金額を調べてみた。
残念ながら入札から時間が経過していて元のドキュメントが読めなくなっているけれども、どれも低い金額で落札していることがよくわかる。おそらく先述の方法で金額を算出して落札していたのではないか。それでも運営がうまくいっていれば問題はなかったのだが。
たとえば、小野田高等学校定時制給食調理業務 一式は4月から1月までで1,437,600円。月当たり14万円。生徒数が10数人の小規模な食堂だとしても14万円では社員は配置できない。パート1名でも利益確保はギリギリだろう。山口県の最低賃金が888円。5時間×20日でも88,800円(直接人件費)。社会保険等間接人件費と運営経費が出るかどうかでは(しかもこの試算は最低賃金)だ。薄利だ。なお、落札予定価格が1,437,625円で25円差のニアピンなのが奇跡的である。同様に、令和4年度 光高等学校定時制給食業務 一式は落札金額1,800,000円(落札予定価額は2,280,000円)。月額15万円。現場利益がギリギリ確保できても本社運営費や販促費を出す余裕はない。
こうした薄利運営がホーユーという会社の運営方法なのだろう。昨今、飲食業界は調理師スタッフの確保に苦労している。僕の勤める会社でも調理師人材の確保に苦戦している。もし、上記の高校に配属する調理師パートを見つけられなかったら?時給を上げる。社員を雇用する。ということになる。月当たり14万15万という委託費ではカバーできなくなる。そこで食材費高騰である。食材費からの利益確保もできなくなっている。苦しくなる一方だ。そういったことの積み重ねが慢性的な赤字経営につながって、今回の騒動となったのではないか。
これらの根底には発注する側の「安くやってくれる業者ならそれでいい」精神がある。普通に考えれば社員も配置できない月十数万円の金額で給食運営なんてできないでしょ?だから今回の騒動はホーユーのずさんな経営と運営が主犯だけれども、そういう運営を入札という方法で求めた人たちも同じようによろしくないのである。(所要時間45分)