Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

親と縁を切ることにした。

親と縁を切ることを決めた。父は故人なので、ここでの親は「母」を意味している。50年前、へその緒をチョキっと切ったにもかかわらず、惰性で続いていた母との縁をこのたびめでたく切ることになったのである。「帰ったよ」「何しに来たの?」この頃の僕らといったらいつもこんな調子だった。離婚原因のベスト10第1位は「性格の不一致」といわれる。夫婦関係の破綻と親子関係の破綻とを一緒くたにするのはやや乱暴なのは承知のうえで言わせていただくと、このたびの縁切りにおいて、性格の不一致は決定的な一打ではないと断言できる。なぜなら、性格が酷似している母と僕の関係において、意見の不一致や衝突、無視はこれまでもあったからだ。実の母親を悪く言いたくはないが「性格悪っ!こんな人物に育てられた子供は反社会的な人物かロックローラーになって秩序を乱すだろう」と思ったことは星の数ほどある。

原因は金である。ゴールドではなくマネー。母は数年前から仲間と商売をやっている。特定を避けるためにぼかすが、中高年女性向け服飾品の通販事業を細々と続けている。事業を立ち上げるときに母から「いっちょ乗らない?」と声をかけられ金を貸した。その後も事業を拡大するたびに金を貸した。金はⅯ資金から捻出した。結婚数日前に飲み仲間から「悪いことはいわない。今のウチに自由に使える金を別に確保しておきなさい。結婚すれば尻の毛まで抜かれる。今しかない」と教えられて急遽口座を開設して貯金の一部を退避させておいた通称M資金(余談だがⅯはマゾのⅯである)。就職から40歳近くまでこつこつ貯めてきた貯金なので一部とはいえそれなりの額があった。僕は母から請われるたびにそこから金を出していた。そしてまだ一回も返済されていない。事業は順調なのに、おかしい。借用書は書かせなかった。猜疑心の強い僕はその都度、借用書を書かせようとした。だが「親の言うことを信じられないのか。情けない」と涙をたたえて訴える母の目を見た途端、情愛を感じ、彼女を信じた。そして裏切られてきた。

昨年の春。母から「金を貸してくれ」と請われた。事業拡大に打って出るとのこと。年内の返済を約束させて貸した。借用書を求めたが例によって涙をたたえた瞳に押し切られてしまう優しい僕。ところが約束の期限である年末になっても反応はなかった。元旦に実家を訪問した際も母は大河ドラマの総括、大ファンだった伊集院静さんへのお悔み、富山県在住の親族への恨み節等々クソどうでもいい話題を続けるので、痴呆症の初期症状を疑いつつ、「返済の件だけど」と切り出したところ母は「ああ。忘れたわけではないのよ~。返せないから言わないだけなの~」と体をくねらせながらクソ理屈を投げつけてきた。Ⅿの僕でもさすがに頭に来た。返せないなら返せないと期限までに伝えるのが約束ってものでしょう。人の親として恥ずかしくないのか。言いたいことを言わせてもらった。

伏線があった。昨年、金を貸すときに「僕ばかりではなく、たまにはアイツ(弟)にも頼んでみたらどうだ?そのほうが大きな金額になるでしょ」という僕の提案に母は「あの子に頼めるわけないじゃない~」と体をくねらせながら答えた。クネクネして不気味な生物の前で僕は満たされていた。長男ゆえに頼りにされていると思ったのだ。頼りになるザ・長男、中間管理職。僕>弟。違った。今振り返れば、僕を頼っていたわけではなく、大事な大切な弟に迷惑をかけたくないという母の気持ちのあらわれであった。弟>僕スタンス。母には迷惑をかけているという感覚はない。当然だと思っている。子供なら、長男なら、当たり前でしょ。ポーズでも、嘘でもいい。弟に打診したけれど断られてしまったとか言ってくれたり、返済が遅れると教えてくれていたら…「仕方ないなー」のひとことで終わらせていた。僕に対する気配りが1ミリもないのがムカつくのだ。母には感謝している。母は獅子だった。獅子である母は僕を崖の下に突き落とした。強いオスにするために。だが、僕は獅子の子ではなくミジンコだったのだ。

縁を切ろう。法学部の学生だったときに、親子の縁を切る際には何の手続きもいらないことは確認済である。つかこれ以上は無理。無理無理無理。僕が自由につかえる金(Ⅿ資金)がは尽きてしまう。資金をのぞけば月1万9千円のこづかいしかない僕は支援する側の人間ではない。縁を切るぞ。さもなくば返済しろ。はっきりと言葉にする。このままではお互いに不幸だ。僕は決意を固めた。すると母の方から「縁を切りましょう。金の切れ目が縁の切れ目。お金もチャラでいいわね。これまでありがとね~」と言ってきた。Pardon?今、なんと。返り討ち。切るつもりが切られるとは。全額返済されるまでは縁が切れないことに僕は気が付いた。Ⅿ資金は僕の老後に備えた蓄えである。このままでは尻の毛も火葬できなくなる。死ぬ。僕は金を人質にされている。母との縁を切るとき、金の切れ目は、全額返済されたときしかありえない。垂れ流しの地獄は続く。(所要時間35分)