Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

単行本『ドラミちゃん』「しずちゃんの入浴オチ」はないけど最高でした。

単行本『ドラミちゃん』、最高だった。最初にいっておくと僕はドラえもんの熱心ファンではない。小学生の頃、コロコロコミックの連載を読み、大長編ドラえもんの特別連載を毎年心待ちにして、今も実家の本棚にはてんとう虫コミックが揃っている、その程度のファンだ。グッズを追い求めるとか聖地巡礼をするようなマニアではない。そんな僕でも単行本『ドラミちゃん』は最高の読書体験だった。ドラミちゃんワールドが1冊にまとまっているのがとても良かった。しかも240ページの大ボリューム。最高。

ドラミちゃんはF先生の変化球だ。ドラミちゃんというドラえもんとは性格の違うキャラクターを本来ドラえもんのいるポジションに配置して、物語に変化を与えている。アニメ版でよくある優等生なドラミちゃんがのび太の面倒をそつなくこなしてドラえもんが嫉妬するエピソードがその代表だ。マンネリ回避というよりは、たまに投げる変化球を楽しんでいたように見える。初期ドラミちゃんの、キャラが安定していないところも地味に見どころだ。

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(「ドラえもんの妹」設定に必要以上に説得力を持たせるビジュアル)

 

ドラミちゃんの話には2つのパターンがある。ドラえもんの物語の中にドラミちゃんが登場するパターンと、端からドラミちゃんが主役のパターンだ。ドラミ主役話を読んでいると、ドラえもんの原作を読んだことのない非国民の方が読んでも何ともいえない違和感を覚えるはずだ。低い感性の方でも読み進めているうちに、「これはドラえもんの世界じゃない!」と気づくだろう。少々ドラえもんに詳しいセンスある人のあいだでは常識なのだけれどドラミ主役話は、いわば、ドラえもんワールドのパラレルワールドなのである。

ドラミ主役話のいくつかは異なる連載誌に掲載されていたもので(特に『小学生ブック』に連載されていた回は後述のズル木が登場するぶんパラレルワールド感が強い)、修正をほどこしてドラえもん単行本に収録している。大人の事情により完全な修正がおこなわれなかったため、それが違和感に繋がっている(そのあたりの事情はこのサイトが詳しい→君はズル木を知っているか。ドラえもんマニアには常識、のび太郎とカバ田とみよちゃん:ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊!!):SSブログ

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(ジェネリック・スネ夫、小さいジャイアン、違和感しかない一コマ。パラレル!)


のび太っぽい主人公は「のび太郎」、ジャイアン=「カバ田」、しずかちゃん=「みよちゃん」、スネ夫=「ズル木」である。のび太郎は見た目がのび太なので無修正、カバ田とみよちゃんは修正でドラえもん世界との整合性をはかっている。しずかちゃんに修正されたしずかちゃんそっくりなみよちゃんに、「みよちゃん」と呼ぶのび太っぽいのび太郎。うん。意味がわからない。でもそれが面白い。

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(この数コマだけでも哀しい…。そして突然登場の「みよちゃん」の名前。ここではズル木ではなくスネ夫だ。パラレル!)

 

それにしてもF先生はときどきいい加減なネーミングをするものだ。「のび太郎」って。天才の仕事だ。なお、ズル木については修正をあきらめて、スネ夫への修正がなされずにしれっとズル木で出ている。本書に収録された話でも、ズル木でいくかと思いきや、別の話ではスネ夫が出ていたりする。そしてズル木とスネ夫の共演はない。なおスネ夫はよく知っているキャラで憎めない面もあるのを僕らは知っているけれど、ズル木は登場回数が少なく良い面が描かれていないので単にズルい奴なのがいい。ズル木はズルくて嫌なやつ。そのままでわかりやすい。ジェネリック・スネ夫ことズル木の扱いがひどくて最高。

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(ただのズルい男、ズル木。ドラえもん正史から消された哀しいキャラだ)

 

このようにドラえもんの世界観とドラミちゃんの世界観とのあいだでときどき見られる整合性の取れてなさを一冊で楽しめるのが単行本『ドラミちゃん』の魅力だ。ドラえもん単行本に点在して収録されたために薄まっていた整合性の取れてなさが、ドラミちゃんでくくられているぶん特濃で味わえる。整合性を気にしない、ロックなスタンス。今なら生成AIで修正できてしまいそうだが、あえてその雑さを残しているのがいい。

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(パパかと思ったら、お前誰やねん。パラレル!)

 

あと、ドラミちゃんが女の子だからだろうね、しずかちゃんのお風呂オチが見られないのでその点について過剰に反応しそうなネットのとある層にもおすすめできる。なお、長期にわたって描かれた『ドラえもん』だがドラミちゃんの登場回は23回しかない(らしい)。思ったよりも少なく感じるのはドラミちゃんというキャラクターのインパクトが大きいからだろうね。その中でも「海底ハイキング」「ネッシーがくる」「ガンファイターのび太」は名エピソードなのでぜひ読んでほしい。なお、紙書籍にはドラミちゃんシールが付いてくるよ。(所要時間30分)