Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・戦国群雄伝 または私は如何にしてお見合い相手を銀河の果てで抱きしめたか


 来月は結納らしい。誰の結納って僕の。ユーノー?アイドンノー。僕の知らないところで進行している結納について教えてもらうために彼女と会うことになった。って前提がそもそもおかしい。その、待ち合わせの焼き鳥屋で待ちながら僕は考えていた。もし彼女の乳首が陥没乳首だったなら、と。もし見事に陥没していたなら、EDを患っている僕が常日頃彼女に対して思っているうしろめたい気持ちは緩和され、強く意見することが出来、多少不自由のある身体をもつ者同士いたわりあいながら生きていけるのではないだろうか、と。

 「お待たせですうー」彼女があらわれた。アニメ、世界名作劇場の「小公女セーラ」「赤毛のアン」の登場人物が着ていたような寝間着に似たハレンチな白いトップスを第一ボタンまであけ、黒ニーソという出で立ちであらわれた彼女は僕のお見合い相手のシノさん(26)で、戦国時代好き西軍派、趣味コスプレ、レイヤーとしての名前はノッピー☆


 シノさんに説明を求めた。話によると、劇場版戦国BASARA6月4日出撃!にあわせて両家の人々が集まり、映画を鑑賞し、その後食事という段取り、店の予約オッケー、らしい。「聖麗院さまに誓って、万事ぬかりなしですうー」。セイレイイン?アニメのキャラか?中ジョッキ追加。「いやー悪いね。僕の知らないところでそこまで準備してもらってワリーワリー」「とんでもないですうー」「ってそんなわけないっしょフツー。こういうことは当事者同士でよく話しあってですねー」「連絡したじゃないですかあ。酔っ払って忘れちゃったのですかあ」うぐ。そうなのか。中ジョッキ追加。


 「つーかですね、ご存知のとおり3月に祖父が亡くなってですね」「おじいちゃま…」「そんな2011年にですね、僕ひとりが幸せになっちゃいけないのですよ。喪中なのですよ」。モチュー…とつぶやいてシノさんは大人しくなった。中ジョッキ追加。ビールが美味しい季節になりましたね。


 シノさんがいう。「信長様がいうには人生は50年ですよ。40歳のオヤカタサマの命はあと10年ほどですう〜よよよ〜」「まだ37だから!」中ジョッキ追加。ビールって苦いんですね。「100年生きたおじいちゃまなら喪中に40歳オヤカタサマが戦国BASARAを観にいっても何も文句はいわないと思うのですうー」「37だから!だからね、僕一人が、ですね…」「一人じゃなくて家族みんなでBASARA〜」中ジョッキ追加。


 「えーと、えーと」当惑し鳥皮をいじっている僕に、「皮イジリばかりしてないで」とシノさんは鼻息荒く、いやでもしかし「皮イジリ」という単語に過剰に反応してしまったら、余計な皮を毎晩いじっているような誤解されるかもしれない、それは嫌だなあ、って無視を決めこんでいると、「皮からオテテを離して話をきいて!」と大声。すぐあとにどーんという衝撃。シノさんは高まると机を叩く。どーん。こぼれるビール。


 シノさんはつづけた。「単騎でも敵陣に突進するのが軍神上杉謙信様、真の武士というものですうー」「川中島合戦ですね。越後の龍と甲斐の虎」何がいいたいかわからないが話をあわせる。キャバクラで学んだ僕の生きる道。「しかし突進の途中で狐に気をとられた謙信様は愛馬・黒王号から落馬して死んじゃうのですうー」「なんですか、それ」中ジョッキ追加。「キャンディ・キャンディですうー。よよよー」「はあ…」「悲しんだ信玄公が山梨名物《ほうとう》を食したあとで謙信様に口づけすると生き返りました。めでたしめでたし」「なんすか、それ」


 「高校生のときに書いた同人です!」「いいはなしだなあ」「まだ続きがあります」あるのかよ…勘弁…。「後日、信玄公のほうとうに塩気が足りないと思った謙信様は甲斐の国に塩を送ったとさ…」敵に塩をおくる…。「現実っぽい話で締めましたね。ところでシノさん、こういっちゃなんですが…」「なんですかあ?」「今の話、ナニが言いたいのかさっぱりなんだけど」「んん〜」「中ジョッキいそいで」ナニアノオッサンムカつくというような表情で店員が舌打ちをするのが聞こえた。


 「つまりですねーあまり結果を考えずに行動したほうがいいんじゃないですかあ、ということです」「そうっすか」「あとですねえ。聖麗院様にもお話したのですが」「何、何よ?」話の先も気になるがセイレイインて何だ。新手の教祖か。シノさんは大きく息を吸い込んだ。Eカップの胸を、Gカップ程度までだろうか、若干、膨らませると、両の手でテーブルの端をがしがしつかんで僕の方に顔をぐっと乗り出して、それから大きな声で言った。


「キミが何を考えているかわかんない!」


 めんどくせー。僕は途方に暮れて天井を仰いだ。天井には、お酒のお供に天丼はいかがですか、と書かれた能天気なポスターが貼ってあった。中ジョッキ、いや、大ジョッキ追加。道を挟んだ向こうにあるファーストフードの店内にいる人たちの瞳には、呆けた顔で口を半開きにして恍惚の眼差しで天を仰いでいる僕と、まるで僕にのしかかるようにして、ねえわかんない、どう思っているの、と言うにあわせて頭を上下に振っているシノさんの姿はどう映っているだろう。性的なサービスを受けている客と風俗嬢。情夫とその陰茎を切り取ろうとする鬼女。情夫がインポでも阿部定は切断しただろうか。僕は、そんなどうでもいいことを考えていた。僕はいつも肝心なときに必要な言葉を見つけられない。でも。だけど。言わないと。めんどくせーけど。


「失礼ながら、シノさんの目は節穴でございますか?」「ギャー!シツジー!コクハクー!オヤカタサマー!」


 聖麗院は僕の母親のことだった。母みずから聖麗院と呼ぶように頼み、シノさんとはノッピー☆、セイレイたん、の仲だそうで、最近は同居の話題でもちきりらしい。手を握ったこともないお見合い相手と母親との同居、明日はどっちだ。


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